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起業家や中小企業経営者にとって、日本政策金融公庫からの融資は、代表的な資金調達方法です。
融資を申し込む場合には、多くの場合、創業計画書や事業計画書を作成する必要があります。創業計画書や事業計画書を作成する際におさえておきたいことをケース別にまとめました。
第1章 日本政策金融公庫から融資を受けるメリット
「資金調達は、まずコッキン(日本政策金融公庫はかつて国民生活金融公庫という名前だったためこう呼ばれることがあります)」と言われるように、事業者が日本政策金融公庫から融資を受けるメリットは多いです。
民間の金融機関の違いと、日本政策金融公庫を利用するメリットについてまとめました。
(1)民間の金融機関との違い
上場企業には融資ができない中小企業のための金融機関
日本政策金融公庫は政府が100%出資している政府系の金融機関です。よって、日本政策金融公庫は、民間の金融機関とは異なり、「中小企業を支えるため」という政策目的があります。そのため、上場企業には融資をすることができません。
特に、民間の金融機関ではなかなか借りられない小さな企業のためにあるものなので、融資先の大半が、従業員10人未満の企業・個人事業者です。
世の中のセーフティネット的存在
日本政策金融公庫は、災害やリーマン・ショックなどの経済的な危機があったときにとても活躍します。中小企業を支えるという目的に添い、不測の事態が起こったら、直ちに特別相談窓口を設置し、影響を受けた企業や個人事業者からの融資や返済条件の緩和などにも応じています。「困ったときの日本政策金融公庫」といっても過言ではありません。
また、経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)という融資商品があり、社会的・経済的環境の変化で一時的に業績が良くない場合でも、融資を受けられることがあります。
(2)日本政策金融機関から融資を受けるメリット
(1)で解説したように、困ったときに助けてもらいやすいという面以外にも、日本政策金融公庫だから受けられるメリットがあります。
信用保証料がかからない
民間金融機関で融資を受ける場合、信用保証協会の保証を受けて融資を受ける場合があります。この場合、信用保証料がかかることになります。信用保証協会の保証を受けることで、信用力に乏しい企業でも融資を受けられるのが保証の機能ですが、その見返りとしての保証料は、利息の他にかかるコストになります。
一方で日本政策金融公庫からの融資には、保証協会から保証を受けるという考え方がないため、保証料がかかりません。
経営者連帯保証が要らない場合もある
必ずそうなるわけではありませんが、会社が返済できなくなったときに経営者が個人資産で弁済しないといけなくなる経営者連帯保証が不要になる場合があります。
最近では、「経営者保証ガイドライン」が徐々に普及し、民間金融機関でも経営者連帯保証が要らないケースも見受けられますが、どちらかというと日本政策金融公庫で経営者保連帯証なしになるケースの方が多いように思います。
新しく創業する方の融資に立ち合いましたが、経営者の連帯保証なしで創業資金の融資を受けることができました。
金利が低めである
民間金融機関と比較し、金利が低い場合が多いようです。また、信用保証料がかからないため、資金調達コストを低く抑えることができます。
日本政策金融公庫で融資を受けると他の金融公庫からも借りやすくなる
日本政策金融公庫で融資を受ける実績により、他の金融機関からも借りやすくなるというメリットがあります。また、日本政策金融公庫は、他の民間金融機関と協調した融資商品を作っており、民間金融機関と連携して中小企業を支援していくという姿勢を持っています。
返済した分の折り返し融資を受けることができる
融資を受け、既に返済した金額の融資を再度受けることが可能です。既に返済実績のある企業に融資することになるので、審査は簡単に済みます。一度日本政策金融公庫から融資を受けておくと、返済が進むにつれて使えるようになる資金調達の方法です。
創業時に特に借りやすい
「創業時の資金調達といえば、日本政策金融公庫」というくらい、創業するときの資金調達手段としてメジャーな方法です。
創業支援に力を入れている民間金融機関は多くなく、審査も厳しめです。一方で、日本政策金融公庫は、長年創業融資に力を入れています。創業希望者はまずは日本政策金融公庫からの融資を受けたいところ。創業に必要な資金の10分の1は自己資金を準備しておく必要があるので、ご注意ください。
(3)第1章のまとめ
このように、日本政策金融公庫からの融資は、様々なメリットがあります。第2章では、融資をうけるケース別に、事業計画書をはじめとした必要となる書類と書き方のポイントについて解説します。
第2章 ケース別 事業計画書のテンプレートと書き方
(1)創業融資を申し込む場合
一番多いケースがこちらだと思います。創業融資を申し込む場合は、数ある融資制度のうち、新規開業資金や女性、若者/シニア起業家支援資金などの融資制度が使えます。
必要となる書類
借入申込書
創業計画書
※創業後、1度でも決算・確定申告が済んでいる場合は、決算書・確定申告書が必要となります。
設備資金の申込みの場合は見積書
法人の場合、履歴事項全部証明書または登記簿謄本
創業計画書の記載ポイント
創業計画書は、融資を受けることも含めて、事業をどのように展開していくかをまとめたものです。決して、税理士やコンサルタントに丸投げせずに、作ってみてください。
記載のポイントを挙げます。(日本政策金融公庫ページの記入例を表示して解説します。)
1.創業の動機
ここには、なぜ創業しようと考えたのか、そのきっかけと理由を記載します。多くの方は「いい物件が見つかったため」ときっかけのみを記載しますが、それでは不十分だと思います。なぜ、その仕事で創業しようと思ったのか、自分の中に起こった強い動機があるはずです。
なぜ、そこまでして創業するのか、何を実現させたいのかを言語化しておくとよいと思います。創業は大変なことの連続ですから、それでもやっぱりやり続けるんだというモチベーションにもなるはずです。創業計画書をつくることをきっかけに、一度言語化してみてはいかがでしょうか。
2.経営者の略歴等
ここには、創業に至ったこれまでの経歴を記載します。審査する側がここでみたいのは、この事業をする正当性があるのかどうか、十分に経験を積んできたのかどうか、ということです。そのため、「担当業務や役職、身につけた技能等についても記載してください」とあります。
ですから、ここでは単に、どこで何年働いたという経歴だけでなく、どんなスキルを身につけて、どんな経験をしてきたのかを、創業する事業につながるように記載することがポイントです。
3.取扱商品・サービス
ここでは、どんな商品やサービスを扱い、それを通して、どんな価値を誰に、どのように展開して提供するのか、また、競合やマーケットの状況から、どのようにお客様を獲得していくのかをまとめます。
「取り扱い・サービスの内容」
ここには、提供する商品やサービスをわかりやすくまとめます。代表的な商品やメニューを価格とともに記載します。
「セールスポイント」
なぜ、自社がお客様に選ばれるのかという理由をまとめます。商品やメニューの機能だけでなく、お客様が感じる価値を、誰が読んでもわかるように記載することがポイントです。
「販売ターゲット・販売戦略」
誰をお客様とするのか、そして、どのようにそのお客様に知ってもらい、購入してもらうのか、固定客になってもらうのかを記載します。
この見本では、口コミなどでと記載していますが、実際に作成するときは、購買決定のプロセスAIDMA(Attention-知ってもらう、Interest-興味を持ってもらう、Desire-ほしいと思ってもらう、Memoryー思い出してもらう、Action-行動してもらう)に応じた具体的なプロモーション戦略を考えるのがよいと思います。
もっと言えば、創業時点で見込客がある程度確保できていることが望ましいです。実際にお客様になり得る人や会社に事前にヒアリングできていることがベストです。
「競合・市場など企業を取り巻く状況」
自社の商品やサービスがどれだけよいものであっても、競合他社が多くて参入の余地がなかったり、そもそもマーケットがなければ、事業として継続できません。競合他社がどこで、その会社と自社はどう違うのか、また、自社のマーケットはどのくらいの規模感なのか、商圏はどこなのか、顧客の獲得のしかたはどうか、などをまとめます。
その中でも勝算がどのくらいあるのか、選ばれる勝率をあげるために何をするのかも考えておくことが大切です。
4.取引先・取引関係等
ここでは、どのような商流で事業をしていくのかを説明します。具体的には、販売先、仕入先、外注先と、決済期日の約定や決済方法について記載します。ここで、金融機関側が把握したいのは、お金の流れです。また、創業にあたり、あらかじめお金の流れを把握しておいてほしいという願いもあるようです。
ここで大切なのは、確からしさです。例えば、販売先が未定だとおぼつかない計画に見えてしまいます。どのくらいの顧客が確保できていて、見込み先はどのくらいあるのかも書くことができるとよいでしょう。
仕入や外注については、契約書や注文書など、実際に取引ができる信ぴょう性を高めておく必要もあると思います。
5.従業員
従業員を雇うかどうかも創業計画には大きな事項となります。雇用する予定の従業員について書いておきましょう。
6.お借入の状況
どのくらい借りることができるかは、法人の場合は代表者個人、個人事業者の場合は事業主本人の信用力が影響することがあります。
事業の関係あるなしに関わらず、住宅ローンや車のローン、奨学金などについても記載する必要があります。
7.必要な資金と調達方法
創業にあたり必要となる資金とその調達方法をまとめます。
必要となる資金には、内装や機械、什器等の設備だけでなく、物件を借りるときの保証金や、開業前にかかる家賃や諸経費、広告代なども含まれます。また、軌道に乗るまでの固定費も必要となる資金に入れる必要があるでしょう。
これらを漏れなく左側に集計することが必要です。
調達方法としては、自己資金や身内からの借入、そして日本政策金融公庫や他の民間金融機関からの借入、そして、この事例には書かれていませんが、軌道に乗るまでの売上の見込みなどが挙げられます。
まずは、左側に必要な資金を記載し、それから、右側に調達方法をその金額をまとめるとよいでしょう。
ここで注意したいのは、自己資金の割合です。創業で必要となる資金のうち、10分の1は自己資金で賄う必要があります。自己資金の割合が10分の1未満になってしまう場合は、必要な資金を見直す必要があります。
創業後の経営を考えると自己資金は多い方が安全です。これから創業をお考えの方は、一度創業計画書を簡単でいいので作成してみて、いくらの自己資金が必要なのかのあたりをつけておくとよいと思います。
創業にあたっては、コツコツと貯蓄をしてきたことが信用になりますので、目標の自己資金が決まったら、計画的にお金を貯めるようにしておきましょう。
8.事業の見通し(月平均)
ここでは、創業当初から軌道に乗ったあとの数値計画を記載します。金融機関側は、この箇所で、この事業でいくらの利益が獲得できて、返済が順調にできるのかどうか、またその信ぴょう性を確認します。
「利益」の注意書きでもあるように、借入金の返済元金は利益から支払われます。この利益が借入金の返済額を上回っているかどうかがチェックポイントです。
右側の空白欄には、売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算した根拠を記入することになりますが、どれだけ精度高く考えることができているかが大切です。
これまでの支援経験から考えると、この創業計画書のみで、計画をつくるのはやや無理があるかと思っています。別途エクセルなどのフォーマットで、数値計画をまとめた上で、それをこの数値計画に転記するとわかりやすいです。実際に経営をするうえでも役に立つ計画になると思います。
おすすめの経営計画策定方法は、経営計画つくるくんというアプリをダウンロードして作成する方法です。その他、経営計画におすすめのテンプレートについては、下記の記事でもまとめていますので、ご確認ください。
9.自由記述欄
ここでは、追加でアピールしたいことや、事業を行う上での悩み、欲しいアドバイス等を記載します。1~8で書き足りないことなどがあれば、書いておきましょう。
また、最近では日本政策金融公庫でマッチングなども行っているので、課題や悩みを書いておくと、力になってくれるかもしれません。
追加で資料は作成して提出したほうがよいのか
「ほかに参考となる資料がございましたら、併せてご提出ください」と末尾に記載していますが、追加で資料を提出したほうがよいのでしょうか?
基本的には、創業計画書と借入申込書他上記の書類で審査はしてもらえますが、創業計画書だけでは、伝えづらいこともあるかもしれません。例えば、取引先や仕入先、外注先だけではビジネスモデルが説明しにくく、ビジネスモデルを図に示した方が伝わると考えられる場合は、ビジネスモデル俯瞰図を作成するとよいでしょう。
また、数値計画についても、別紙の資料を作った方がわかりやすいこともあります。上記でおすすめした計画つくるくんで作成した数値計画を添付してもよいでしょう。
ここまで解説してきたように、創業計画書を作成することを通して、事業について、課題を整理することができると思います。なかなか埋まらない箇所は、もう少し深堀りが必要になる部分です。
ただ融資を受けるためだけに作成するのではなく、事業について、改めて自分に落とし込み、他社の協力を求めるためのプレゼン資料を作っているつもりで作成すると、精度が高まり、結果として融資を受けられる可能性も高くなります。