経営者はなぜ社員に仕事を任せることが苦手なのか?

ポイント
  1. 中小企業経営者が仕事を任せることが苦手な理由
  2. 仕事を任せることができないと中小企業は成長しない
  3. 仕事を任せるためのポイント解説

目次 [非表示]

ここでは中小企業経営者が仕事を社員に任せることがなぜ苦手なのかについて書いていきます。

また任せることができないことによるデメリットや、任せることがうまくなるコツや方法も合わせてご紹介します。

中小企業経営者は特有の基準の高さという問題がある

中小企業の経営者の中でも、特に、自ら創業をした経営者の場合、
裸一貫で、何もないところから会社を少しずつ大きくしてきました。

お客さんを獲得しなければ、売上はなく、生活ができないという中で、
営業から、納品、お客さんサポート、その他、さまざまな会社にとって必要なことをやってきています。

この過程の中で、経営者というのは生きるか死ぬかという状況に
いつも直面しているわけです。

何が何でもよい仕事をするんだ、お客さんは神様だ(悪い意味でなく、とても有難い存在という意味)という気持ちがどんどん強くなっていきます。なぜなら、とにかく頑張って、よい仕事をしないと会社が潰れてしまうからです。

その前提で恐ろしいくらいのPDCAサイクルを回していくので、
経営者個人というのは、仕事に対してとても高い基準を持つことになっていくのです。

(高い基準を持つことのできない経営者はむしろ淘汰されていくわけです)

経営者が仕事に対して高い基準を持つこと自体はとても良いことです。
しかし、中小企業の場合には、経営者個人はできても、社員はできないという問題が起きます。ここの理由がまさに、経営者が社員に仕事を任せる、権限を渡すことができない理由でもあります。

経営者が社員に仕事を任すことができないと中小企業は成長しない

経営者が自分1人暮らしていければよいということであれば、1人でやったらよいと思います。1人でやっていく場合には、経営者が個人としての力を磨けばよいわけです。

しかし、会社を大きく成長させていこうと思った場合には、経営者1人では会社は大きくすることはできません。必ず社員の存在が必要になります。

この社員というのがとても肝になるわけです。

・経営者の頭を悩ます、仕事を任せることができない社員なのか、
・経営者の助けとなる、仕事をどんどん任せることのできる社員なのか

社員でも雲泥の差があります。この社員の違いというのは、もちろん社員個人のスキル、やる気などの問題に依るところも大きくあります。しかし、経営者がどのような考え方を持っているか?ということで、社員で頭を悩ますのか、社員が助けてくれるのかが決まると言ってもよいと思います。

中小企業経営者にとってマネジメントは大きな課題です。中小企業経営者のためにマネジメントの全体像を説明しましたので、下記も合わせてお読みください。
会社を成長させ続けるための中小企業のためのマネジメントの話

経営者が社員に任せることができない2つの原因

次に、経営者として何が原因で任せることができないのか、どのようにしていけば、社員に仕事を任せることができ、結果として会社を成長させることができるのかということを書いていきます。

経営者が社員に任せることができない原因には、大きく2つの原因があります。

「経営者の認識の問題」

「社内教育やマニュアルなどルールの問題」

です。

経営者の認識の問題とは

経営者の認識の問題というのは、先に書いたように経営者というのは普通の人とは異なる前提で仕事をしてきています。そのため、経営者個人の仕事の仕方や、品質、成果などは、他の人=社員ではほとんど出せないレベルのものだったりします。
とても属人的なものということです。
経営者としては、自分の基準が全てですので、社員に自分の基準を要求してしまいます。

このような前提で、経営者が社員に仕事を任せてみたものの、経営者からすると全く期待とは異なる仕事の成果が社員から出てくることが多々あります。そうすると経営者としては、どんどんと社員は仕事ができないと思ってしまい、一層仕事を任せることができなくなっていきます。

まさに経営者の認識=自分の基準で誰でも仕事ができると思ってしまっていることが大きな問題なのです。もちろん、社員によって経営者の期待に応えられる大小はありますが、ほとんどの場合には、経営者の基準が高すぎて、経営者が満足することはありません。

社員としては経営者から評価をされず、また、そもそも経営者自身が丁寧に仕事を教えてくれるということもないことが多い中で、力を発揮できずに終わってしまうことが多々あります。経営者としては、社員が退職しては、新しい社員に期待をして同じようなことを繰り返していきますが、なかなか経営者の思うような人というのはいないわけです。

社員が退職を繰り返すこと自体を自分の問題だと思っていない経営者も多くいます。社員はやはり根性がないと、一昔の職人的な考え方を持ち続けてしまうのです。すると、余計に最初から社員に対して厳しく当たりがちになってしまうという本当の悪循環に入ってしまうのです。

経営者自身の認識を変える

経営者としては自らの特殊な前提や状況=属人的な仕事の基準ということを理解しなければいけません。社員は経営者と異なり、悪い意味でなく、命を懸けて働くなどということはありません。また、経営者とは異なり、できなかったら死ぬ(会社が潰れる)ということもありませんので、何が何でもすぐにできるようにしようという風には思いません。

この大きな前提の違いが経営者と社員の間にあることをしっかりと理解をするべきです。
※もちろん会社が大好きで命がけでやってくれる社員もいると思います。それはとても嬉しいことですよね。

小さな目標に切り刻んでいく

そこで実際においてポイントになることが、仕事の基準を下げるということではなく(基準が高いことは良いことなので)、最終的に求めている基準にたどり着くために、目標を小さく切っていくことになります。

いきなり全て期待通りにできる人なんてなかなかいません。経営者自身だって最初はできなかったことが多いはずです。それを時間をかけてできるようにしてきているわけです。
社員も全く同じです。「できないときがあって、時間とともにできるようになっていく」このことを理解しましょう。

経営者は勘違いしてしまいがちです。自分も最初はできなかったわけです。今できるのは失敗がたくさんあったからです。社員も失敗することなしにできるようになるなんてことはありません。

そこで、目標を小さく分けて考えていくということが大切になります。
まず1か月目はここまでできるようになろうとか、3ヵ月でここまでできるようになろうというようなイメージです。

仕事を任せることができない経営者は短期な人がとても多いです。
この短期さというのは、仕事の進捗や社員の成長が見えないことが原因だったりします。
仕事がしっかりと進捗していることや、社員の成長ということが見えると、経営者も安心できるわけです。そのため、成長を見えるようにするためにも、小さな目標に切っていくことで、成長が見えやすくなるのです。

自責でどうしたら社員は仕事ができるようになるか考えるべき

経営者というのは、どんな理由であろうと、何が起きたとしても全ての責任を負っています。つまり、常に自責の発想を持っていないといけないということです。他責にすることは本当に簡単なわけですが、他責の姿勢から会社がよくなること、強くなること、成長することは絶対にありません。

社員がどうしたら仕事ができるようになって、
仕事を任せることができるようになるかということも自責で考えるべきです。

今までを振り返って、経営者自身、何が問題で、自分がどうしていればよかったのか、社員のせいにしないで、徹底的に自分がどうすればよかったのか?を考えるようにしましょう。

人を変えることはできませんが、自分を変えることはできます。自分を変えれば、人は変わって見えます。

 

社員教育やマニュアルなどルールの問題

経営者が社員に仕事を任すことができないもう1つの大きな問題が、仕事の依頼の仕方がとても雑であることや、社内の仕組みである、教育やマニュアルなどルールづくりができないということがあります。

「仕事を任せる」というのは言葉で言えば簡単ですが、
これを解像度高く分解してみましょう。

仕事の任せ方が雑ということに経営者が気づいていない

仕事を任せるというのは、当たり前ですが、仕事を依頼した経営者からしたら期待通りの結果や成果物になっているということがゴールになるわけです。

しかし、多くの場合には、社員の仕事の結果や成果物と経営者の期待との差が生まれます。
これは、仕事自体の内容、ゴール、やり方、使っていい時間や費用などを明確に定義していないことが原因であることがほとんどです。

経営者からの仕事の依頼は、これをやっておいてというだけの指示だったりします。
経営者の中ではこの仕事であれば、これくらいの時間でこれくらいの成果ということがわかっているものの説明などはしないということがしばしばあります。

つまり仕事の依頼の仕方が極めて属人的=経営者は明確にわかっているものの、それを誰でもわかる形で説明をしていないことで、仕事を依頼された社員との間で仕事を依頼した時点で既に仕事ができない原因ができているのです。

経営者としては、わからない場合には聞いてくると思っていたり、聞いてねと言っているので、聞かれないということは社員はわかっているものだと思うわけです。

でも、仕事の期日になって出てきた仕事の成果をみて驚くわけです。全然わかっていないじゃないかと。

確かに、経営者にしっかりと確認をしない社員にも問題があるのですが、経営者は常に自責であるべきですので、「社員は経営者にはやはり聞きにくい」「理解力が悪いと思われたくない」「忙しそうで声がかけにくい」「1回で理解しない人に厳しい」とか、自分に問題があったのでは?と考えましょう。

また、そもそも相談などをしやすいようにという改善方法もありますが、確実に誰でも齟齬が生じないように、仕事自体を明確に定義して任せるという方法に変えるということが効果的かもしれません。「やっておいて」に比べると、いちいち仕事を定義しないといけないので手間はかかりますが、経営者、社員の間に齟齬が生じず、結果としてとてもスムーズに仕事ができます。

業務におけるマニュアルなどが不在

仕事をしっかりと定義するということは、マニュアルをつくっていくということに通じていきます。マニュアルというのは、仕事を依頼する経営者、仕事を依頼される社員どちらにとっても大変重要な時間を短縮する最高のツールになるのです。

マニュアルとは、あることがらに関する事項を一冊の本の形にまとめて書き、日常使用に供するもの。手引き。ハンドブック。とあります。

1回きりの仕事であれば、マニュアルにする必要もありませんが、
常時する仕事に関して言えば、マニュアルをつくっていくべきです。

マニュアルがあること=しっかり仕事が定義されていることによって、仕事のゴール、質、使っていいリソース、やり方などが載っていますので、仕事が決定的に任すことがしやすくなるわけです。

逆に言えば、マニュアルがないということは、全て仕事が経営者に紐づいているということです。この状況では、常に、経営者が社員に仕事を定義したり、やり方を教えたりしなければいけないわけです。大抵の場合には、経営者は忙しいので、丁寧に教えることもしないので、社員はできないわけです。

マニュアル不在によって、経営者が結果として仕事を社員に任せることがしにくくなっているのです。

全てをマニュアル化すればよいという話ではありません。ここで言いたいのは、マニュアル=齟齬のない状況をしっかりとルール化、言語化するということが経営者の発想の中にあるかどうかということなのです。
まさに、仕事自体を経営者に属人的に紐づけるのか、客観的にして誰でもできるようにするのか?の大きな違いなのです。

仕事を任せるということのゴールは、経営者の期待通りに仕事の成果が出るということです。仕事をどうしたら任せやすい状況にできるのか?と考えてみると、マニュアル不在が大きな原因の1つだったりします。

社員教育などがほとんどない

経営者に仕事が紐づく、属人化によって、仕事の依頼の仕方がそもそも雑だったり、マニュアルが作成されにくい状況があることを説明しました。

合わせて、経営者は命がけで自らのスキル面や人間性などを良くしようと日々勉強をしたり、PDCAサイクルを回しているわけでした。(改善をしないと会社がつぶれてしまうわけでした。)しかしながら、社員は経営者ほど当時者意識を持って、何が何でも改善をしようという気持ちはなかなか持っていません。(持っている社員もいるでしょうが稀だと思ったほうがいいです。)つまり他責的に考えてしまって、社員は何もしなくても自ら改善してくれる、できるようになってくれるなどと思ってしまうとそこに大きな失敗があるわけです。

そのため、経営者というのは自責発想を持ち、社員の成長、社員ができるようになるためにどうしたらいいのか?と考えるべきで、その1つとして、社員教育というものがとても重要な意味を持ってくるわけです。

仕事を任すことができない、仕事を任すことが苦手な会社経営者ほど、間違いなく、他責であり、マニュアルがなく、社員教育などはありません。つまり、何もしていないということです。

仕事を任すことができている会社経営者ほど、自責であり、仕事を任せやすくする、社員目線で言えば仕事をやりやすくするためにマニュアルがあり、社員教育などがあります。

社員教育、人材育成について書きましたので合わせてお読みください。

人材育成で会社が強くなり業績アップする話

社員に仕事を任すことができる経営者になるためのまとめ

経営者の仕事の基準と社員の基準の違いを知る

経営者の仕事の基準というのは、特殊なものだということをまず理解をし、経営者以外はその基準ではまずできないということ、小さな目標に切りきざんで、失敗や時間とともに成長してできるようになっていくということを理解することが大切です。

経営者が自責の気持ちを持つ

経営者が他責の気持ちになってしまうと成長や改善は一切ありませんので、うまくいきません。自責の気持ちを持って「どうしたら仕事を任せられるのか?」「どうしたら社員は仕事を任されたときに仕事しやすいのか?」「社員はどうしたら成長するのか?」を考えるようにしましょう。

仕事自体を属人的に捉えず、マニュアル思考へ

経営者が属人的な状態で仕事を続けてしまうと、どんどん仕事を任せることがしにくくなってしまいます。そのためマニュアル思考=仕事をきっちりと定義をすることをしましょう。もちろん何でもかんでもマニュアルにするということではなく、取捨選択、実態に合う形でマニュアル化を進めましょう。マニュアルというのは、間違いなく、経営者、社員双方にとって仕事を任せやすく、任されやすくするものです。

社員教育など社員を成長させる仕組みを持つ

社員は勝手に成長しませんし、社員は経営者の考えを教えてもらってもいないのに理解はできません。そのため、経営者自身が、社員の成長を大切にしなくてはいけません。社員教育というのはあくまでも1つの方法に過ぎませんし、その教育の方法というのに正解もないと思います。ただ、社員を成長させることに対しては中小企業の経営者ほどコミットをしなければいけません。社員が成長しない限り、会社の成長はありません。

経営者の仕事が何かを理解する

経営者自身がそもそも経営者の役割の理解をするべきです。経営者個人がいかに優れたスキルを持っていても、1人の人間でできる仕事の量には限界があります。経営者というのは、経営をする人のことです。経営とは、人を通じて物事を達成する業です。人を通じてということがまさに肝なのです。

経営者の仕事や役割の理解が深まると思いますので、合わせてお読みください。

中小企業が成長できない要因と成長するために経営者が変わるべき話


 

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著者プロフィール

伊藤 健太

伊藤 健太

1986年生まれ、横浜出身、慶應義塾大学法学部卒業。

23歳の時、病気をきっかけに、小学校親友4名、資本金5万円で株式会社ウェイビーを創業。

10年間で10,000人を超える経営者、起業家の「組織づくり」「売上アップ」に携わる。

社長がいなくても回る強い組織、仕組みをつくる「01組織クラウド

小さな会社、個人事業主のビジネス成長を実現する「01クラウド

の01シリーズを展開中。

2016年10月より、世界経済フォーラム(ダボス会議)の日本代表選抜
2018年9月より、徳島大学客員教授就任
2020年4月より、iU 情報経営イノベーション専門職大学客員教授就任

「行動の品質」「自分の力で稼ぐ力を身につける本」など著書7冊。
日経新聞、エコノミスト、NHKなどメディア掲載も多数。