消費税とは?仕組みを5分で理解しよう!起業1年目の落とし穴
- 開業2年目の上半期に売上高が税込み1,000万円を超えると開業3年目から消費税を納める必要がでてくる
- 法人の場合の消費税の納税義務
- 1年目から消費税を納めると宣言することで有利になることもある
ここまで、消費税を納めなくて良いケースについてお話ししてきました。ここからは、実際に消費税を納めなくてはならないとしたら、いくら消費税を納める必要が出てくるのかというお話をします。
具体的な消費税の納税額の大まかな考え方は以下の通りです。
「消費税の納税額」=「預かった消費税」-「支払った消費税」
ちなみに、すべての取引に消費税がかかる訳ではありません。では、消費税がかかる取引とはどのようなものでしょうか?
具体的には以下の4つの要件をすべて満たした取引です。
①国内において行うもの
②事業者が事業として行うものであること
③対価を得て行うものであること
④資産の譲渡、資産の貸付けまたは役務の提供であること
なお、上記4つの要件に形式上該当していても、国の政策上の観点や、「消費活動」に係る税金としての性質上、課税対象としてなじまないと判断されているため消費税がかからない取引として扱われている取引が実際にはあります。
代表的なものには
・土地の譲渡、貸付け(一時的使用を除く)
→土地は「消費」されることがないので
・利子、保証料、保険料
→お金のような支払手段の譲渡、貸付けはこれも「消費」されるものではない。従って、ここから派生して発生する損益も消費税はかからない。
・従業員に社宅を貸し付けて賃料を徴収する場合
→従業員に消費税を負担させるのは忍びないという「国の政策的配慮」などがありますが、これ以上列挙すると長くなりますので、このぐらいにとどめます。
なお、以上の4つの要件は別に正確に覚えていただく必要はないのですが、敢えて取り上げたのは訳があります。
まず①についてなんですが、輸出売上には消費税がかかりません。ただし、取引によっては国外取引か否かの判定が難しい場合があるので、専門家に相談してほしいということです。
次に②なんですが、例えばヤフオクなどでこれまで使っていた不用品を販売してもそれは「業として」利益の獲得のために反復・継続的に行っているものではないので消費税はかからないということです。(ストアとして出品している場合には消費税がかかります。)
また、従業員に支払った場合の「賃金・給料」も消費税はかかりません。サラリーマンである従業員の立場から見れば、サラリーマンは「事業者」とは言いませんよね。従って、「サラリーマンがもらう給料には消費税がかからない」=「給料を支払う側でも消費税はかからない」ということになります。
そうすると、例えば消費税率10%で、すべて消費税込みの損益計算書を作成している会社における消費税の支払額のイメージは以下の図表のようになります。
ケースA
※カッコ書き内は消費税額。また、売上および人件費以外の原価はすべて消費税がかかる取引であると仮定する。繰り返しになるが、話を分かりやすくするため消費税率は10%
まず、利益を計上するとその分、預かった消費税が支払った消費税を上回るはずですから利益が増えれば増えるほど消費税を納める金額が増えることになります。
次に、人件費には先ほど述べたとおり、消費税がかかりません。
ということは、原価に占める人件費の割合が高い業種、例えばサービス業などは小売業などと比較して消費税を納める金額が多くなることになります。
ケースB
(注)繰り返しになりますが、このケースでも話を分かりやすくするため消費税率を10%にしてみました
上図を見て頂ければお分かりになるかと思いますが、同じ24の利益を上げている会社でも人件費比率が高いと納める消費税の額が増えるのです。このように、業種・業態によって消費税の負担率が異なるのが実態です。これは、次回で解説する「簡易課税制度」の説明で必要な知識になりますので、頭の片隅に置いておいて下さい。
先ほど、消費税がかかる取引の4要件の一つとして「④資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供」をあげました。これには、損益計算書項目だけではなく、例えば「固定資産の取得」も含まれます。
例えば、飲食店を開業するとして内装工事に税抜きで300かかったとします。ここでも話を単純化するため、消費税率は10%とすると、消費税も支払って実際には330かかりますよね。当たり前の話です。
そして、一旦話を最初に戻します。消費税の納税額の算出方法です。
「消費税の納税額」=「預かった消費税」-「支払った消費税」
ちなみに、「預かった消費税」<「支払った消費税」になるとどうなるでしょうか。実は、払いすぎた消費税が戻ってくるのです。これを、一般的には「還付」といいます。
先程のケースAにあてはめてみます。
(注)繰り返しになりますが、このケースでも話を分かりやすくするため消費税率を10%にしてみました
このように消費税を納めすぎているようなケースだと消費税が戻ってきます。具体的には、このように多額の固定資産への投資を行う場合や、人件費以外の原価が売上高を超えるような大赤字の場合が該当します。ところで、事業開始2年間やその後も年間の売上高が税込み1,000万円を超えない限りにおいては原則として消費税を納める必要はないと申し上げてきました。実は「消費税を納める必要がない」というのは言い換えると「払いすぎた消費税を取り戻す権利も放棄している」ということなのです。
本来、預かった消費税は、支払った消費税を差し引いた残りを納めなくてはいけないものです。実際に消費税の計算は日々の帳簿への記帳から消費税がかかる取引か否かの判断が求められるとともに、集計や計算も専門家でなければ難しい場合もあります。それに対して、事業規模が一定基準を下回る事業者が消費税の納税義務を免除されているのは、中小企業における事務処理や資金的な負担を考えて、国の政策上優遇されているためです。にもかかわらず、納税義務が免除されているのに、消費税が還ってくる場合だけその権利を享受できるような「いいとこ取り」はできません。
このため、払いすぎた消費税を取り戻すためには「開業1年目からでも消費税を納める!」と宣言し、払いすぎた金額を計算して税務署に申告する必要があります。では、開業1年目からでも消費税を納める!と「宣言する。」とは具体的にどうすればいいのでしょうか。
消費税を納める事業者のことを「消費税課税事業者」といいますが、翌年度以降「消費税課税事業者」になりたいのであれば税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで宣言したことになります。ただし、ここで3点留意点があります。
① いったん、「消費税課税事業者」になると2年間は消費税を納めなくてもよい「免税事業者」には戻れないこと
② 先ほどの説例のように1件あたり税抜き100万円以上の設備投資を行った場合には、2年ではなく3年間「免税事業者」に戻れないこと
③ 新規開業の場合には開業日の前日まで、開業2年目以降に「消費税課税事業者」になるためには、対象会計年度が開始する前日(個人であれば前年度の12月31日、法人であれば前年度の決算日まで)までに税務
署へ届出する必要があること
多額の固定資産の投資(ただし、そもそも消費税のかからない土地を除く)を予定している場合には、たとえ消費税のかかる売上高が1,000万円未満であったとしても、固定資産の投資を行う翌年度以降の利益見込みも考慮しながら「消費税課税事業者」になることを検討してみても良いかも知れません。また、輸出取引の割合が大きい事業者も「消費税課税事業者」になった方が有利になる場合が多いと言えます。なぜなら、輸出売上には消費税がかからない一方、対応する国内仕入には消費税がかかっているため、「預かった消費税」<「支払った消費税」となっている可能性が高いからです。イメージ図で表すと以下のとおりです。
(注)カッコ内は消費税。このケースでは税率8%で計算。国内の仕入高は税抜き400。話を単純にするため、売上高はすべて輸出によるもの、原価や経費はすべて消費税がかかるものとする。
この場合も、放っておくと一方的に仕入先に消費税を32払うだけとなり、国内で売上をあげている事業者と比較すると不公平になりますよね。また、本来の理屈的には、消費税は最終的な消費者が負担するというルールであり、輸出の場合には海外の消費者が商品を消費する際にその国で消費税を納めてくれることとなるため、32の消費税を取り戻せるということになっています。まあ、こうした理屈よりも「輸出業者は消費税の還付を受けられる可能性が高い」ということだけ覚えておいてください。
以上、「消費税課税事業者」になることのメリットについて説明してきました。
ただし、消費税の計算は専門家でない限り難しい場合が多いため、「消費税課税事業者」になることを選ぶ場合には税理士に相談することをお勧めします。
ここまでのおさらいを以下にいたします。
✔ 消費税は原則として税務署に納めなければいけない。納税額の基本的な考え方は「預った消費税」-「支払った消費税」
✔ ただし、2事業年度前の売上高が税込み1,000万円以内の場合、原則として当事業年度は消費税を納める必要はない。従って、起業して2年間は消費税を納める義務が原則として発生しないことになる。
✔ しかし、前事業年度の上半期の消費税のかかる売上高が税込み1,000万円超または給与総額が1,000万円超の場合は当事業年度から消費税を納める必要がある。
✔ 法人の場合には、資本金が1,000万円以上である場合は開業1年目から消費税を納める義務がある。
✔ 資本金が5億円以上の会社に50%超の出資をしてもらった場合も、開業1年目から消費税の納税義務が生じる
✔ 「支払った消費税」>「預った消費税」となる場合には、仮に消費税を納める義務がないとしても、税務署に届出して「消費税を納める事業者」になることで払いすぎた消費税を戻してもらうことが可能。
(具体的には人件費などの消費税がかからない原価や経費を除いても赤字のケース、多額の設備投資を予定している場合、輸出売上の割合が高い場合 など)
✔ 一旦、「消費税を納める事業者」になると少なくとも2年間(100万円以上の設備投資を行った場合は3年間)は「消費税を納めなくても良い事業者」には戻れない
✔ すべての取引に消費税がかかる訳ではなく、消費税がかからない取引もある。また、人件費比率の高い業種は比較的消費税の負担が大きい
次回は、
·売上高が1,000万円超5,000万円未満の場合に使える制度「簡易課税制度」
·消費税のより具体的な計算方法と納税時期などを中心に説明していきます。
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