イノベーションの真髄はPPAP!?既存の二つを組み合わせることで生まれる化学反応が社会を変える!

ポイント
  1. イノベーションってなに?定義や型はあるの?
  2. 課題思考的な人間になるために必要な共感力
  3. 多面的に物事を捉えることで見えてくる社会課題
  4. イノベーターを育てるために必要なリスク管理
  5. 5.これからイノベーションを起こす全ての人に伝えたいこと

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課題志向的な人間になるために必要な共感力

伊藤)当たり前であればあるほど、目の前で起きていることになんの疑いもなくなってしまうと思うんです。その中でどうやったら課題志向的な人間になれるんですかね?

中川)生まれつき批判的な目線で物事を見れる人っているんですけど、後天的な訓練で身につく部分が大きいです。日頃、課題発見的にものごとを見ているか。その力の根源は、アイディアや発想力ではなくて、共感力だと考えられています。

成功したイノベーターさんの、素晴らしいアイディアや発想力に、多くの人々は胸を打たれます。その後を追う人たちは、そこにばかり注力しがちです。「どんなアイディアがいいのか?」というユニーク大喜利を始めるんです。

でも、これはニーズ志向の対極にある考え方です。課題があって、はじめて解決案が生きるわけで、アイディアを考えることよりも大切なのは課題を見つける目です。そのためのポイントは、当事者意識を持つことです。これを学術用語だと「共感力=エンパシー」といいます。

共感(エンパシー)は、同情(シンパシー)に似ていますが、別のものです。「かわいそう」はシンパシーです。まだ、第3者の目線で見ている。自分ごととして「これ、つらいなあ」と感じられたならば、そこから「どうやってこの問題を解決しよう」に行き着くのは、自然なことです。自分自身がその場の人間であるつもりで、一人称目線でものごとを見れる訓練を積んでいけば、課題は見えてくるし、それを解決するのにも現実味のあるアイディアが浮かぶようになってきます。

私の大学のゼミでも最初はひたすらエンパシーを説いていくわけですが、1ヶ月半くらいすると、彼らの目線はそこにどういう問題があるのだろうというふうに変わっていきます。こうしてトレーニングをしていくことで、少しずつ課題志向的な人間になることができるんです。

多面的に物事を捉えることで見えてくる社会課題


伊藤)僕は共感するにしても自分の中で、「他業種の観点で見て自分の業界はおかしいな」とか「他国の観点で見たらおかしいな」とか、いろんな観点を持ち合わせられるかっていうのが大切な気がしていて。そのために日常アクションとしてはいろんなところに行ったり、いろんな人に出会うことによって自分の中での分母というのを増やしていくことで、全くの裏側から物事を見られるようになるっていうのも大事かなって思うんですけど、いかがですか?

中川)それは非常に重要なポイントですね。物事に気づきを得るために多面的にみるというのは必要なわけです。とにかく引き出しの数は多い方がいいです。いろんな産業やいろんな理論を学ぶことが重要になります。

私が学生や起業家の方にやっているセッションで、カーリング競技の魅力を多面的に評価してくださいっていうのがあるんです。ここでカーリングという競技の魅力を表現するにあたって、多くの人が自然と「アイドルみたいな可愛い子がいる」とか「チェスのように頭を使う」「野球やアメフトのような駆け引きがある」というように話されます。

この「〇〇のような」という比較表現こそが、多面的に物を見ているということになるのです。「〇〇との比較の上でいうと、これはこういう風に見えるんだよね」という見方も、技術的に身につけられることです。ある物事を見るときに「これって別のものに使えるんじゃないだろうか」とかあるいは「こういう視点で見ることができるんじゃないか」という。これもひたすら訓練です。

伊藤)多面的な視点を持つことができれば自分に関係ないことなんてなくなると思うんです。自分の事業とは関係ないと思っていたものが実は大きなヒントになっていたりする。

中川)その通りです!でも、よその産業の事例を自分の産業に適用しようと思ったときって、上辺の部分で見がちなんです。そうすると間違った部分を移転してしまったり、あるいは本当は移転可能なものが移転できなかったりしてしまいます。出川哲郎さんが芸能界で成功しているのは、デブのおじさん体形だからではなく、リアクションが面白いからではなく、人が進んでやらなかったことを、自分がすべて拾ってやってきたから。おじさん体形だからというのは「表層的な見方」で、これでは他のビジネスに活かせない。けれども、「人がやりたがらなかったことを、やってきた」ならば、そこには他のビジネスのヒントが潜んでいる。「深層の成功要因」を知ろうとすることが大切なわけです。

例えばアップルさんは、トヨタの生産方式を徹底的に学んでそれを商品のデリバリーやビジネスのモデルに完璧に組み込んでいるわけなんですね。でも、トヨタの生産方式っていうのは、本来は工場のなかの生産管理の方式なんです。それをアップルは、商品の販売や開発のメソットに組み込んでいる。

伊藤)まさしくイノベーションですね!

中川)そうなんです!生産を持たないようなIT業界の方にトヨタの例を持ち出すと「それはものづくりの話だし、業界が違うから適用できない」という反応をよく頂戴します。でもトヨタの言っている「無駄をなくすんだ!」とか「5回“なぜ”を問うんだ!」とか、そういうトヨタ的な問題解決の方法というのは、文脈を超えて、商品開発やマーケティングなど他のところでも適用できるんですよね。アップルはまさしく、深層のトヨタの強い部分を移転しているわけですよ。

どんな事象からでも成功と失敗の要因の本質を捉えることは可能です。真の因果関係を捕まえ、それを日頃から心がけて、そういった目線で今の自分のビジネスに使えないだろうかということを考えていけば、もう全てのインプットがヒントになるんです。出川哲郎さんから学べることも、少なくない。

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著者プロフィール

伊藤 健太

伊藤 健太

2009年慶應義塾大学法学部を卒業後に、2010年株式会社ウェイビーを創業。
創業以来、一貫して、中小企業、個人事業主のインキュベーション(成長支援)に従事。
その数1,200社超。「世界を豊かにする経済成長のビジネスインフラを創る」というウェイビーの理念が大好き。
世界経済フォーラムが選ぶ若手リーダー選抜、徳島大学客員教授、スモールビジネス向け書籍7冊出版。

中川功一 

中川功一 

大阪大学大学院経済学研究科 准教授 1982年生まれ 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了 経済学博士(2009年) 専門はイノベーション・マネジメント、経営戦略論、国際経営論。 ■主な業績 1)Balancing formal and social influences toward organizational cultural crossvergence.EAMSA Best Paper Award 2016. 2)Should Japanese Multinationals Change their Original Business Style in Emerging Markets? AJBS Best Paper Award 2016. ■著作 テキストブック『はじめての国際経営』有斐閣,2015.好評発売中 ■教育活動:イノベーション、変革の種を撒くことをライフワークとする。大阪大学、立命館大学、BOND-BBT MBA、日本生産性本部、各種企業研修等でイノベーション、経営戦略改革の実践的手法の教育・指導にあたる。