赤字続きでも会社が倒産しない理由

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会社で赤字が出ると、「倒産するのでは?」と不安に思う社員や取引会社は多いのではないでしょうか。実際、赤字が続けば倒産に至ることも少なくありません。
しかし、赤字続きにも関わらず倒産せず、逆に黒字を出している会社が倒産したというケースもあります
今回は会社経営における「赤字」と「倒産」を取り上げ、その実態と両者の関係性、そして「なぜ赤字ではなく黒字で倒産するのか」などの理由についてご説明します。起業を予定している方はぜひ参考にしてみてください。

1 会社経営の「赤字」

会社経営における「赤字」とは何を意味するのか、そもそも赤字は「悪いことなのか」といった点から見ていきましょう。

 1-1 赤字の正体

会社経営における「赤字」は、一般的には良くないイメージを持たれることが多いですが、簡単に言えば、「企業会計上の収支がマイナスである」ということを指します。

会社経営の結果である業績や財産状況は、財務諸表などの書類で示されますが、その報告書は企業会計の原則などに基づき作成されます。業績は損益計算書によって示され、利益がマイナスの場合に一般的に赤字と呼ばれるのです。

 1-2 会社経営の赤字は悪いこと?

会計上の赤字では、損益計算書の売上総利益や営業利益の段階から赤字となっている場合や、経常利益や当期純利益の段階で赤字となる場合があります。「どの段階で赤字になっているか」「何が原因で赤字になっているか」などにより、赤字の意味が変わってくるのです。例えば、本業での儲けを示す営業利益段階で赤字が継続する場合は、「顧客離れ」「競争力の低下」などの問題を抱えているケースが少なくありません。

他方、営業利益は黒字でも低迷する事業のリストラ費用を特別損失として計上したために当期純損失(赤字)となっているケースもよくみられます。

このように赤字といっても「倒産リスクに繋がるもの」から「あまり関係のないもの」までさまざまな種類の赤字があり、「赤字=悪いこと」という関係は必ずしも成立するとは限らないわけです

2 会社の赤字と倒産

次に、「倒産とは何を示すのか」「赤字と倒産はどのような関係があるか」を説明していきましょう。

 2-1 会社の倒産とは

会社の「倒産」とは、一部を除き法律に基づく定義ではなく、会社情報を調査する民間会社が経営活動不能となった企業をあらわす言葉として普及しました。一般的には何らかの理由により「債務の返済ができない」「経営活動が持続できない」状態のことを倒産と呼びます。

なお、倒産となった場合、その会社は法律に基づいて「処理(再生や処分など)されるもの」と「そうでないもの」の2つに分かれ、前者は「法的整理」、後者は「私的整理」と呼ばれています。

倒産に関する法律としては、主に破産法、民事再生法、会社更生法、会社法などがあります。また、倒産手続はそれらの法律に対応して破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続が実施されるのです。これらの手続は裁判所を通じて行うことになり、「法的整理」と呼ばれています。

なお、裁判所を通さない倒産手続が私的整理(私的倒産)です。また、法的整理や私的整理にも入っておらず、経営的に破綻して経営困難となっている状態は「事実上の倒産」と呼ばれることがあります。

 2-2 “倒産”といえる状態とは

倒産とは経営が行き詰まり持続困難となった状態を指しますが、多くの場合は弁済に必要な資金や事業活動の継続に必要な資金が確保できなくなることを意味します。

中小企業の倒産の場合では、「販売不振」「放漫経営」「過少資本」といった内容が倒産の原因に挙げられることが多いですが、直接的には弁済等ができなくなって倒産に至るケースが一般的です。

ほかには「仕事量をこなせる従業員が確保できない(=人手不足)」「後継者がおらず事業が継続できない(=後継者不足)」「製品に必要な原材料が入手できない」などを理由とする倒産も最近増えてきました。

しかし、倒産となる場合の直接的な要因は、「資金が足りない」「調達できない」ことにより生じるケースが多いといえます。

倒産状態を示す具体例は、「銀行から取引停止処分を受けることで資金の流れが断たれる」ことです。信用取引における債務の支払いが滞れば金融機関はその企業との取引を停止するため、仕入代金の決済や従業員への給与の支払いもストップしてしまいます。

このように資金の流れがストップすると企業活動もストップせざるを得なくなるため、倒産となります。逆に資金さえ流れ続ければ、私的整理しない限り、倒産は回避できるといえます。

 2-3 赤字と倒産の関係

赤字は倒産をもたらす大きなリスク要因ですが、前述したとおり、赤字が多少持続しても資金の流れさえ止まらなければ倒産には至りません。

もちろん赤字経営が続き、事業を運営する必要資金の確保ができなくなれば、必然的に倒産することになります。しかし、会社や経営者の資金が豊富で会社に資金を提供続けたり、金融機関等が融資続けたりすると倒産は回避できるのです。

また、赤字の場合でも会計上の「収益-費用」の結果がマイナスなだけで、現金収支(流入-流出)がマイナスとは限らないこともあります。企業経営では仕入や販売において掛取引や手形による決済取引も多く、会計上の利益は現金収支とは異なるからです。

特に減価償却費のような非資金費用科目の計上が多いと、会計上は損失の赤字であっても現金収支は黒字というケースが珍しくありません。加えて税額の算定は主に会計上の利益を中心に行われるため、あえて「会計上は赤字にしておく」という企業も少なくありません。

もちろん同じ赤字でも営業利益段階までで赤字という状況の場合、本業での赤字を企業の資産で補うこととなり、赤字が継続していけば資産が枯渇して倒産に至ることもあるでしょう。

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3 会社の黒字倒産

ここでは黒字倒産とはどういう状態のものかを、実例を交えて説明しましょう。

 3-1 会社の黒字倒産とは

黒字倒産とは、会計上は黒字であるにもかかわらず弁済等に必要な資金が確保できず、銀行取引停止に追い込まれるなどして事業の継続が断たれることを指します。

例えば、商品等の仕入や提供を受けるサービスの支払いは「現金」で支払う一方、商品の売上は「手形」で決済する場合、売上が伸びるほど自社の資金の流出は流入を大きく上回って資金が枯渇しやすくなるでしょう。

その場合に銀行に対する支払手続で不履行を起こせば取引は停止となり、資金の流れは断たれて倒産となるのです。

売上高は大きく伸び、会計上の利益が黒字であっても、資金の流れが途絶えてしまえば簡単に倒産してしまいます。

 3-2 黒字倒産の実例

黒字倒産の例として、2015年4月30日に民事再生法の適用を申請した江守グループホールディングス(株)の件を紹介しましょう。

同社は染料、工業薬品、化学品、電子部品、情報機器などを扱う商社で、国内のみならず海外にも事業を拡大していましたが、中国子会社での不正取引等により巨額債権が回収不能となってしまいました。

その結果、2015年3月期の第3四半期で約462億円が特別損失に計上され、約234億円の債務超過で倒産し、民事再生手続きに入りました。

同社の2010年3月期から2014年3月期の当期純利益は、1,021百万円から3,323百万円の黒字です。しかし、このように会計上が黒字でも、巨額の代金回収が困難となれば、会社は事業継続できなくなるということです。

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4 経営の本質

会社経営で最も大切なことの一つは、「企業の持続と発展」です。

 4-1 持続可能な発展の必要性

会社は「コーポレートシチズン」と呼ばれるように社会的に存在意義があるため、「持続し、発展させる」という使命が課せられています。

会社経営とはヒト・モノ・カネという経営資源を調達し、それで収益を生み回収するという行為を繰り返しながら事業規模を拡大して発展することと言えます。

つまり、会社とは必要な経営資源を用意し、マネジメントして他社からモノや人の供給を受けたり、他社にモノ・サービスを提供したりする、という社会的な行為を行う存在なのです。

そのため会社が倒産して事業の継続が困難となれば、さまざまな利害関係者(=ステークホルダー)に影響を与えることになります。

倒産すれば商品等の購入先に債務の弁済ができなくなったり、従業員への給与が支払えなくなったりして迷惑をかけることになるのです。

また、自社の商品の供給を頼りにしている販売先にとっては供給が断たれることになり、その企業活動に支障が出る可能性もあります。

このようにいかなる形の倒産であれ、事業活動が継続できるなくなると、多くの関係者に影響を及ぼしてしまいます。

 4-2 キャッシュフロー経営が重要

資金の流れ、すなわちキャッシュフローが悪くなってストップすると、会社は倒産に追い込まれるため、円滑なキャッシュフローを目指すキャッシュフロー経営が重要になります。

会社経営は事業を大きくし会計上の利益を黒字にするだけでなく、いかにキャッシュの流れを止めないように管理するかも重要であり、それを目指す経営がキャッシュフロー経営なのです。

そのため経営者は会計についての知識がある程度必要です。損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書の基本的な読み方などは理解できるようにしておくと良いでしょう。会計上の利益と現金収支が一致しない理由を把握するとともに、その知識を前提に「キャッシュフローを悪化させない」「キャッシュを不足させない」という管理が欠かせません。

そのためにはまず、資金繰表などの資金の流れを管理するためのツールを活用して、資金ショートへの対策が取れるようにしておくことが挙げられます。次に、月次のキャッシュフロー計算書を分析し、企業全体の資金の流れを把握するとともに改善のための方策を立案・実行することです。

前出の黒字倒産した江守グループホールディングスの決算書を見ると2010年3月期から2014年3月期のキャッシュフロー(CF)計算書の営業CFは、△717百万円から△5,197百万円となっています。

そして、CF計算書ではこの営業CFでのマイナスが財務CFで補われている点が一目瞭然でわかります。CF計算書の見方が分かれば、営業での多額の代金回収等の不足を多額の借入等で補っている危険な状態だと判断できます。

経営者の重要な役割の一つは、こうした経営リスクを財務諸表からいち早く察知して対策を講じることだといえます。

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