「初回に菓子折りは持参するな!」3年で566件のお詫び訪問を乗り越えたプロの「謝罪術」
- 謝罪に行くこと=目的ではない
- 謝罪訪問は準備が8割
- 謝罪は営業活動の一つである
最近テレビをつけていると、企業や団体の代表による謝罪会見を目にすることが多くありませんか?
いまの時代、何がきっかけで謝罪に追い込まれてしまうかわかりません。
ましてや経営者や部門長など、大きな責任を担っている人にとっては、決して他人事ではないはず。
そこで今回は、前職マイクロソフトで最高品質責任者を意味するCQO(Chief Quality Officer)という重責を担い、3年間でなんと566件もの謝罪訪問を経験された、現・株式会社クロスリバーCEOの越川慎司さんにお話を伺ってきました。
いま身につけるべき謝罪術とは?そして類まれな経験を持つ、“プロ”よる謝罪の極意とは?
ー越川さんのもとには、管理者向けの謝罪術・リスク管理に関する問い合わせが殺到していると伺っています。なぜ、いま「謝罪術」に関するニーズが高まっているのでしょう?
越川)前提として、いまは「モノ」ではなく「コト」を消費する時代と言われています。
商品を所有していることよりは、そこから生まれる体験に価値を感じるように価値観が変化しています。
たとえば、使っていた商品が壊れてしまった場合を考えてみてください。
その後の担当者のフォローの仕方によっては、大きく印象が変化するというのは想像しやすいと思います。
ー確かにそうですね。担当の方が誠実に対応してくれたのか、そうではなかったのかでその企業に対する印象が大きく異なります。
つまり、顧客は問題解決はもちろんのこと、その問題を解決してくれる人、さらにいうと問題解決に至るまでのストーリーを見ているといっても過言ではないんです。
そのため、そこの体験に大きく関わる「謝罪術」が企業から求められているのは、ごく自然なことだと考えています。
▲企業から講演依頼が絶えないという越川さん
ー最近では、テレビでも頻繁に謝罪会見の様子が流れているのを目にします。会見を開くような人は稀だと思いますが、自分が謝罪を行う場合はどんな点に気をつけるべきなのでしょうか?
そういった状況では、当事者による振る舞い方に注目が集まります。発言や態度によっては、かえって相手に悪印象を与えてしまうケースがあります。
「謝罪術」というのは「究極のコミュニケーション術」とも言い換えられます。
説明する際は、短い言葉で端的に伝え、いかに感情を逆なですることなく、相手から理解を得られるかがポイントになります。
ーどうしたら、そういうったコミュニケーションができるようになるのでしょうか?
謝罪について理解を深める上では、なぜ人は怒るのかという怒りの「メカニズム」を理解しておくことが大切です。
ー怒りのメカニズム、ですか?
はい。「アンガーマネジメント」と呼ばれる考え方です。
怒りは二次感情と言われていて、一次感情である、悔しい、苦しい、悲しいといった感情が一定の許容量を超えた瞬間に、二次感情である怒りが発生すると教わったことがあります。
ちょうどコップに水が注がれ、どこかのタイミングであふれてしまうようなイメージですね。
【イメージ】
つまり、相手の怒りをしずめるには、相手が一次感情を引き起こしている原因が何なのかをしっかりと見定める必要があるということですね。
ー相手が怒っているという、表面的な部分にとらわれ過ぎないようにしなければいけないわけですね。
はい。その点がしっかり理解できていると、謝罪の仕方や言葉づかいも変わってくるはずなんですね。間違っても「怒らせてしまって申し訳ありません!」なんて言いませんよね。
そうではなく、なぜ怒らせてしまったのか、その理由に対して申し訳ありませんと言わなければなりません。
謝罪に行くこと自体が目的になってしまうと、もれなく失敗してしまいます。ぜひ気をつけたいところですね。
ー越川さんがこれまでに経験されてきた謝罪シーンを振り返ってみて、特に相手の怒りの感情が大きかった顧客には、どのような共通点がありましたか?
やはり、関係性が近い人ほど怒りの感情が激しくなる傾向がありますね。
ーと、いいますと?
簡単にいうと、その商品や担当者の「ファン」ですよね。もともと好きだと思っていたぶん、裏切られたときのギャップが大きくなるわけです。ですが、必ずしも悲観的になる必要はありません。
私も数々の謝罪訪問を経験してきましたが、実は現在のクライアント顧客の半分くらいが謝罪に行った先の会社です。
ーそうなんですね!それはすごい。
もともと商品なり、担当者なりに一定の好意を抱いてくれていたわけですので、一時的に落ちた信頼を取り戻すことができれば、むしろその後はより強固な関係を築くことができる可能性があります。
ーそれでは、謝罪に関する具体的なお話を聞かせていただけますか?
まず確認しておきたいのは、トラブルが発生する頻度です。年に一度しかトラブルが起こらないようであれば、即座に対応すれば済みます。
それが頻繁に発生していたり、特定の商品に偏ってトラブルが起こっているようであれば、一度プロセスを見直して対策をとるべきですね。
また、頻度に限らず重要なのは、初動の対応を誤らないことです。
トラブルが起きた場合は、すぐに顧客へ連絡を入れて状況を確認したり、またその際の連絡の手段もメールではなく電話を使ったりというのが基本です。
ダメな例としては、本当は復旧まで3日かかる障害なのにも関わらず、その場の相手の感情を抑えたいばかりに「すぐに直ります!」と伝えてしまうことです。
これは明らかに初動の対応を誤ってしまっていますよね。
ー状況にもよると思うのですが、やはり突然のことで、ものすごい剣幕で怒りを買ってしまいっている状況では、どのように対応すればよいのでしょうか?
そういった場合は、適切な回避策を伝えてあげるというのも一つです。
たとえば、食品メーカーで商品に何かしらの不具合があったとします。
にも関わらず、顧客がその商品を口にしてしまったという状況では、大量の水を飲んでトイレで流した方がいいのか、それとも強引に嘔吐した方がいいのか、といった手段が考えられます。
適切な回避策を提示できれば、その後の対応を最小限に抑えることができます。
ーその後に待っているであろう、「謝罪訪問」についてはいかがですか?
まず覚えておきたいのが、謝罪訪問は準備が8割ということです。
謝罪訪問の前にあらゆる情報を取得して、可能な限りリスクを減らしておく必要があります。
ーなるほど。具体的にはなぜでしょう?
単純な話で、謝罪訪問中は聞くことが許されないからです。
あらゆる状況を事前に理解しておかないと、「そんなことも知らなかったのか!」とさらに火に油を注ぐことになってしまいます。
事前に営業担当と連携して、顧客がなぜ呼び出しているのか、何に怒っているのかという一次感情を確認します。
その上で、
といった点を中心に確認します。
相手が何を知りたくて、どうしてもらいたいのかがわかってこそ、こちら側も対応ができるわけですね。
ーそれでは逆に、これはやってはいけないという謝罪時のNG例について教えてください。
謝罪訪問というと、みなさん菓子折りを持参して訪問するというイメージを持たれる方が多いと思います。
ですが、初回の謝罪訪問時には菓子折りを持参しないことをお勧めします。なぜなら、持っていくタイミングが違うからです。
トラブルが収束し今後の連絡体制など建設的な話し合いをする時に持参すべきです。3度目の訪問時くらいです。
ー一社で複数回訪問することもあるんですね。
多くのケースで複数回訪問します。頭を下げるのが目的ではなく、再発防止策をご理解してもらうことが目的だからです。
失墜した信頼を回復する為に、トラブル解決後の「何も起きていない時」にも、状況報告のために訪問します。
ー言ってはいけない言葉はありますか?
謝罪訪問の際にグッとこらえなくてはいけないのが、「絶対に直します!」というような無理な約束をしてしまうことです。
反射的にできないことを言ってしまうのが、後で一番トラブルになります。
ーそれ以外に、注意しておくべきことはなんですか?
細かいところでいえば、濁音ですね。具体的には「だ行」や「ざ行」の言葉です。
先ほどの「絶対に」もそうですが、濁音から始まる言葉は、耳障りな印象を与えて相手を不快にさせてしまうことがあります。
謝罪の際に使いがちな言葉としては、「どうも・・・」「〜だと思います」「ですが・・・」「だが、しかし・・・」ですね。
これらの言葉は別の言い回しに直すことをおすすめします。
ー最後に伺いたいのが、メンタル面についてです。謝罪訪問というと、可能であれば誰もが避けたい仕事の一つだと思うのですが、どういう気持ちで臨むべきなのでしょうか。
「企業」と「個人」、2つの目線があると思います。
まず企業目線でいうと、私たちは営利企業ですので利益を出さなければいけません。
そして自分たちの給料は顧客からいただいているということ、この2つは決して忘れてはいけません。
何かトラブルが起きた際に、謝罪訪問によって契約が切られてしまうのを回避するのは最低限ですが、そこからさらに自社サービスを使い続けてもらって、ビジネスの拡大に繋げないといけません。
顧客としても、本来は継続して利用したい方々がほとんどですので、そこはしっかり使い続けてもらえるように丁寧に説明する必要があります。
個人の目線でいうと、相手がなぜ謝罪を要求しているのかをしっかり把握することが重要です。
見えない不安に怯えてしまうあまり、顧客が必要だと思っていないことを準備しても意味がありませんよね。
謝罪訪問することもひとつの営業活動ですので、顧客が来て欲しいということであれば足を運ぶのは当たり前です。
つまり、顧客が欲しいものがあれば提供するという考えで向き合うのがいいと思います。
私も人間ですから、怖いものは怖いです(笑)ただ、そういう状況を作ってしまっているのは自分たちの責任です。
大変なぶん、乗り越えたときの達成感は想像以上だと思いますので、そこを目指して山登りしてもらえたらよいのではないでしょうか。
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