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長年勤務した企業を退職して心機一転、独立して事業を行おうというとき、前職が何であるかを重要視する人がいます。
しかし、実際に起業して活躍している人のなかで、前職が独立後の業績に大きく影響しているケースは意外にも多くありません。
ここでは、独立と前職との関係と、独立後に顧客が求めることについて解説します。
優秀な会社員と有能な経営者は違う。前職の看板が顧客に響かない理由
企業から独立して自分で事業を行いたい、と考えるとき、その理由として何が挙げられるでしょうか。
自分には会社員として働くことが向いていない、1人完結型の仕事がしたいなど、理由はさまざまでしょう。
一方、独立を望む心理には「独立しても自分は何とかやっていけるだろう」という自信もあるはずです。自信がなければ、そもそも独立しようとは考えません。
その自信の裏付けは、企業で働くにあたってある程度の業績を収めてきたことにあります。
優秀な会社員として部下から慕われ、上司の信頼も得ていた人であるケースが多いでしょう。
もし、勤務していた企業が名の知れたところであれば、なおさら独立への自信は増幅されます。
なぜなら、その企業に勤めていたという自分の経歴が、独立後の顧客獲得にも一躍買ってくれるだろうという期待があるからです。
会社員として働くなかで、自分の名前で顧客を獲得することは難しくとも、企業の看板を提示することで信頼を得られたという経験を積んでいれば、なおのこと前職の看板に頼りたくなります。
しかし、独立後の現実はそうはいきません。企業を退職し、独立を果たしたと同時に、これまで頼っていた企業の看板はまったく意味をなさなくなります。
企業の看板は、会社員として働く人間に与えられる特権のようなものであり、独立した人間にはその特権はありません。文字通り、一からのスタートです。
独立後に掲げる看板は経営者自身の名前であり、人柄であり、仕事ぶりです。顧客からの信頼を獲得するためにできることをフル動員する必要があります。
もちろん、例外はあります。その企業が行っているひとつの事業を別会社として請け負った場合や、その企業が出資した子会社の経営者となった場合は、前職の看板が意味をなすでしょう。
また、個人でコメンテーターなどの仕事をする場合も、これまでの職歴や経歴が重要視されることもあります。
しかし、その場合であっても信頼を得られなければ顧客も仕事も集まりません。優秀な会社員が有能な経営者になれるとは限らず、そのことを顧客は知っています。
これが、前職の看板が顧客に響かない理由です。
大切なのは「今、何ができるか」。顧客は過去の栄光を求めていない
独立し、安定した事業を継続していくためには、顧客を開拓していく必要があります。
新たに顧客を獲得し、継続して利用してもらうには、顧客のニーズを把握することが最優先事項です。
もちろん、独立する際には「今現在、世の中の人たちはこういうサービス、商品を求めているのだろう」というニーズに沿った事業内容を考えるでしょう。
しかし、ここでいう顧客のニーズとは、もっと本質的なことにあります。もし、自分が顧客だったら、どのようなアプローチが心に響くか考えてみましょう。
「私はこういう思いでこういう事業を始めた。私にはこういうことができる。それは他の人にはできないことである」、「私は以前、〇〇会社で部長をやっていて、年間の個人売上高は〇千万円で、上司からも信頼されていた」
どちらが顧客のニーズに訴求できるかは火を見るよりも明らかです。
前者は、企業の一員としてではなく経営者としての夢や希望が感じられ、サービスや商品の価値もしっかりとアピールできています。
一方、後者は独立しているというのに未だ企業の一員としての視点で物事を話しており、単なる自己PRに過ぎません。
そればかりか、過去の栄光にしがみついている印象さえ与えてしまいます。前職の看板に頼るということは、どうしても経営者としての視点を忘れがちになります。
その看板のもとで働いていたのですから、当然のことといえるでしょう。しかし、それでは顧客は納得しません。「それで、何ができるの?」という疑問を抱かせてしまいます。
顧客は過去の栄光を求めているわけではなく、今、納得できるサービスや商品を手に入れられるかということが重要なのです。
会社員として働いているうちは、上司に目線を向けていても問題はありません。
懸命に契約をとるのも、上司に評価され、結果として賃金が上がることを期待しているからです。
しかし、経営者の目線は、常に顧客の方向を向いている必要があります。
顧客が求めていることは何か、そのために今できることは何かを考え、自分のアンテナを張り巡らせて、感性を磨くことが大切です。
前職と同業種で独立する際の注意点。守るべきモラルとは?
前職と同業種での独立は、とても多いケースです。異業種の勉強を一からする必要がなく、前職で培ったコネクションも活かせるため、独立のハードルが低いことが理由でしょう。
しかし、このケースでは自分自身のモラルを高く持つことが非常に重要になります。
独立後、前職で知り得た情報を事業で使用する場合は、やっていいことと悪いことのラインを明確にしなければなりません。
独立後に活かしていいのは、前職で培ったスキルや経験です。新たに取引業者を選定する際なども、コネクションがあるのであれば相談してもいいでしょう。
一方、情報の取り扱いには注意が必要です。前職で得た顧客データやマニュアル、その他社外秘とされるものを社外に持ち出すのは言語道断といえるでしょう。
ところが、仕事を懸命にやってきたのなら、顧客データは頭の中に記憶されていますし、マニュアルも手元にはなくともすでに身についているはずです。
それらを活用し、顧客や同僚を引き抜くことは100%悪ではありません。しかし、その顧客は前職の看板によって得たものであり、同僚も前職に勤務していたからこそ出会った人間です。
そのことを忘れず、節度ある態度が求められます。もちろん、顧客や同僚自身が新たな事業内容に賛同し、協力したいと願い出てきた場合は、必ずしも拒否しなければいけないというわけではありません。
あくまでも周囲から見て「節操がない」と評価されるような行動を慎むということです。
前職と同業種で独立するということは、前職の企業とライバル関係になるということでもあります。
独立のハードルが低い分、自身のモラルが低下すれば抱えるリスクは大きいものになると考えておいたほうがいいでしょう。
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