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企業の経営を後継者に引き継ぎ、末長く存続させるための方法が「事業継承」です。多くの企業にとって事業継承は大きな課題であり、失敗するとそのまま経営が傾いてしまうリスクすら生まれます。あらかじめ想定される問題に対策を練って経営体制を守りましょう。
この記事では、注意するべき事業継承のリスクを紹介していきます。
継承の前に後継者は育っているか?
非常に順調な経営を見せていた企業が、事業継承後に勢いを失ってしまう現象は珍しくありません。考えられる原因の一つが「後継者問題」です。経営者の資質を備えた後継者が見つかっていないのに、強引に事業継承を進めると経営に悪影響が及ぶでしょう。「後継者がいないリスク」は、先代の経営者が優秀であるときほど現れがちです。カリスマ経営者の手腕に企業全体が依存してしまうため、他の人材が育ちにくくなっていくのです。そうしたケースでは、いざ事業継承をする段階になってから、実力不足が露呈します。
後継者を確保するには、経営者が「育てる」意識を持つことが大切でしょう。現役時代からあえて業務を分担し、自分以外にも経営の知識を持った人間を側に置くよう心がけます。また、ときには自分が口を挟まず、部下の自主性に任せて仕事をさせることも大切です。
さらに、得意先との重要な商談にも部下を連れて行くなど、顔を売っておくことも意識しましょう。後継者の育成は短期間で終わるものではありません。長期的な視野で、ゆっくりと着実に教育していきましょう。
事業継承は税金もかかる!
経営者がもしも亡くなった場合、事業継承では「相続税」が発生します。企業も個人の財産の一部とみなされるので、後継者は税金を払わなくてはいけません。また、生前に継承を行ったとしても「贈与税」が出てくる可能性もあります。贈与税の対象となるのは、会社の株式です。株式会社の場合、後継者には会社の株券も贈与するので税金の対象となってしまうのです。別会社に買収される「M&A」での事業継承でも、法人税や消費税がかかるので注意しましょう。
税金対策は、先代の経営者がしっかり行っておくべき作業です。例えば、「事業承継税制」が適用できないか調べておくことが大切です。事業承継税制は、中小企業における事業継承の負担が減らせるように設けられました。主に、非上場株式等の贈与税免除や、相続税免除が受けられるシステムです。
適用条件としては非上場企業であること以外に「中小企業」「風営法にあてはまらない」「直前の年度の収入がある」などが挙げられます。事業継承では、税金によってダメージを負ってしまうことが珍しくありません。可能なら、税制を駆使して後継者の負担を減らしましょう。
後継者に十分な社会的信用がないケース
企業の成長には、「経営者への信用」が不可欠です。経営者が信用されているからこそ、金融機関やスポンサーは資金を融資してくれます。また、経営者の人柄によって成立している契約もあるでしょう。こうした信頼関係が揺らぎかねないのは事業継承のリスクです。後任者に前任者ほどの社会的信用がないと、急に融資を打ち切られてしまうことも出てきます。大手との契約がなくなったり、顧客からのイメージが悪くなったりするのも経営に影響を及ぼすでしょう。
融資に関しては、「中小企業信用保険法の特例」によって解決することが可能です。中小企業信用保険法の特例が認められると、信用保証協会が保証してくれる金額の上限が大きくなります。また、「日本政策金融公庫」「沖縄振興開発金融公庫」といった国の公庫を利用して融資を受ける手段もあります。ただし、これらの方法を実現するには、経済産業大臣の認定を受けなくてはいけないので、早めに手続きをしましょう。
その他、事業継承後に企業のイメージを損なわないためには前任者自ら後任者を周囲に紹介して引継ぎを丁寧に行うことが重要です。信用ある前任者が後任者を評価すれば、周囲も認めてくれやすくなるでしょう。
相続人への「遺留分」を払わなければいけないことも
前任者が亡くなり、慌てて事業継承を行うと起こりやすいトラブルが「遺留分」をめぐる争いです。通常、経営権は前もって決められていたナンバーツーの社員に引き継がれます。その他、M&Aによって事業継承を図る企業もあるでしょう。ところが、企業もまた故人の遺産に該当するので、遺族が相続権を主張してくることがあります。
遺族が社外の人間なら経営権を渡すわけにはいかないので、遺留分に相当する額を支払わなくてはいけません。支払い額は法定相続分の50%にものぼることがあり、企業にとっては大きな出費になってしまいます。
遺留分で揉めないためには、遺族との「合意」を取り付けるようにしましょう。企業の財産を遺留分から除くよう交渉し、遺族に納得してもらいます。ただし、口約束では効力がないので、経済産業大臣の確認を受けて家庭裁判所の許可を求めるのが基本です。
裁判所の許可が下りた上で作成される合意書には法的な効力があり、遺族は遺留分を請求できなくなります。それでも、遺族がすんなりと合意してくれるとは限りません。交渉時には「これだけの額なら払える」など妥協案を持ちかけるのが効果的です。
M&Aでは買い手の選び方に気をつけよう
M&Aは事業継承の手段として、多くの企業が選ぶようになりました。後継者がいなかったり業績が落ちていたりして企業の存続が困難な場合、別会社に買収されることで生き残る道が生まれます。ただし、M&Aでは買い手の選択が非常に大切です。選択を誤ると、買収された後で売り手企業が跡形もなくなってしまうリスクが生まれます。あくまでも事業継承目的で企業を売るのであれば、買い手企業との意思確認は必須でしょう。
まず、買い手の目的を聞き出します。単に拠点が欲しかったり従業員を増やしたりしたくてM&Aを行う企業も少なくありません。売り手の事業に関心があり、買収後も残そうとしてくれるかどうかを確かめましょう。次に、買収後の経営についてすり合わせます。買い手が完全に経営をコントロールしたいなら、事業は全くの別物になることもありえます。
一方で、買い手がこれまでの事業を評価してくれているなら、M&A後でも大きく社風を変えずに済むでしょう。ただ、あまりにも多くの条件を設定すると理想的な買い手が見つかりません。条件の優先順位を定めておくと買い手との交渉はスムーズになります。
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