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事業経営者にとって重大な局面となるのが事業承継です。ただ、その手続き自体は専門的な知識を必要とすることもあり、実行にあたっては専門機関の助力が必要となります。
そこで、心強い味方となっているのが金融機関です。金融機関のなかには、事業承継を含めた総合的なコンサルティングを行っているところもあり、うまく活用すればスムーズな事業承継が可能となります。
金融機関はどんな「事業承継支援」を行っているの?
金融機関が事業承継の支援を行う場合、手続き的な部分を含めて、総合的なコンサルティングとして支援を行っていることが多いです。
事業承継では単に後継者に事業所を譲るというだけでなく、新たなパートナーとの共同化を図るM&Aや財産相続、また会社の保有する資産の整理といった「事業形態の見直し」という要素もあります。そのため、株式の発行、株式の信託、不動産管理、相続手続きなど、幅広い分野をカバーするという点で金融機関によるコンサルティングは非常に効率的です。
支援の内容は金融機関によってさまざまですが、大きく分けると「株式の承継に関するもの」「後継者の育成」の2つの面で支援を行っています。
株式の発行に関しては、事業承継の法的手続きの根幹の部分といっていいでしょう。株式の発行状況の調査、承継手続きを行い、特例制度などの適用を受けるための事業計画書の提出などを行います。また、金融機関の多くは自社株承継信託という信託機能を持っているので、事業承継のかたち、要望にあわせて柔軟な株式承継の形態を準備できるという強みもあります。
後継者の育成に関しては、自社の現状分析や経営コンサルといった支援を行うだけでなく、金融機関によっては事業運営に関する研修プログラムを用意しているところもあります。会社の規模を拡大、縮小したい、あるいは新たな事業拡大のためにパートナーを探したい、というケースも多いので、金融機関の豊富なネットワークによる支援はここでも強みとなってくるでしょう。
事業承継支援に力を入れている代表的な金融機関
事業承継支援を行っている代表的な金融機関はどんなところでしょうか。ここでは「山梨中央銀行」と「埼玉りそな銀行」のサービスを代表例として紹介していきます。
単なる相続税対策にとどまらない支援をする
「山梨中央銀行」 山梨中央銀行では、専門の事業承継支援チームによる事業承継支援を行っているのが特徴です。地銀による事業承継支援というと相続税対策が主となる傾向があります。
ただ、山梨中央銀行は事業承継を単なる相続性対策の一環としては考えてはいません。会社の現状をしっかり分析して、承継後も会社の経営を安定化できるよう、専門家によるしっかりとした事業承継スキームを提案をすることを支援方針としています。この点は地域密着型の金融機関として、地元の企業を積極的に支援していこうとする山梨中央銀行の経営方針を、支援の基盤としているといえるでしょう。
専門家チームによる支援体制が充実
「埼玉りそな銀行」 「埼玉りそな銀行」は事業承継支援に積極的な金融機関の1つです。「後継者対策」「自社株対策」「相続対策」の3つの柱を軸に、クライアントとの綿密な打ち合わせによって支援の方向性を決めていくという姿勢をとっています。
相談窓口となるのは「プレミアオフィス」という専門スタッフ集団です。この相談スタッフはFP技能士などの有資格者の専門コンサルタント、顧問税理士や外部専門家によって形成されていて、自社株の評価、相続対策、経営状況の検証などを行い、今後の方針を提案してくれます。
また、りそなグループの得意とする信託機能を生かした「自社株承継信託」など、会社が承継後も安定的に継続していくためのさまざまなノウハウを持っていることも強みといえます。
地方の金融機関は「事業承継支援」に熱心な傾向あり
経営者の高齢化問題は日本の中小企業にとって大きな経営課題となりつつあります。とくに中小企業を金融面でもサポートすることになる地方の金融機関は地域経済の活性化のために事業承継支援は欠かせない分野と考えているところが多いです。
たとえば、神奈川県では横浜銀行、神奈川銀行などが事業承継を支援するためのファンドを立ち上げています。各地方でもこうした地銀同士の連携によって事業承継を支援する動きは広がっているといえるでしょう。
また、株式の承継、後継者の育成といった基本的な分野だけでなく、島根県の山陰合同銀行のように承継先となる企業や取引先を新たに探す「ビジネスマッチング」にも力を入れている銀行も増えつつあります。
このように、単なる相続税対策、後継者問題対策にとどまらない、「企業支援」として、事業承継を支援する銀行が増えてきているというのが現状です。
金融機関は支援を行う上でチェックしていることとは
金融機関は事業承継を支援していくうえで、どのような点をチェックしているのでしょうか。
まず、事業承継の大きなポイントとなるのは発行済議決権株式の交付状況です。法律制度上、事業承継は株式の譲渡というかたちで行われるので、金融機関は株券の交付状況をきちんと把握しておきたいと考えています。
ただ、長らく同族経営をしてきた会社、株式の移動などがほとんどなかった会社では、株券の交付状況が過去の株券譲渡の経緯などを含めて、あいまいな状態になっていることが多いです。そのため、金融機関に事業承継の支援をお願いする場合には、できるだけ現状の株券発行状況や過去の株式の譲渡履歴などの情報を正確に提示するという姿勢で臨むことが重要です。
こうした株式の状況のほかにも、事業承継の特例制度の適用での重要になる会社の資産の状態についても、金融機関は正確な情報を知りたいと考えています。この点でも、同族経営の会社などでは、家族などの身内の間で会社の資産にあたる不動産などを賃貸借契約や業務委託契約しているケースも多々あるでしょう。
事業承継の方法によっては、こうした資産の関連当事者取引に当たる部分を解消する必要があります。したがって、金融機関は会社の資産状況を正確に把握したいと考えているので、これも重要なチェックポイントとなっています。
様々な支援を行ってくれるので金融機関選びが重要
事業承継は手続きが専門的で複雑です。法的な知識や経営に関する知識も必要なので、事業承継やM&Aに詳しく、豊富な事例を経験している専門機関と共同してすすめていく必要があります。
そうした専門機関として心強い味方となってくれるのが金融機関です。経営者にとっては地元の金融機関とは付き合いが長いこともあり、こうした金融機関は会社に関する情報などをよく把握していることも、事業承継を共に行うパートナーとして適役となる理由の1つでしょう。
金融機関によって様々な支援を行ってくれるので、事業承継の支援に力を入れている金融機関を選んで、スムーズな手続きが行えるように準備しておくことが重要です。
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