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事業承継を行うにあたっては、後継者を誰にするのかという問題、財産相続の問題など、検討して対策を講じなければならないことが数多くあります。頭を悩ませている経営者も多いのではないでしょうか。
そのような場合には、「会社分割」制度を活用した方法が、スムーズな事業承継の一助となるかもしれません。会社分割による事業承継について解説します。
事業承継に会社分割を活用する意義とは?
会社分割が事業承継においても利用される場合、そこにはどのような意義があるのでしょうか。例えば、現経営者の甲に、乙と丙という2人の子供がいるとします。通常の事業承継であれば、この乙と丙のどちらか一方だけを後継者として選び、自社株式をはじめとする資産を引き継がせるということが、まずは真っ先に検討されるでしょう。
しかしこの方法では、後継者に選ばれなかった方が不満を募らせるリスクがあります。もともとは乙と丙の仲が良かったとしても、この決定がきっかけとなって犬猿の仲になってしまうというケースも考えられます。 また、例え甲の存命中には目立った争いが起こらなかったとしても、甲が亡くなった途端に、乙と丙との間で相続などを巡ってトラブルになるというのも、充分にあり得ることです。
さらに、乙と丙のどちらが後継者として相応しいのか、簡単には判断できない場合もあります。乙も丙も、どちらの能力にも一長一短があるということが通常です。
乙は美容情報に詳しいけれどそれ以外には疎く、一方の丙は美容には疎いけれど、食べることが大好きで新たな料理の創作にも熱心と言った場合、美容事業も食品事業も手掛けている甲株式会社は、どちらを後継者とすれば良いか迷ってしまうかもしれません。
このようなときに役立つのが、会社分割の考え方です。会社分割によって食品事業を切り離し、「甲株式会社自体は乙に継がせるけれど、切り離した食品事業は丙に任せたい」とすれば、乙と丙の間で諍いが起こりにくいですし、乙も丙もそれぞれの事業に情熱を持って取り組むことができるのです。
会社分割とはどういうものか?
ではそもそも、会社分割というのはどのようなものなのでしょうか。会社分割は、会社をいくつかに分割し、事業に関する権利義務や組織の一部、または全部を移譲することです。組織再編のときに用いられることが多い手法です。会社分割にも2つの方法があります。一つは「吸収分割」で、もう一つは「新設分割」です。
「吸収分割」は、現在すでにある会社に対して、事業や組織を移譲します。例えば株式会社Aと株式会社Bがあったとして、株式会社Aが自社の冷凍食品事業を手放し、株式会社Bにその事業を移譲するというのが「吸収分割」です。 このとき、事業を手放す株式会社Aは分割会社、引き継ぐ株式会社Bは承継会社と呼ばれます。
一方「新設分割」は、今は存在していない会社を新たに設立し、その会社に対して事業を引き継がせる方法です。「吸収分割」の場合、どの事業を切り離して承継させるのかという点については、分割会社と承継会社双方で結ぶ吸収分割契約によって、定めることができます。
「新設分割」であれば、新設分割計画の中でその内容を定めます。ただし、吸収分割は契約で定めた効力発生日の前日までに、新設分割は新設分割の登記を行う前までに、株主総会を開催して特別決議を行い、会社分割について株主の承認を得ることが原則です。
どちらの方法であっても重要なのは、どのように事業を切り分けて承継させるのかという点です。冷凍食品事業や美容事業などの分野で分けるだけではなく、製造部門・販売部門といった部門で分ける、関西・関東などのエリアで分ける、といったいくつかの方法が考えられます。
事業承継に会社分割を利用する方法
ここからは具体的に、会社分割制度を利用した事業承継の方法を紹介していきます。方法には2つあり、一つは「按分型分割」で、もう一つは「非按分型分割」です。まずは、「按分型分割」や「非按分型分割」という言葉の意味について、解説しておきます。
例えば、株式会社Aと株式会社Bとの間で会社の分割契約を結び、新設した株式会社Cにそれぞれ冷凍食品事業と美容事業を引き継がせます。株式会社Aの株主はAのみ、株式会社Bの株主はBのみです。このとき、株式会社Cの株式を、株主A、株主Bに対してそれぞれ割り当てる方法が、按分型分割です。
一方で、株式会社Cの株式を、AあるいはBの片方のみに割り当てる方法が非按分型分割です。ちなみに、按分型分割であろうと非按分型分割であろうと、株主に対して対価を支払う形をとる会社分割は、法人税法上の用語で「分割型分割」と呼ばれています。
按分型分割による事業承継
按分型分割を事業承継に利用するときには、次のようになります。
甲株式会社の経営者である甲には、乙と丙の2人の子供がいたとします。甲は、後継者を乙と決めています。一方で甲は、新たに丙株式会社を設立し、甲株式会社から食品事業を切り離して丙株式会社に引き継ぎました。
丙株式会社を経営するのは、丙です。甲株式会社の持ち株比率は、甲、乙、丙で「8:1:1」だとします。このとき按分型分割では、新たに設立した丙株式会社の株式も、甲、乙、丙で「8:1:1」となるように割り当てます。 その後は少しずつ、丙が保有している甲株式を乙に、乙が保有している丙株式を丙に、移転していきます。
こうすることによって最終的には、甲株式会社の株主は甲と乙のみに、丙株式会社の株主は甲と丙のみになり、のちに事業承継を行いやすくなるというわけです。これが、按分型分割を活用した事業承継です。
非按分型分割による事業承継
非按分型分割というのは前述したように、分割型分割のうち、一部の株主に対して対価を払う方法です。先の甲株式会社の例で言うと、新たに設立した丙株式会社の株式を、乙には割り当てずに丙のみに割り当てるという手法になります。この方法を採用すると、乙と丙とで株式の移転を行う必要はありません。しかし丙には、丙株式会社の株式を引き受けるだけの資金があることが求められます。
会社分割をした後の承継手続きはどうなる?
按分型分割で会社分割を行った場合には、甲株式会社の株主は最終的には甲と乙、丙株式会社の株主は甲と丙になります。ですから、あとは甲に相続が発生した時に、甲株式を乙に、丙株式を丙に継がせることによって事業承継が完了します。非按分型分割を行ったときには、甲が、甲株式を乙に相続させることで、事業承継における株式移転という目的は達成されます。
しかし、会社分割をするにあたっては、いろいろと煩雑な手続きがあります。また、事業承継における手続きも、株式の移転だけで終わるわけではありません。事業承継に会社分割を活用する際には、早い段階から準備を進めておくことが大切です。
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