事業承継税制を利用するために満たすべきさまざまな要件とは

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事業承継税制という制度があります。事業承継で引き継ぐ財産にかかる税金を、猶予または免除することで、後継者の税負担を軽くしようとするものです。この税制を利用しなければ、引き継いだ財産には相続税や贈与税がかかります。2つの税金負担は重く、そのために事業承継をあきらめる企業もあるほどです。

ここでは、事業承継税制の内容と、利用するための要件について解説します。

事業承継税制とは

事業承継税制とは、事業承継の際に引き継ぐ財産のうち、非上場株式の承継にかかる相続税と贈与税の納税を、猶予及び免除する措置を定めた制度です。正式名称は「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除」、「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除」となります。厳密には非上場株式だけではなく、持分会社による出資なども対象となりますが、ここでは株式について解説していきます。

事業承継税制による効果は、正式名称からも分かるように相続税と贈与税の2つに対して発生します。

相続税に対する事業承継税制の効果ですが、まず、中小企業の経営者が保有する非上場株式を、相続によって後継者が取得した場合には、一定の要件を満たすことで相続税の納税が猶予になります。その後に後継者が死亡したときにも、要件を満たしていれば、猶予されていた相続税の納付はそのまま免除されることになります。

次に、贈与税についてですが、中小企業の経営者が保有する非上場株式を、贈与によって後継者が取得した場合に、一定の要件を満たすことで贈与税の納付が猶予になります。その後に先代経営者または後継者が死亡した際にも、要件を満たしていれば、猶予されていた贈与税はそのまま免除されます。

このような制度が生まれた背景には、事業承継がなかなか進まない現状があります。日本の企業において多くの割合を占めているのは、大企業よりも中小企業です。中小企業が日本経済を支えていると言っても、過言ではありません。しかし、その中小企業の経営者においても高齢化は進み、世代交代を迫られるようになりました。ところが、事業承継が進みません。承継が進まないがため、廃業を選択する企業の経営者も多くいるのです。

事業承継が進まないのには、後継者の不在問題が理由としてありますが、財産移転の際の重い税負担も原因となっていると言われています。 政府としては、日本経済を支えている中小企業が廃業などに追い込まれずに、できるだけ長く存続して事業を発展させてくれた方が良いですから、事業承継を進めるための対策をいろいろと試みています。そうして創設されたのが、事業承継税制なのです。

事業承継税制は平成21年に整備されました。その後は、中小企業にとってより使いやすい制度となるように、幾度も改正がなされています。ところで、事業承継税制をこのまま推進していけば、贈与税や相続税の負担が軽減されて中小企業にとっては非常に助かる一方、政府からすると、税収入が大幅に減ってしまいます。この点政府は、税収入が減ることよりも、中小企業が事業承継できずに衰退していってしまうことの方を、危惧しているようです。

事業承継税制におけるメリットとデメリット

事業承継税制を利用することによるメリットやデメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。

まず、メリットは何と言っても経営者から相続または贈与によって非上場株式を取得した後継者は、相続税や贈与税の納付を猶予してもらえるということです。さらに、一定の要件を満たせば最終的には納税を免除される可能性もあります。満たすべき要件がいくつかありますが、事業承継税制は頻繁に改正されていて、その都度要件が緩和されることがほとんどです。

また、この制度によってすでに相続税や贈与税の猶予を受けている場合も、その後の改正で要件が緩和されれば、手続きによって改正後の要件が適用されることがあります。事業承継を考える中小企業は、事業承継税制の利用を一度は検討してみた方が良いでしょう。

次に、デメリットですが、納税が猶予され続けるための要件が厳しいという点が挙げられます。事業承継税制は、最初に猶予が認められれば、そのまま無条件にずっと猶予されるわけではありません。適用され続けるために、税の申告期限から5年の間、後継者が会社の代表であることが必要です。

さらに、後継者が5年にわたって株式を保有し続けることも、要件となっています。 5年経った後についても、後継者が株式を保有し続けていない場合、他の要件を満たしたとしても最終的な税の免除はありません。つまり、長期にわたって同じ経営体制であり続けることが求められています。今後この点について改正がなされない限り、要件としては厳しいということが言えるでしょう。

事業承継税制が適用されるための要件

前項で、納税が猶予され続けるための要件について触れましたが、そもそも事業承継税制を利用する際にも、要件が定められています。それは、会社の要件・後継者の要件・先代経営者の要件です。会社の要件として、中小企業であること・非上場会社であること・従業員が1人以上であること・売り上げがゼロを超えることなどが定められています。

後継者については、代表権を有していること・贈与や相続後に、後継者と特別関係者で会社の議決権の50%超の議決権を有していること、などが要件とされています。 先代経営者に関する要件には、過去に代表権を有していたこと・贈与や相続の前に、先代と特別関係者とで50%超の議決権を有していることなどがあります。

また、経済産業大臣の認定を受けることも要件ですし、担保提供に関する要件なども、満たしていることが必要です。

事業承継税制の要件の緩和

これまで解説したように、事業承継税制を利用するために、さまざまな要件があります。

中小企業の事業承継を推進するために定められた税制ですが、事業承継税制の要件を満たす際のハードルの高さから、適用件数はまだそれほど多くありません。制度の創設から平成28年までで、贈与税への適用は626件、相続税に関しては894件でした。現状を鑑みた政府は平成30年、さらに事業承継税制を改正して、要件などを大幅に緩和しています。

主な改正内容は、発行済議決権株式総数の上限撤廃・納税猶予割合の拡大・税制対象者の拡大・雇用維持要件の緩和・売却時等の納税額減免措置です。この改正税制は、平成30年1月1日から10年間に限って認められる特例措置ですが、中小企業にとってより便利な制度となったことは間違いないでしょう。

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