事業承継の命運を握る代表権とは?その意味と引き継ぎ方法

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もしも事業承継を行うつもりがあるなら、代表権の引き継ぎは大きな課題です。なぜなら、万が一引き継ぎに失敗してしまうと、事業承継後に会社が経営体制を保てなくなる恐れが出てくるからです。正しい手順で代表権を移行させる作業を行いましょう。

この記事では、事業承継における代表権の意味や、失敗しない引き継ぎ方法を解説していきます。

代表権には2つの意味がある!

まず、押さえておきたいのは「代表権」という言葉には2つの意味がある点です。

まずは、「リーダーシップ」を象徴する意味での代表権です。会社の経営者は、さまざまな要素を備えているからこそ従業員から慕われ、求心力を保つことができます。経営の手腕はもちろん、社員への労わりや困難に負けない精神力などもともなうからこそ、社員は「この人の下で働きたい」と考えてくれます。また、対外的にも魅力のある人柄がないと、取引先が相手してくれません。

ただし、こうしたリーダーシップは簡単に生まれるものではなく、本人の努力と経験の賜物です。事業承継では、新しい経営者を育てなければ健全な結果につながらないでしょう。

続いて、「法律上のリーダー」を象徴する意味での代表権です。本人の実力や人柄はさておき法的に「経営者である」と認められれば、その人には「代表権がある」といえます。経営者のいない会社は存続ができないので、事業承継では新しい経営者を正しい手続きで任命しなくてはいけません。具体的には、幹部の承諾を得たり、株券を承継したりして経営者を代替わりします。

これらの手続きを踏まずに事業承継を行っても、代表権は前任の経営者のもとに留まったままです。会社が新しい体制になったとは言えず、後任の経営者には実権がありません。しっかり代表権を移行させて、真の意味での事業承継を実現させましょう。

リーダーを育てるためにはどうすればいいのか?

一朝一夕で代表権の引き継ぎはできません。特に、リーダーシップという意味での代表権は、時間をかけて引き継ぐ必要があるでしょう。なぜなら、会社経営者に求められる「信用」は時間をかけて得ていくものだからです。

社員は経営者の実績を目にしてようやく、「この人のビジョンを共有したい」と思い始めます。取引先が仕事を依頼してくれたり、金融機関が融資をしたりするのも経営者と長年にわたって築き上げてきた関係性があるためです。代表権を引き継ぐことは、信用をリセットすることになりかねません。そうならないように、前任者が健在であるうちに後任者の信用を高めておくようにしましょう。

具体的には、早い段階で後任者を決めてしまい、前任者自ら引き継ぎ作業に当たります。前任者が後任者に「太鼓判を押している」との印象を与えると、社員や取引先も状況を受け入れてくれやすくなります。そして、事業承継を行った後でも、前任者は「取締役会長」名義で経営陣に名前を連ねておきましょう。その方が後任者の相談に乗りやすいだけでなく、取引先や金融機関への目配せにもなります。

ただし、前任者が発言力を持ちすぎると、リーダーシップはいつまで経っても引き継げません。少しずつ経営を後任者の判断に委ねていき、時期が来たら前任者は第一線から退きましょう。例えば、思い切って後任者に重大な仕事を任せてみることで、代表権の承継に近づけるかもしれません。

法的に代表権を引き継ぐための方法

代表権を法的に引き継ぐ前に、まず「社員の共感」を集めましょう。

多くの会社では、血縁者同士で代表権を引き継いでいます。しかし、こうしたやり方では一部社員から「身内を贔屓している」との悪印象を持たれがちです。特に、実績もない血縁者をいきなり後継者へと指名すれば、反発は避けられません。

もしも事業承継の方法に幹部が怒って、会社を辞めてしまおうものなら大打撃となります。したがって、後任者にも現場の経験を積ませて、実践的な能力を身につけさせてから管理職、幹部と段階的に引き上げていきます。経験とスキルがともなった上での後任者への指名であれば、ほとんどの社員が納得してくれるでしょう。

そして、事業承継の時期が来たら「株の引き継ぎ」を行います。会社経営においては、株の保有率がそのまま発言力に直結します。そのため、経営者が代表権を行使するには前任者から株を譲り受けなければいけません。

ただし、株の引き継ぎには費用が発生することもあります。例えば、後任者が前任者から株を買い取る場合には相当額を用意しなければなりません。前任者が株を贈与した場合でも、将来的に遺族から遺留分を請求される恐れが出てきます。血縁者同士の引継ぎであれば「相続」になるので、税金がかかってきてしまいます。

いずれにせよ、引き継ぎに費用がかかりすぎると、事業承継によって会社がダメージを受けます。対策を練って、少しでも円滑に事業承継を実現させましょう。

代表権を引き継ぐ際のコストを削減するには?

事業承継には往々にしてコストがかかります。相続税や贈与税がネックとなって代表権の引き継ぎが滞ってしまうなら、「事業承継税制」を頼ってみましょう。

事業承継税制では、特定の条件を満たした案件で納税を猶予してくれます。主な条件としては、「中小企業」「非上場企業」「風俗営業以外の事業」などが挙げられます。さらに、後継者にも「役員経験3年以上で代表権を有している」などの条件があるので、チェックしましょう。

これらの条件を満たした上で、贈与税の納期までに経済作業大臣からの認定を受けると、納税が猶予されます。

相続税についても、特定条件を満たし上で相続を始めてから8カ月以内に申請すると納税を猶予してもらえます。ここでも、経済作業大臣の認定は必須です。

また、後任者が遺族から遺留分を請求されるリスクも、事前の対策次第で抑えられます。前任者の遺族からすれば、後任者に引き継がれた株式や経営権は遺産にあたるため、遺留分を請求するのは当然の権利です。しかし、遺留分は多いときで引き継いだ資産の50%相当の額になるため、すべて支払っていると会社の大損害になります。

そこで、前任者が存命の間に、遺族とは遺留分についての交渉を進めておきましょう。遺族が遺留分を放棄したり、少額で納得してくれたりすると事業承継における不安が消えます。そして、後任者は代表権をスムーズに引き継ぎ、新体制での経営を始められるでしょう。

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