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平成30年度の税制改正で、事業承継に関する税制度が大きく改正されました。事業承継は経営者の高齢化が進む日本の多くの中小企業にとって喫緊の課題です。そこで、平成30年以降の5年以内に承継計画を提出し、10年以内に事業承継を行う経営者に対し、新制度を適用することが決まりました。これによって、多くの中小企業が円滑に事業承継に取り組めるように後押ししようというねらいです。
事業承継税制の改正で創設された「特例措置」とは
日本の企業のほぼ9割以上を占める中小企業、その経営者の平均年齢は60歳代です。平成30年の段階では60代半ばの経営者の数が最も多く、5年後、10年後にはこうした経営者はさらに高齢化することになります。そのため、会社の事業を次の世代にバトンタッチする「事業承継」が、国としても深刻な課題です。このまま10年間、何の手も打たなかった場合、事業をやめる会社の数が増えていくことで約650万人の雇用と約22兆円分のGDPが失われるという試算もあります。
そこで、国は事業承継税制を創設しました。平成30年度まで約8年間、この制度は運用されてきましたが、実際に制度を活用した事例はわずかに1965件と、まだまだ少ないのが現状です。この事態を重くみた政府は、平成30年の税制改革において、事業承継税制に新たな特例措置を設けることにし、企業経営者の世代交代をよりメリットのあるように後押ししようということになりました。
もともとの「事業承継税制」とは、非上場会社の株式などを先代の経営者から相続、あるいは贈与された場合に課税される「相続税」「贈与税」について、猶予もしくは免除が受けられるという特例です。基本的に都道府県知事の認定を受けることによって特例の恩恵が受けられることになっています。
適用を受けられ要件については「中小企業における経営の円滑化に関する法律」という法律に定められているのですが、基本的には資本金3億円以下、従業員300人以下の中小企業に適用される特例措置です。
そして、この税制の活用を促進すべく、あらたに「特例措置」が追加されたのが、平成30年度の税制改正ということになります。
「特例措置」の具体的な内容
あらたな「特例措置」の適用によって、事業承継をする経営者とその承継者が税制的により優遇される変更がありました。この制度は大きくわけて2つの内容が定められています。
まず1つめは、株式の承継に関する税の猶予です。
その中身とは、先代の経営者が代表権を後継者に譲った後に先代の持つ発行済株式の全てを贈与した場合、贈与税額の全額の納税猶予が受けられるというものです。贈与者が死亡した場合、贈与時点での評価額を相続税の課税価格として計算するため、猶予された贈与税額は免除となります。これにより、結果的に贈与税や相続税の支払いなしに事業承継が可能となりました。
2つめは複数の株主から、新たに代表者となる複数の後継者への贈与、相続に関しても税制の特例措置を受けられるようになる、というものです。
実際に中小企業の現場では、自社株を有しているのが経営者一人というわけではなく、親族や配偶者などが共同で保有しているケースが多くあります。そして、引き継ぐ側も1人の後継者が自社株の全てを受け継ぐ、というのはまれで、複数の後継者が引継ぎをするということも少なくありません。こうした多様な形をとる事業承継の実情に合わせるため、株式の引継ぎに関する要件を大幅に緩和することになりました。
ただし、株式を引き継ぐ後継者の数は3人までという制限があります。 この他にも、事業承継後5年間平均で雇用の8割を維持すること、という条件があったのですが、これは平成30年度の改正で撤廃されています。これにより、多くの中小企業が特例措置の適用を受けられるようになるでしょう。
「特例措置」を受けるための要件
特例措置を受けるには、原則として平成30年1月1日から令和5年3月31日までの間に、会社が「認定経営革新支援機関」の指導、および助言を受けて作成した「事業承継計画」を、都道府県に提出する必要があります。
その内容は主に次の6つの内容を記載する必要があります。その6つとは、「会社について」「特例を利用する経営者について」「特例を受ける後継者について」「事業承継が行われるまでの経営計画について」「事業承継後5年間の経営計画について」「認定支援機関による所見」です。
認定支援機関には税理士事務所や監査法人などが指定されていることがほとんどで、通常こうした専門機関の助力のもと、事業承継を進めていくことになるでしょう。 その他の主な要件もざっと確認しておきます。
まず認定対象会社の要件です。これは、中小企業庁の定める中小企業の定義に当てはまっている必要があります。具体的には以下の通りです。
製造業その他の業種では、資本金3億円以下、または従業員300人以下のいずれかの基準を満たすこと。卸売業では資本金1億円以下、または従業員100人以下、サービス業では資本金5000万円以下、または従業員100人以下、小売業では資本金5000万円以下、または従業員数50人以下、この条件のどれかを満たしていれば認定対象会社です。
そして、事業承継税制の適用を受けるには、認定要件を5年間守って事業を継続させることが必要です。つまり、特例措置の適用後、少なくとも5年は経営を維持させる必要があるということです。5年経過後は要件が緩和され、「対象株式を保有し続けること」「対象会社が資産管理会社に変わらないこと」という2つの要件さえ満たせば、特例措置を受け続けることができます。
さらに、贈与税や相続税を猶予する場合には、その額に相当する分を担保として提供しなければなりません。この担保となる分の株式を「担保株式」といい、通常はこれを法務局へ供託することによって担保とします。株式の発券がない会社の場合は、税務署に必要書類を提出することでその代替ができます。特例措置を受ける要件については以上の内容が基本的な内容です。
事業承継の特例措置によってどんな改正が行われた?現行法制との違い
それでは現行法制と特例措置の違いについて説明しておきましょう。
まず、1つめは対象となる株式です。現行法制では発行済議決権株式の総数の3分の2までが対象だったのが、特例措置では100%、全ての株式が対象となりました。
2つめは相続時の納税猶予対象の範囲です。現行法制では相続税の猶予対象は株式評価額の80%まででしたが、特例措置ではこれが株式評価額の100%まで、猶予対象となります。
3つめは株式所有者の要件の緩和です。現行法制では先代経営者のみからの贈与に限定されていましたが、特例措置では複数の株主からの贈与であってもかまいません。また、株式を受ける承継者側も「発行済議決権株式の10%を有する上位2名または3名」と、3人までの承継を特例対象として拡大しています。
そして、現行法制と違って手続きが必要となるのが「事業計画書の提出」です。これは先ほど説明した都道府県に提出する「事業承継計画書」のことで、提出期間は平成30年からの5年間となっています。特例措置の適用を受けるためには認定経営革新支援機関となっている専門機関に相談し、その助言を受けてすみやかに「事業承継計画」を都道府県に提出する必要があります。
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