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今、日本の中小企業では「大事業承継時代」の到来が叫ばれています。中小企業経営者の高齢化が進んでいるため、経営交代は必至です。しかしながら、後継者を見つけられず廃業に追い込まれる企業が散見されています。そんな中、経営者の方々が事業承継における状況・問題点、業況の改善割合などを知った上で、正しく事業承継を行うことこそ、日本経済への貢献のひとつです。
【結論】事業承継のアンケート調査結果から読み取った結果
事業承継を行う上で、今回のアンケート調査における最も重要な結果は、事業承継を行った企業の業績改善の割合です。実に半数以上の企業の業績が改善しています。特に後継者が若いうちに事業承継を行った場合の業績改善率が著しく、事業承継を先延ばしにしている企業ほど、損失のリスクを抱えていると言い換えることができます。
事業承継に関しては入念な準備が必要ですので、可能な限り早いうちから事業承継を検討するべきということがわかりました。
事業承継のアンケート内容・条件
今回の事業承継に関する調査記事は、平成30年1月に東京商工会議所が発表した、「事業承継の実態に関するアンケート調査」の報告書を参考にご紹介しています。 (参考URL:http://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=113366 )
今後の日本で団塊世代の引退が本格化する「大事業承継時代」を迎えるにあたり、様々な問題が発生することが予想されます。このアンケートは、そのような問題を後継者側および支援側の視点から研究し、実現可能な提案を検討するために実施されました。
具体的には以下のような条件でアンケートが実施されました。この条件を基に、詳細なアンケートの回答を見ていきます。
■ 調査期間 平成29年7月14日(金)~ 8月10日(木)
■ 調査対象 東京23区内事業者
■ 配布数 10,000件(非上場の中小企業者、支部役員、事業承継対策委員会委員等)
■ 調査方法 郵送による調査票の送付・回答
■ 回答数 1,907件(回収率19.1%)
■ 回答企業の属性
- 業種:製造業 - 23.9%、卸売業 - 20.0%、建設業 - 16.2%と続く。
- 業歴:「50年以上100年未満」(43.8%)が最多となり、30年以上の企業が77.3%を占める。
- 資本金:「1千万円以下」(44.6%)が最も多く、続いて「1千万円超5千万円以下」(43.4%)となっており、5千万円以下が88.0%を占める。
- 従業員:「5人以下」(32.6%)が最も多く、次いで「21人以上50人以下」(18.6%)
- 経営者年齢:経営者の年齢は、「60代前半」(18.0%)、「60代後半」(20.5%)と60代が38.5%を占め、60歳以上が全体の65.2%を占める。
- 子どもの数:「2人」(44.0%)が最も多く、続いて「3人」(26.0%)となり、子どものいる経営者は84.6%を占める。
(参考:http://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=113366)
現在の代表は何代目の経営者なのか
現在の代表は何代目の経営者なのか、回答は以下の通りです。(表示順はアンケートの通り)
- 創業者 - 685社
- 2代目 - 562社
- 3代目 - 373社
- 4代目以降 - 246社
- 無回答 - 41社
(参考:http://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=113366)
創業者が最も多く、なんと全体の36.7%と3割を超す結果になりました。次いで2代目、3代目、4代目以降という結果となっており、今後「大事業承継時代」を迎えた時にはどんどん塗り替わっていくことが予想されます。
では、実際に「大事業承継時代」が訪れるのはいつごろになるのでしょうか。事業の承継は一概に年齢で決まるものではありませんが、参考に次項でご説明します。
現在の代表の年齢
アンケートで調査した現在の代表の年齢は以下の通りです。(表示順はアンケートの通り)
- 40 歳未満 - 40社
- 40 代 - 198 社
- 50 代前半 - 123 社
- 50 代後半 - 300 社
- 60 代前半 - 341 社
- 60 代後半 - 388 社
- 70 代前半 - 256 社
- 70 代後半 - 165社
- 80 歳以上 - 85社
- 無回答 - 11社
(参考:http://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=113366)
回答としては⑥60代後半が最も多く、20.5%。⑤60代前半が18.0%、④50代後半が15.8%と続きます。また、70代経営者の割合も合計22.2%(⑦70代前半 = 13.5%、⑧70台後半 = 8.7%)と高水準であることも見逃せません。現在の60代後半から70代、つまり団塊の世代が経営に関わる企業はまだまだ多く、「大事業承継時代」が目の前に迫ってきていることを実感させられます。
それでは、実際にこれらの企業の事業承継の検討状況はどうなのでしょうか。
事業承継の検討状況
(表示順はアンケートの通り)
- 既に後継者を決めている - 584社
- 後継者候補はいる - 458社
- 後継者を決めていないが、事業は継続したい - 614社
- 自分の代で廃業する予定なので、後継者はいない - 133社
- 会社を売却する予定なので、後継者はいない - 34社
- その他 - 69社
- 無回答 - 15社
(参考:http://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=113366)
最も多い回答は「③後継者を決めていないが、事業は継続したい」の32.5%であり、次いで「①既に後継者を決めている」30.9%です。「②後継者候補はいる」24.2%は実際に後継者を決めていない状況です。まだ本格的な事業承継に係る教育・引継ぎなどは行っていないと考えると、「①既に後継者を決めている」よりも「③後継者を決めていないが、事業は継続したい」に近い回答と言えます。
ここで重要なのは、実際に後継者を決めて、事業承継に向けた具体的な取り組みを行っているかどうかです。事業承継に向けた取り組みは、企業の業況改善と強く関連しているためです。 「①既に後継者を決めている」ならば具体的な事業承継への取り組みも可能ですが、「②後継者候補はいる」「③後継者を決めていないが、事業は継続したい」の場合は難しい可能性があります。
事業承継に係る業況改善の割合
多くの場合、事業承継を行うと、業況は改善します。後継者が新たに経営者となることで事業意欲が高まるため、経常利益率が向上するケースが多いのです。(表示順はアンケートの通り)
- 業況が良くなった - 480社
- 業況が悪くなった - 134社
- ほぼ横ばいだった - 345社
- 無回答 - 222社
(参考:http://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=113366)
なんと50.1%もの企業の業況が改善しています。「③ほぼ横ばいだった」という回答も36.0%を占めており、少なくとも業績悪化するケースは少数派です。業況改善は後継者が前向きな取り組みを行うことで実現するケースが多いです。
中でも後継者の年齢が30代のうちに事業承継を行った企業に多く見られます。他の年代で業況を好転させた後継者が45~47%であるのに対し、30代後継者の場合は実に57%が業況好転を成し遂げているのです。
しかしながら円滑な事業承継のためには、後継者の育成や社内外の理解を得るために十分な時間が必要であることから、経営者が早期に事業承継に着手することが必要です。そのため事業承継時期について現経営者の年齢で判断するのではなく、後継者候補が30代の時期に検討を行うべきです。
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