運送業の事業承継ではできるだけ早い決断が求められる

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中小企業の廃業率が高まっていますが、特に運送業では深刻です。運送業は現在、その多くが中高年によって担われており、業務に携わる人材や後継者でも若手が不足しています。後継者の育成には短くても数年、長ければ10年以上を要するため、運送業特有の業界事情を踏まえ計画的な事業承継が必要です。

運送業の事業承継の現状やポイントを紹介します。

運送業が抱える事業承継の悩ましい問題

運送業全体で高齢化が進んでいるため、事業承継については早め早めに考えることが必要です。 現在、運送業を営む企業の多くが中小企業ですが、国内は宅配便の取扱量が増えている一方で物流量は減少中で、経営体力のない中小企業には厳しい事業環境となっています。

運送業は子供や親族に事業承継するケースが比較的多い業界であり、事業承継に対する理解や準備は意識が高い傾向があります。しかし、事業承継をするにあたって、後継者側に意識が足りないケースや、また業界の先行きから承継を拒否されるケースもあります。

そのため事業承継だけでなくM&Aも多くなってきました。事業の生き残りのためには、承継するだけでなく全ての選択肢を検討することが必要です。

顧客や地域のため、また働いてくれている従業員のために最良な選択肢を選ぶためには、単純な事業承継ではなく経営戦略としての視点をもって考える必要があります。

運送業において事業承継が難しい理由

運送業に限らず、事業承継は難しいものです。その理由は、後継者の選択・育成に時間がかかることや、事業承継のための資金準備が大変だということにあります。

後継者の選択や育成は、今後の企業運営に大きく影響する問題です。当然慎重にならざるを得ませんが、経営者が認め、従業員が認め、株主や顧客など関係者が認めるような後継者人材が企業内にいるとは限りません。そのため、必要なら外部から招いたり、子供や親戚を会社に入れて、時間をかけて育てていく必要があります。

短くて数年、長くて10年以上とも言われる後継者育成は、特に高齢化が進んでいる運送業ではタイミングを間違えば、後継者不在のまま経営者の身にトラブルが生じる可能性も否定できません。

そして、事業承継では企業の所有権の譲渡が行われるケースがあります。特に中小企業の場合、経営者が100%株主である場合も多く、経営権だけでなく所有権を移すために会社の株を購入または譲渡しなければなりません。この時、購入金額や関連する税金を後継者側で用意する必要があります。

運送業では、その事業のためにトラックなどの多くの資産が必要であり、そのために評価額が高くなる傾向があり、後継者における資金準備の負担が大きくなります。

事業承継の方法は主に3種類

事業承継における主な方法は、主に「親族内承継」「親族外承継」「M&Aによる承継」の3種類です。メリットやデメリットも方法によって異なり、どの選択肢が最適かは状況によって異なります。

親族内承継

親族内承継とは、運送業を営む経営者の子供や親戚に事業を承継する引き継ぐ方法です。親族内承継は、従業員や顧客、取引のある金融機関などの理解や協力を得やすく、事業承継にあたっての資金調達でも選択肢が増え、承継が比較的スムーズに進みます。

運送業では、親族内承継が一般的に行われていますが、近年はどの業界においても、中小企業において親族内承継は減少傾向です。少子化が進む一方で、仕事の選択肢が多く、子供や親戚に家業を継ぐ意欲のある人も少なくなってきています。 また、運送業を取り巻く環境の厳しさから親族内承継を拒否する子供や親戚も多くなっており、身内に承継を薦めることを躊躇する経営者も多くなっています。

当然承継が行われるものとばかり考えず、後継者の候補となる人とは、早いタイミングで接触し、意思確認や状況の整理などを相談しておくことをおすすめします。

親族外承継

親族外承継とは、社内の従業員や役員に会社を引き継ぐことを言います。

親族内承継では、後継者選びの根拠が血縁関係となり、業務上の実力ではない欠点があります。親族外承継では、周囲が実力を認める人材が後継者として選ばれるため、不確実性が少なくなるのがメリットです。

運送業では親族内承継の件数が減る中で、親族外承継がメジャーな選択肢になりつつあります。 ただし、親族外承継では、適切な人物が社内にいないことも多いです。また、後継者になる人材が企業を買い取るための資金を用意するのが難しい場合も多いです。後継者人材を選ぶだけでなく、その教育期間を通し、事業承継のための資金をいかに調達するかが大きな課題となります。

また先経営者の信用によって成り立っている様々な取引についても整理する必要があり、企業の状況によっては引き継ぎが難しくなりがちです。 後継者人材が承継を前向きに受け入れられるような業績作りや、資金面や手続き面でのサポートを手厚く行うことが成功のポイントです。早めの取り組みは後継者のモチベーションを高く保つためにも大切と言えます。

M&Aによる承継

運送業界で最近多くなっているのがM&Aによる事業承継です。後継者不足や経営の先行き不安の中、M&Aによって事業を統廃合し、競争力を高めようという動きが出てきています。

また、大企業が中小運送業者を買収する例も増えてきています。自社を購入してくれる企業を探すのは独力では難しいため、専門業者に仲介を依頼し、数年かけて適切な相手先を探すことになります。

M&Aは買収という悪いイメージを持つ人もいますが、事業承継においてはメリットが多いです。経営者は企業の売却益を獲得することができ、後継者人材を育てる時間も不要になります。従業員は雇用を維持することができ、取引先はサービスを変わらず享受することが可能です。事業承継のための手続きもスピーディーに進みます。

ただし、注意しなくてはならない点が2点あります。ひとつは、事業承継の方法によっては、運送業を営むために必要な許可が引き継げないことです。「譲渡譲受認可申請」を事前に運輸局に提出して認可を受ける必要があります。また、適当な売却先が見つからない場合は、経過した時間の分だけリスクが高まることに注意が必要です。

理想的な事業承継のためには早い決断が大切

理想的な事業承継のためには、とにかく早い決断が大切になります。今後の事業の見通しを踏まえて事業計画を決め、事業承継の方法を早く決定して動き始めることが大切です。そして、後継者の教育が必要であれば、どのような教育をどの程度の期間かけて行うのか明確にし、計画的に進めていくことが必要になります。

企業の経営者が頻繁に変われば、腰を据えた事業計画を立てて進めていくことはできません。そのため、後継者が事業を承継する時の年齢もよく考えておく必要があります。早く決定することは、事業の安定運営のためにも重要なことなのです。

理想的な事業承継はスムーズに承継を進めることだけではなく、後継者や残された企業や従業員にも不安を与えない承継です。早く確かな決断の連続が理想的な事業承継を可能にします。

運送業の事業承継についてのまとめ

運送業の事業承継は、業界特性や市況によって難しい状況があります。事業承継では親族内外の承継やM&Aといった選択肢から、戦略的な観点での決定が必要です。早めの決定は、後継者に準備の時間を与え、その後の事業の安定にも繋がります。

事業承継を適切に、そして迅速に進めるために専門家のサポートは非常に効果的ですので相談も早め早めに行いましょう。

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