目次 [非表示]
事業を後継者に引き継ぐときには、さまざまな問題が浮上してきます。例えば、相続税や贈与税の問題などは、事業承継の際に1つのネックになりかねません。
今回は、事業承継をスムーズに行いたいときに役立つ法律について解説していきます。法律の概要や利用するメリットなどを把握しておくと、今後の事業承継の際に活用できる可能性があります。
事業承継を円滑化させる法律がある!
先代の経営者から次の経営者に事業を引き継ぐ事業承継は、あらゆる業種の会社で起こり得ます。
事業承継を行う場合、主に3通りのスタイルがあると言われています。例えば、家族経営の会社などでよく見られるのが、自分の子供や親戚に事業を引き継ぐ親族内承継のスタイルです。また、社内で功績を上げた人材などを次の経営者に抜擢するスタイルや、M&Aによって経営を他社に引き継ぐスタイルも多く見られるようになっています。
ちなみに、以前の日本では親族内承継が圧倒的に多い傾向がありました。しかしながら、少子化などの影響もあり、家族や親族に適当な後継者が見つからないケースも増えてきているのが現状です。
後継者が見つからない場合、社内のスタッフに経営をゆだねたり、ほかの企業に会社を売却したりすることで事業を引き継ぐことはできます。ただ、税金などの問題があるとこのような親族外承継がスムーズに進まないケースも少なくありません。事業承継が現実的に困難なために廃業をせざるを得ない経営者もたくさんいます。
このような問題に備えて用意されているのが、事業承継を円滑にするための法律です。こういった法律では、税金や自社株の引き継ぎなどのさまざまな面で、承継をスムーズにする内容が規定されています。事業承継については、中小企業庁でもいろいろな支援を行っている状況です。
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」って?
事業承継において問題が発生しやすいのが、中小企業です。日本の場合、会社の約9割が中小企業であると言われているため、事業承継の問題は深刻です。
このような状況のなか、事業承継に悩む経営者から注目されているのが「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」です。親族外承継が増えてきた現状を踏まえて施行されたこの法律は、「経営承継円滑化法」とも呼ばれており、事業承継の際に活用できる法律として経営者の間でも話題になっています。「経営承継円滑化法」は、事業承継の実情に合わせて施行後もたびたび改正が行われています。
平成20年に施行された「経営承継円滑化法」
「経営承継円滑化法」は、平成20年に施行された法律です。
事業承継を行う場合、いろいろな問題が発生する可能性があります。例えば、経営者の交代によって経営が一時的に不安定になることです。それまでと態勢が大きく変わることで、経営をこれまで通り継続できるかどうかが危うくなることもあるでしょう。
また、事業承継の際には贈与税や相続税などを負担する必要がでてきます。税金対策をしっかりと行っていない場合、税金によって経済的に大きな損失を被ることも考えられます。 経営者が変わると、資金調達もスムーズにいかなくなることが増えてくるかもしれません。金融機関からの信用が得られないときには、資金繰りに苦慮することも考えられるわけです。
また、自社株を事業の承継者に譲る際にも、制約を受ける可能性があります。株式の相続が発生したときには、法定相続人の遺留分を考慮しなければなりません。通常通りの相続を行った場合は、事業の承継者に株式がスムーズに譲れなくなってしまうのが1つの問題です。
「経営承継円滑化法」で設けられている3つの特例は、こういった問題を解決する効果があります。
例えば、「金融支援制度」は、資金調達をしやすくする内容になっています。相続税などの税金の支払いや自社株の買取、遺留分の減殺請求などで資金が必要になったときに、金融機関から融資を受けやすくしているのが、この特例の特徴です。
「相続税・贈与税の納税猶予の特例」は、事業承継で発生する税金を踏まえて設けられた特例です。こちらの特例では、自社の株式を承継者が引き継ぐときに贈与税や相続税の猶予が受けられることが規定されています。
また、自社株を承継者が優先的に取得できる内容になっているのが、「遺留分に関する民法の特例」です。この特例には、生前贈与した株式を遺留分から除外できる「除外合意」などが盛り込まれています。
平成30年に行われた改正では、相続税や贈与税の負担を軽くする「事業承継税制」が拡充されました。この改正では、「株式の100パーセントを納税猶予の対象にできる」ことなどがあらたに規定されています。また、猶予を受ける条件なども大幅に緩和されました。
「経営承継円滑化法」の認定を受けた場合はなにが変わる?
経済産業大臣から「経営承継円滑化法」の認定を受けた場合、まず資金調達がしやすくなります。税負担が大きい場合などは、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を条件に融資が受けられます。融資でお金が確保できれば、承継時の資金繰りはだいぶ楽になるかもしれません。
また、「遺留分に関する民法の特例」を利用すると、承継者が優先的に株式を取得できるようになります。この場合、親族からの減殺請求などで経済的な負担を抱える心配が少なくなるのがメリットです。
また、「経営承継円滑化法」の認定を受けて大きく変わる可能性があるのが、税負担です。 この法律の「事業承継税制」の納税猶予を上手に活用した場合、贈与税や相続税の負担を最小限に抑えることが可能です。平成30年の改正前は、猶予の対象が株式の80パーセントに限られていました。改正によってすべての株式が納税猶予の対象になったことから、承継の際に発生する贈与税や相続税の負担は実質的にゼロにできます。
また、改正後はこれまで設けられていた従業員の雇用に関する条件なども緩和されています。改正前は、事業承継をしてから以後の5年間は、平均で雇用していた従業員の8割を維持しなければなりませんでした。 条件に該当しなくなった場合、納税猶予が途中で取り消しになってしまうのがこれまでの1つの問題だったと言えます。改正後はこのような条件を満たせなかった場合でも、引き続き納税猶予の適用を受けることが可能です。
ただ、平成30年の「事業承継税制」は10年間という期間があらかじめ決まっています。施行されている期間中に上手に制度を利用するのが、事業承継をスムーズに行う1つの方法になるでしょう。
あわせて読みたい関連記事
実質税負担ゼロで自社株が引き継げる特例事業承継税制とは?
事業承継にかかる贈与税や相続税の負担が軽減される?後継者は知っておきたい特例事業承継税制
特例事業承継税制を検討する際にはおさえておきたい特例の落とし穴
ちょっと待って!知っておきたい特例事業承継税制をとりまくリスクと対応策
事業承継をきっかけに家族ともめたくない方はお読みください
事業承継は先代経営者と後継者の問題だけではない。家族ともめやすい遺留分問題とは?
事業を売却するってどういうこと?
法人の事業譲渡とは?~メリット・デメリットと手続き~まとめて解説
企業の承継は、自社株の引継ぎだけじゃない
事業承継・会社/企業の承継って何?承継と継承の違いも合わせて解説
ゼロイチよりも買収!?これから増えるM&Aについておさえよう
M&Aって一体なに?会社に係るM&Aを基礎知識から理解しよう!
親族での事業承継を考えるポイントをまとめました
事業相続・承継!【親族内承継】って何?納税猶予も含めて解説!
中小企業を長年コンサルしてきた元金融機関行員中小企業診断士が語るシリーズ
事業承継との向き合い方②事業承継を幻にしないために〜誰に引き継ぐべきか〜
事業承継との向き合い方④~なぜモメるのか?親子間のボタンの掛け違いから考える事業承継~
事業承継との向き合い方⑤ 事業を譲る側がすべきこととは〜船に船頭は二人もいらない?〜