事業承継時に債務や個人保証の問題はどうクリアすればいい?

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中小企業の経営者が後継者を探す際に、債務や個人保証の問題で会社を継ぐ人が中々見つからない場合があります。事業承継時には債務や個人保証は必ず引き継がなければいけないのか、どうしたら減額もしくは免除できるのか気になる対策について紹介します。

会社を承継する前に知っておきたいポイントもまとめているので、事業承継しようか考えている人は参考にしてみて下さい。

事業承継の判断基準とは?承継する前に知っておきたいポイント

事業承継をするかどうか判断するには、会社の株はどうなっているか、業績は低迷していないか、現経営者が負っている債務や個人保証がどうなっているかの3点を確認する必要があるでしょう。

まず、会社の株式はなるべく後継者に集中出来るのが理想的といえます。

何故ならば、三分の二以上の議決権を経営者やその家族が所有していれば、株主総会の特別議会を単独で成立させる事が出来るため、会社の経営に大きく関わるような重要事項も単独で決める事が出来るからです。 また、三分の二以上とまではいかなくとも、過半数以上の議決権を経営者が所有していれば、会社の経営に大きな影響を与える重要事項でなければ、単独で決議を通す事が出来ます。

後継者に株式を集中させる事が出来ず、他の株主が多くの株式を所有している場合は、経営方針をめぐって対立してしまう事も予想されます。そのため、特別決議を単独で阻止する事が出来る三分の一以上の議決権は所有しておきたいところです。もしも、所有できる株式(議決権)が少ない場合は、経営方針に賛同してくれる安定株主を集めておく事が大切となります。

次に、承継する会社の業績は、事前に把握しておかなくてはいけません。

会社の業績が低迷していた場合、普通に事業承継するよりも難しい事を理解しておく必要があるでしょう。業績が低迷している会社を承継する際、経営者の交代により自社の株価は下がると予想できます。事業を立て直す案が具体的に決まっていないと、更に赤字となって経営が続けられなくなる可能性や、直ぐに退任に追い込まれる可能性もある事を覚えておかなくてはいけません。

そして、事業承継前に現経営者が負っている債務や個人保証については、現経営者や借入先の銀行とよく話し合いをしておきたいところです。

銀行から会社の運営資金を借り入れしている場合、経営者が保証人となっている場合(個人保証)が殆どです。そのため、現経営者の個人保証を外そうとすると、新たに承継する経営者が保証人となるよう求められる可能性が高いといえます。債務や個人保証についても把握しておかなければ、もしも会社が倒産したときに借金に苦しめられる可能性があるため、気をつけなければいけません。

経営者保証ガイドラインって何?事業承継したいなら把握しておきたいルールについて

経営者保証ガイドラインは、中小企業の経営者に対して銀行が融資をする際に、自主的に参考にするべきガイドラインの事です。

中小企業が倒産をした場合、保証人となっている経営者が負債を抱えるケースが多く、一度倒産をしてしまうと再起しにくいという点が中小企業を承継する上で大きな問題となっていました。そのため、会社が倒産しても経営者の個人資産をなるべく没収されないようにするべく、金融庁によって定められた『経営者保証ガイドライン』が平成26年の2月より運営される事となったのです。

経営者保証ガイドラインには、個人保証をつけて借入している場合でも、会社の資産と個人資産を分けている場合は、全て資産を没収せずに生活に必要な資金を一部残すよう書かれています。また、中小企業に融資をする際は個人保証を付けないようにする事など、中小企業に融資をする際のルールが、経営者保証ガイドラインには記載されているのです。

ただし、経営者保証ガイドラインは、あくまでも金融庁からガイドラインに沿って運営するよう銀行側が求められているものなので、法的な拘束力は一切ありません。 そのため、経営者保証ガイドラインに書かれている事を銀行側に求める場合は、まずは信用されるような会社の実績を作り、個人資産と会社の資産は完全に分離させた上で、借り入れている銀行との話し合いが必要となるのです。

事業承継時に個人保証を引き継がないことができるってホント!?

経営者保証ガイドラインでは、なるべく個人保証を付けないよう推奨しているので、個人保証を付けずに銀行から借り入れする事も出来ます。そのため、事業継承時に個人保証を引き継がずに承継できるケースもあります。ただし、承継する会社の借り入れている金額が大きかったり、経営利益が赤字続きであったりすると、銀行側から後継者が個人保証を引き継ぐよう求められる可能性が高いといえるでしょう。

融資をする銀行側にもリスクがあるため、個人保証を外して事業承継したい場合は、信用してもらうための準備や実績が必要です。経営状態や財務状態が分かる決算書や資金繰り表、試算表などを定期的に報告し、経営状態を透明化させる事で信用してもらえる実績を作りましょう。また、経営者の個人資産と会社の資産を完全に分離させて、会社の資産が個人資産に流れる可能性がない事も証明しなければいけません。

特に経営状態も問題ないのに、銀行側と交渉を続けても個人保証を外す事が出来ない場合は、弁護士に依頼し特定調停をするという選択肢もあります。話し合いでは解決しなかった場合でも、裁判所の手続きとなると話し合いに応じてくれる可能性が高くなります。

銀行からの借入れがあるため、会社を承継するかどうか悩んでいるという人は、こうした経営者保証ガイドラインや特定調停などを活用する事で、個人保証を引き継がずに継承できる可能性があるのです。

事業承継をするなら考えておきたいこと

親族が経営している会社を承継したり、現在従業員として働いている会社を承継したりする場合は、株式を集められるのか、経営状態はどうなのか、個人保証や債務状況はどうなのかを十分に確認しましょう。実態をよく把握せずに事業承継してしまうと、会社内で経営方針をめぐってトラブルや、赤字経営となり運営を続けられなくなる事態が発生してしまう可能性があります。

また、現在経営者で退任を考えている人や、これから会社を継ぐ事を考えている人は、事業承継のタイミングにも気を配らなくてはいけません。経営が赤字になっているときに経営者を交代したばかりに、さらに会社の業績が悪化してしまう事もあります。

このようなトラブルを未然に防ぐためにも、事業承継についてはよく考えてから行動に移したいものです。

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