起業する前に支払った費用は必要経費になるの?起業後も使える経費になる・ならないの基準とは?
- 必要経費になる・ならないの判定基準は明確にある!知っておくと迷わない!
- 開業前に支払った費用も、必要経費の基準に当てはまれば経費にできる!
- 「開業費」という資産にいったん計上されるが、好きなときに費用化が可能で融通が利く
起業しよう!そう決心して、開業届を出した。今日から個人事業者。開業する前にも、つながりを作ったり、相談したりして、何かと経費がかかっている。晴れて開業して、ふと思う。開業前に支払った開業準備のために支払ったこれらは、経費になるのだろうか?
そんな疑問にお答えします!
起業した前後にかかる経費について、必要経費として売上から引けるのかどうかをお話する前に、そもそも、ひとつひとつの支払いが経費になるのかならないのかを知っておく必要があります。
よく「これは経費にできますか?できませんか?」という質問を受けることがあります。もしかしたら、主張したもん勝ち!とお考えの方や、税理士が判断するものだとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんね。えいやー!と経費に入れてしまえばわからないのじゃないか?そう思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実は、経費にできる・できないの基準は、とても明確に存在しています。
そもそも経費にできるのか、できないのか?その基準を知っておくと、起業前後のみならず、起業してからも、どのように判断して、どんな資料を揃えておいたらよいかが明確になります。経費にできる・できないの基準を知っておきましょう。
個人事業者の場合を想定します。個人事業者の場合の経費にできる・できないの判断基準は、所得税法にあります。個人事業者は、売上から必要経費を差し引いた儲けである「所得」について所得税がかかります。住民税も同じです。ですから、必要経費にできる・できないの判断基準は、所得税法をひもといて理解しておく必要があるわけです。
では、所得税法では、どのように決められているのでしょうか?
所得税法上の必要経費については、所得税法37条で「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」とされています。
一般的に「必要経費」というくくりと、所得税法上の必要経費は、似ているものではありますが、異なるものといえるでしょう。注目すべきは、「別段の定めがあるものを除き」という部分です。
「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」や「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用」に該当していれば、直ちに必要経費になるわけではありません。
「別段の定め」であるかどうかがまずは重要です。したがって、ある支出があれば、まずはそれが別段の定めに該当するかどうかを確認しなければならないということになります。そして、別段の定めに該当する場合は、必要経費にはならないということになります。
では、別段の定めとは何なのか。代表的なものが、家事費といわれるものです。
所得税法45条1項では「居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。」とし、1号では「家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの」と規定しています。そして、「政令に定めるもの」とありますので、所得税法施行令を参照します。
所得税法施行令96条1項1号では「家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費」としています。
「業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合」、家事上の経費に関連する経費については、所得税でいう必要経費にすることができるということになります。言い換えると、所得税法45条によって、家事費は必要経費になりません。所得税法施行令96条によって家事費のうち明確に区分される家事費以外の部分は家事関連費として必要経費に該当するということになります。
したがって、ある支出が必要経費かどうかを確認するためには、その支出が家事費であるのか?家事関連費として明確に区分されているのか?が検討され、それによって必要経費に該当するかどうかを判断するということになります。
少し整理をしましょう。
家事費とは、プライベートな支出を言います。例えば、自分や家族の生活費や医療費、住んでいる家の電気代やガス代、家の修繕費や固定資産税、自分や家族の生命保険料などを言います。
家事関連費とは、例えば、自宅兼事務所に住んでいるとして、その家賃や固定資産税、修繕費、電気代やガス代など。これらは基本的には必要経費に算入できないのですが、そのうち業務の遂行上必要である部分を明らかに区分できる場合には、その必要である部分に相当する金額を必要経費に算入することができます。
一見プライベートな支出ですが、例えば面積の30%は仕事の事務所として使っている場合には、家賃の30%を必要経費にするなど、明らかに区分できる場合に限って、家の家賃の一部を経費にすることができる、ということです。
家事費や家事関連費に該当しない場合は、必要経費となります。あまり聞きなれない判断基準かもしれませんが、もし税務調査になったときには、このように法律判断がなされます。知っておくと、根拠資料を準備できますし、不毛な税務職員とのぶつかりを防ぐことができます。個人事業者の皆さんにはぜひ知っておいて頂きたい知識です。
これって必要経費になるんだろうか?そう頭を悩ますことが、きっと起業したら多くあると思います。
交通費も仕事上で発生したものであれば、経費にできます。いつ、どこからどこへいくのに、いくらの交通費を使ったのかを明らかにしておく必要があります。いちいちメモをするのも手間だと思う方もいらっしゃるかもしれません。交通系ICカードを利用して、インターネットから利用明細を出力することができますので、その明細のうち、仕事上使用したものを、集計しておく方法もあります。また、切符売り場で「利用履歴の印字」という機能もあり、これまでの利用履歴をカードほどの大きさの紙に印刷してくれますので、こちらを利用されている事業者もいらっしゃいます。
携帯電話は、仕事・プライベート兼用であれば、家事関連費となり、仕事:プライベートの割合を合理的に区分をする必要があります。たとえば、ほとんどプライベートでは使わない場合や、平日しか仕事用に使わないということであれば、その割合で必要経費にすることができるでしょう。
例えば、人前に常にでる講演家のようなお仕事をされていて、ステージに立つために美容院に行かれるのであれば、講演料という稼ぎを得るために必要な費用ということで必要経費に入るでしょう。しかし、事業をしていない方でも美容院にいくことは日常的にあることであり、家事費に近いものであることには変わりません。経費にするのはかなり難しいといえそうです。
この質問はとても多いです。スーツは冠婚葬祭の場でも着ることがありますから、「家事関連費」に当てはまることになろうかと思います。その場合は、「業務の遂行上必要であり、必要である部分を明らかに区分することができれば、その部分については必要経費にできる」のでしたよね。ですから、そのスーツが、仕事でしか着ない、仕事上着用するスーツだということが明らかにできれば、必要経費にできるでしょう。デートでは着ないでくださいね、ということが前提です。もし、プライベートでも着用すると初めからわかっているのであれば、その割合を(なんとかあたりをつけて)明らかにし、一部のみを必要経費とすることもひとつの方法です。
カフェでのお茶代やランチ代は、プライベートでも行う行為ですから「家事関連費」に該当しますね。しかし、このカフェ代が明らかに業務の遂行上必要だったというのであれば、必要経費にすることが可能です。
いかがでしょうか?経費になるのかな?ならないのかな?迷うものは、たいていプライベートとの区分けが難しいものになると思います。まずは「家事費」や「家事関連費」になるかどうか?完全プライベートな家事費については、必要経費にはできません。兼用となる「家事関連費」の場合は、業務の遂行上必要となる金額を明確にできるのであれば、必要経費とすることが可能です。このように道筋を追って考えていくと、迷いにくくなりますし、なぜ、業務の遂行上必要なのかを考える癖がつきます。しかし、人間は忘れる生き物。レシートに、「なぜこの支出が業務の遂行上必要か」をメモをしておきましょう。「うーん、なんだっけ?」と思い出す時間が一番もったいないです。
では、必要経費になる・ならないを整理してきたうえで、起業前に支払った費用は必要経費にできるのかどうかを検討していきましょう。
起業前に起業について相談したときのカフェ代や、参加した起業セミナーの受講料、備品の購入に使ったお金、人脈づくりに使った交際費・・・起業前であっても何かとお金を使いますよね。起業前に支払った費用で、第一章の基準に照らし合わせて必要経費になるものは、起業前、つまり開業届に記載した開業日よりも前に支出したものであっても、必要経費にできます。
開業準備期間中の支出については、交通費や研修費や消耗品費などの項目に該当するものであっても、「開業費」という項目にひとまとめにして経理をしておくことになります。所得税法施行令第7条1項1号では、「開業費とは、事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」とされています。
ただし、10万円以上のパソコンや、テナントの内装費など、少し大き目のものについては、「固定資産」として資産計上することになるのでご注意ください。
開業費には、次のようなものを含めることができます。
「開業費」という項目に集計された金額は、一度に必要経費として売上から差し引くことができるわけではありません。どのように費用化していくのでしょうか?
開業費は固定資産のように、いったん「資産」に計上してから、数年にわたって減価償却していくように、費用化をしていきます。
具体的には、開業費の費用化の方法としては、次の方法が認められています。
例えば、開業費の合計が100万円だとすると、60カ月の均等償却だと、100万円÷5年で20万円ずつ、「開業費償却」という項目で費用化していくことになります。
一方で、任意償却だと、累計100万円に達するまで、自分の好きな金額で「開業費償却」という項目で費用化することが可能です。
ですから、開業1年目が赤字になりそうでしたら、敢えて開業費を費用化する必要もありませんし、2年目以降黒字になったときに費用化していくのがよいかもしれません。業績の状態を見ながら費用化できる任意償却の方法はとても便利です。
それに、特に開業前どのくらいの期間に限る、という制限もありませんので、もちろん常識の範囲内ですが、開業準備をされる場合には、必要経費に当てはまると考えられるものについては、しっかり領収書をとっておきたいものです。
最後に、必要経費だと認めてもらうためのポイントをまとめておきましょう。何が必要経費に該当するのかについては、第一章でみてきましたので、皆さん大丈夫ですよね。「家事費」はNG、事業とプライベート兼用になる「家事関連費」は、業務遂行上必要と明らかにできる金額のみ必要経費にできるのでした。そして「家事費」「家事関連費」以外の費用は、基本的に必要経費にすることができます。
起業前に支出した必要経費は開業費として、必要経費にでき、均等償却か任意償却の方法で費用化できることを述べてきました。開業費については、任意償却も可能なことから、税務調査があったときには必ずチェックされる項目になります。開業費については、帳簿に「開業費」として記録するだけでなく、支払った相手先(お店の名前)、支払った日、何に使った費用か、交際費や会議費の場合は、どんな関係の誰と、ということまで記載しておくと万全です。文字数の関係で帳簿に書けないということであれば、領収書にメモをしておきましょう。領収書はA4のコピー用紙に、整然と貼っておくことが望ましいです。大きさがバラバラの領収書のままでは、すぐに紛失してしまいますし、探す手間もかかります。また、きれいに貼っておくと気持ちがいいですし、第三者がみても「この事業者はきちんとしているな」と好印象です。
開業費に限らず、開業後に支払った費用についても、(1)で説明したように、A4の紙にきれいに時系列に貼っておくとよいと思います。経理のコツは、支出後「できるだけ早く帳簿に記録する」ことです。領収書がたまると、帳簿をつけるのがおっくうになりますし、何より記憶が薄れ、「この交際費だれとだっけ?手帳みないとわからないな」と思い出したり探したりすることに時間がかかってしまうからです。
開業したときは事業を軌道に乗せるまで、一分一秒として惜しいと思います。貴重な時間を「思い出す」という非生産的なことに費やさないように、お金が動いたらすぐに記録することです。その習慣は、このさき経営をしていくにあたり、必ず役に立ちます。自分の組織をもったときに、経理を誰かに任せるときにも、その経験が必ず生きてきますし、きっちりした会社づくりに繋がります。事業を伸ばすことができている経営者は、たいてい、きっちり帳簿をつけることができている経営者です。
最近では領収書の写真を取れば経理ができるソフトもありますし、金融機関やクレジットカードの取引を取り込むことができるものもあります。経理はどんどん簡単になっていますから、「今日には昨日までの経理が終わっている」ということが可能です。経理が早い経営者は数字を見るのも早く、経営判断も早いです。帳簿なんてめんどくさいといわずに、開業したときから、帳簿を素早く正確につける習慣をつけておきましょう。
以上、経費にできるもの・できないものと、開業前の費用が必要経費にできるのかどうかについてお話してきました。きっちりとした判断基準をもって頂き、日々些細なことに迷わないようにして頂きたいと思います。貴重な時間を、やりたい事業に思いっきり投入できる環境を作ってくださいね。
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