活用しないと損!? ぜひ検討したい金融機関の事業承継支援策

事業承継が国家的な大きな課題として設定されているなかで、金融機関としても、事業承継は取り組むべき重要なテーマとして捉えられています。

金融庁からも、金融機関は積極的に事業承継の場面で活躍すべしとされています。

経営者サイドとしては、どのように金融機関に相談し、活用したらよいのか、どのくらい情報を開示したらよいのか、気になるものです。

相談する前に知っておくべき情報をまとめました。

金融機関は事業承継をどのように捉えているのか?

金融機関としても事業承継支援は重要なテーマ

少子高齢化の流れのなかで、企業数も同じように減少していく傾向にあります。

とりわけこの20年間で経営者の平均年齢は40代から60代にスライドし、この20年間の間、事業承継が進んでいないことがわかります。

2025年までに70歳を超える経営者のうちの3分の2の経営者の後継が決まっていません。

このまま放置すると、650万人の雇用が失われ、22兆円のGDPが失われると試算されています。

事業承継をせずに廃業する企業が増えると、その企業で支えられてきた地域経済が立ち行かなくなってしまいます。

地域創生を掲げて地域の活性化を使命として存在している金融機関にとっては、事業承継支援は、最優先課題であることには間違いありません。

どんな支援をしてもらえるのかは知っておく必要がある

企業経営と金融機関は、切っても切れない関係です。

事業承継の際にはどのような支援をしてもらえるのか、また、後継者に引き継ぐ借入金や個人保証の問題など、事業承継の場面では、特に密接に連携をとっていく必要があります。

また、経営者サイドでの憶測はさまざまです。

後継者の能力不足によって、金融機関の融資姿勢が変わらないのか、また、事業承継についてかかる資金は、果たして支援してもらえるのか、どこまで情報をオープンにしたらよいのかという疑問もあります。

今回は、どのようなときに、どのような支援を受けるとよいのかということを、ケースに分けて説明したいと思います。

自社株の買取り資金や贈与税について融資を受けることができる

自社株は後継者に集中させることがベスト

中小企業の場合、経営者が株主であるオーナー経営者であることがほとんどです。

経営者の親族が株式の一部を持っていることもありますが、ほぼオーナー経営者の一族で株式を所有していることがほとんどだといえます。

株式は、議決権を制限していない限り、株主総会の議決権ですから、事業承継をする際は、後継者に株式を集中させたいものです。

後継者が株式を所有するようにしないと、いつ解任されるかわからない状態であったり、後継者の意に沿うような重要な決議ができないなど、経営の安定性に欠けることになります。

事業承継をする際は、経営の内容の承継はもちろんのこと、自社株をいかに後継者に引継ぐかということも重要な課題となります。

後継者に自社株を移転する方法

後継者に自社株を移転する方法は、2つあります。(先代オーナー経営者が生前に引継ぎを行うという前提です。)

1つは、自社株の贈与です。もう1つは、自社株の買取りです。

親族内承継であれば自社株を贈与してもらうことが多いように思います。近年増加している親族外承継といって、オーナー経営者の親族でない場合は、オーナー経営者やオーナー経営者の親族の意向もあり、株式をオーナー経営者やその親族から後継者が買い取るケースの割合が多いようです。

いずれにしても後継者には、株式を移転させるために、贈与税の支払いや、株式の買取り資金に充てる資金が必要となります。

贈与税や自社株買取り資金の融資は後継者個人が受ける必要がある

このように、自社株の移転にともなう贈与税や買取り資金の負担があるのですが、たいていの場合、後継者には、資金力がそれほどないことが多いです。

会社から一時的に買取り資金を貸出す方法もありますが、貸借対照表上に役員貸付金という項目が載ることになるため、避けたいと思う方がほとんどでしょう。

しかし、一般的な金融機関では、贈与税や株式の買取資金資金に充てるために個人に融資するしくみがありません。

これでは、事業承継を阻んでしまうことになるため、これを救済するための支援策が用意されています。

経営承継円滑化法による認定を受けることができれば、この法律に基づく金融支援の特例として、後継者個人を融資対象とする融資を日本政策金融公庫から受けることが可能です。

経営承継円滑化法に基づく金融支援の特例とは?

経営承継円滑化法とは、その名の通り、経営の承継をスムーズに行うための支援策を定めた法律で、民法の特例です。

主な内容は、事業承継税制や遺留分の特例、そして、金融支援です。

事業承継の際に代表者個人が必要とする資金の融資を受けることができ、会社及び個人事業主には、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠が用意されるというものです。

分散した自社株式を後継者に集中させるために買取るための資金や、自社株にかかる増族税や贈与税の納税資金、役員や従業員が、株式や事業の一部を買い取って事業の承継を行うための資金について、低利融資と信用保証を受けることが可能です。

事業承継に伴い、後継者個人が、自社株式の買取りや、相続税や贈与税の納税を行う場合の資金の融資を受けるには、経営承継円滑化法に基づく認定手続きといって、各都道府県知事の認定を受ける必要があります。

詳細な手続きについては、こちらの2の金融支援の箇所をご確認ください。お付き合いのある金融機関や、顧問税理士に相談してみるのもよいでしょう。
経営承継円滑化法について 中小企業庁

事業承継に伴う新しい取り組みに対して融資を受けることができる

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新しい取り組みについても融資を受けられる可能性がある

贈与税の納税資金や株式の買取資金に限らず、事業承継をきっかけとして必要となる資金について、金融機関から融資を受けることが可能になることがあります。

事業承継をきっかけに、後継者が取り組みたい新しい事業に関して、必要となる設備投資や人材投資のための融資についても、積極的に相談してみるとよいと思います。

早期経営改善計画をつくってみましょう

ただ、金融機関は、後継者がどのようなビジョンを持っていて、今後会社をどうしていくのかをとても知りたがっています。

それを言葉のみならず、数字で表現できる中期の事業計画書を作成すると伝わりやすいようです。

事業承継をきっかけに、顧問税理士などの認定支援機関や金融機関を巻き込んで「早期経営改善計画」を策定することも有効です。

早期経営改善計画は、数値計画だけでなく、ビジネスモデル俯瞰図を作成し、現在の会社の強みや弱み、機械や脅威などを分析して(SWOT分析)今後の経営の方向性を探り、経営戦略を練るものになります。

先代経営者と話し合いを重ねながら、企業のよいところを活かし、企業の磨き上げをして頂きたいと思います。

早期経営改善計画の策定には、その計画策定にかかる費用の3分の2を支援できる補助金もあります。ぜひ、顧問税理士などの認定支援機関や金融機関に相談してみてはいかがでしょうか。

早期経営改善計画については「中小企業庁:資金繰り管理や採算管理等の早期の経営改善を支援します」をご覧ください。

後継者は先代の経営者保証を引き継がなくてもよい?経営者保証ガイドラインの活用

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経営者保証の引継ぎが事業承継のハードルになる

事業承継の場面で、必ず問題になるのは、事業承継をする際に、企業の借入金の経営者保証の引継ぎについてです。

これまでの日本の融資制度の問題点として、当たり前のように企業の借入について、代表者が連帯保証債務を負ってきました。

会社で返済できなくなれば、経営者が代わりに返済しなければならない保証債務です。個人の保証も差し出すことによって、経営基盤が大企業に比べて脆弱な中小企業にも融資を受けることが可能でした。

しかし、事業承継の場面では、「会社を引継ぐのはよいが、先代の個人保証を引継ぐことには抵抗がある」と感じる後継者も多いです。

個人保証を要求されること(個人保証の徴求といいます)が、円滑な事業承継の障害となる、または事業承継自体を断念せざるを得ない要因になる場合もあります。

経営者保証ガイドラインとは?

経営者保証に依存しない融資の促進策の一環として策定された「経営者保証に関するガイドライン」は、先代経営者と後継者にとって、事業承継のプロセスで資金調達を行う場合には、とても重要となる指針です。

この「経営者保証に関するガイドライン」は、中小企業・経営者・金融機関共通の自主的ルールとして、中小企業庁と金融庁の後押しのもと、日本商工会議所と一般社団法全国銀行協会が事務局となって策定され、2014年より適用が開始されている者です。

このガイドラインで示される経営状況に関する要件を満たすことで、後継者が個人保証を徴求されることなく資金調達を実現できる可能性や、先代経営者が提供していた個人保証を解除される可能性が高まります。

経営者保証ガイドラインは一朝一夕で対応できるものではない

この経営者保証ガイドラインには、適用されるための要件があります。あらかじめ要件の内容を理解したうえで、対処しておく必要があります。

次のような要件を満たしているかどうかをご確認ください。

・高い返済能力があること。(財務状況や業績を鑑みて、今ある企業の財産や、キャッシュフローをもって、借入金の返済が可能と見込まれること)

・適時適切に財務状況が金融機関に開示されていること(毎月正しい試算表を金融機関に開示している)

・法人と経営者個人との関係が明確に区分・分離され、役員報酬や配当、貸付などの資金のやりとりが社会通念上適切な範囲を超えない状態であること

これらの要件を満たしていなければ、保証の免除の実現が難しくなります。

これまではガイドラインに則った融資に積極的でなかった金融機関もありましたが、少しずつ現場に浸透しつつあります。

この制度については、経営者サイドがよく勉強し、条件を満たせるように努力をしたうえで、こちらから話を持ち掛けて相談することが大切です。

ローカルベンチマークツールを使って事業の内容を見える化しましょう

平成30年1月には、ガイドラインのより円滑な運用を図るため、よりポイントを的確にまとめたQ&Aが改定され、個人保証の要否の検討においては、事業の内容や持続・成長可能性などを含む「事業性」を適切に評価すべしと明確化されました。

金融機関側が、企業の事業性に着目して評価しましょうという方針が明らかになったのですが、金融機関側ではマンパワーが限られています。

こちら側から積極的に、自社の事業について、開示をしておきたいものです。その場合には、ローカルベンチマークツールを利用するとよいでしょう。

ローカルベンチマークツール 中小企業庁
業務フローと商流の把握

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4つの着目点

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ローカルベンチマークツールは、上記の例のように、自社の財務状況だけでなく、自社の商流や選ばれる理由など、事業そのものについてを共有するのに最適なツールです。

金融機関でもこのローカルベンチマークツールに従って、企業の情報を収集しているケースが多いので、金融機関にとっても、非常に受け容れやすいツールです。

自社の見える化をし、事業承継にあたっての課題整理のためにも、一度ローカルベンチマークを作成してみることをお勧めします。

以上のように、資金調達を要する先代経営者や後継者は、まずはこのガイドラインを確認して、現状や経営力の強化、経営の透明性の改善を図ることなどに早い段階から取り組んでおきましょう。

金融機関は多くの支援ノウハウを持っている

他にもある!金融機関からの支援策

ここまでご紹介したもののほかにも、金融機関は多くの支援策を持っています。

「事業承継・集約・活性化支援資金」といって、一定の要件を満たすことで、日本政策金融公庫から個人保証免除での融資を受けられる可能性がありますし、事業承継を契機とした融資商品を設けている金融機関も増えてきています。

金融機関の審査によっては、個人保証や担保が不要となる場合もあります。手数料はかかりますが、金融機関と連携しているM&A会社と通して、引継ぎ先を紹介してもらえることもあります。

また、事業承継対策として、持ち株会社を設ける際にも、金融機関が融資をして協力をしてくれるケースもありますし、他の専門家と連携して、信託など具体策について提案してくれるサポート体制を持っていることもあります。

どのような支援策があるのか、取引金融機関に相談してみましょう。

その他使える相談窓口

各都道府県に事業引継ぎセンターという事業承継を支援する機関を設けています。

ここでは、事業承継に関する支援策の情報を得られるだけでなく、引継ぎ先に困っている企業や、事業を引継ぎたい企業の情報が集まっており、データベースをもとにマッチングを行っています。

筆者もクライアント企業の相談に関して、利用したことがありますが、経験豊富なアドバイザーの方が親身に対応してくれ(相談料などの費用は無料です)、引継ぎ先に困っている企業に対しては、具体的に候補先をすぐに探してピックアップしてもらいました。

各金融機関や保証協会との連携も密にしてくれます。必要があれば、このような機関を使うのもよいでしょう。

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著者プロフィール

神佐 真由美

神佐 真由美

京都大学経済学部在学中から「プロフェッショナルになるために手に職を」と税理士を志す。卒業後は、税理士を顧客とする株式会社TKCに入社し、税理士事務所を顧客にシステムコンサルティング営業に4年間従事。本当に中小企業経営者にとって、役に立てるプロフェッショナルはどうあるべきかを問い続け、研究する。税理士試験5科目合格後、税理士業界へ転身。
自ら道を切り拓く経営者に尊敬の念を抱き、経営者にとって「一番身近なパートナー」になるべく、起業支援や資金調達支援、経営改善や組織再編、最近では事業承継支援など多くの経験を積む。経営計画を一緒につくり、業績管理のしくみづくりを通して、未来を見通せ、自ら課題を見つけ、安心して挑戦できる経営環境づくりが得意。大阪産業創造館のあきない・経営サポーターも務め、セミナー実績も多数。「経営者のための資金繰り基礎講座」「本当に自社にとって必要?事業承継税制セミナー」など。