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事業承継において持株会は非常に重要なテーマと言えます。何故なら、事業承継の現場では多様な自社株の移転手法が考案されているからです。その1つに持株会がありますが、それを知ることはとても意味があります。
ここでは、従業員持株会で良く出てくる問題点について解説します。また、取引先に株主になってもらう取引先持株会もありますが、その問題点も合わせて紹介します。
従業員の福利厚生としての持株会の問題点とは
一般的に従業員持株会に加入すると、従業員の財産形成につながると考えられています。ところが従業員の立場からみれば、自社株を売る値段が買う値段より高くなければ財産形成になりません。これはごく当たり前のことですが、財産形成のためには自社の株価が上昇を続ける必要があります。
ただ、従業員持株会が売買するときの株価は、一般の上場株価とは異なり税務上の配当還元価額が多いです。配当還元価額とは、配当還元方式によって算出される株式の評価額のことです。配当還元方式では1年間の配当金額を一定の利率(ここでは10%)で還元して元本である株式の価額を評価します。そのため、財産形成するには、配当額を増額或いは維持し続けなければなりません。
これらを実現可能にするためには、業績の右肩上がりをずっと続けることが前提となります。
ただ、実際に従業員が持株会に加入するときは、若干の購入奨励金が会社から支給されるので、最低限その分だけは経済的なメリットを受けているといえます。したがって、配当を増額し続けたり、株価を上昇させ続けたりする必要はそれほどないといわれています。
とはいえ、従業員へのインセンティブ面と会社の資金繰り面からみて、持株会制度が機能しているかを常にチェックする必要があります。
自社株の社外流出を防ぐための持株会
従業員に対する福利厚生目的や、帰属意識を高めるために採用されている持株会ですが、従業員に自社株の購入を推奨するとしても、個人個人の従業員にダイレクトに譲渡すると会社にとってリスクが高くなります。何故なら、その従業員が退職などをきっかけに第三者に譲渡したり、会社に不利な議決権行使をしたりするからです。
さらに、株主権を濫用して代表訴訟を仕掛けてくる可能性も否定できません。そのため、持株会を通して自社株を購入させておくことでこれらの暴走を未然に防ぐことが可能です。
また、自社株の社外流出を防ぐためには、持株会規約で譲渡禁止を定める従来の方法に加えて、持株会保有の株式を取得条項付種類株式へ変更しておくと安全です。取得条項付種類株式とは、一定の事由を条件として会社が株主から取得できる株式のことをいいます。一定の事由が生じれば、株主の同意なしに会社が強制的に取得することができるため、自社株の社外流出を防ぐために有効なのです。
なお、すでに個々の従業員に株式を分散してしまっているケースであっても、今から持株会を組成して加入を促すことはできます。ただし、持株会への加入は義務づけできないため、自社株の社外流出を100%防げる保証はないことを知っておきましょう。
従業員持株会の組成手順とは
従業員持株会を組成するには、大きく分けて4つの手順があります。
第1ステップは人選であり、持株会の理事会役員や事務局の実務担当者を選出して事務局を設置します。
第2ステップは準備段階となり、持株会の方向性を考えるとともに基本事項について検討します。ここでいう方向性とは、持株比率や株式提供の範囲や方法などです。方向性や基本事項が定まったら、持株会の名称を決定します。一般的には株式会社○○従業員持株会となることが多いです。
第3ステップでは会の設立となり、発起人会兼設立総会を開き持株会を結成します。設立と同時に規約を定めて、役員を互選し、議事録を作成します。続いて、設立契約書に調印して、規約と併せて事務局に保存しておきます。
第4ステップは契約です。具体的には会社と持株会間で覚書を交換します。次いで、会社と労働組合間(或いは従業員代表)で給与天引き控除協定を結びます。そして、事務処理を委託する場合は、事務委託契約を結ばなければなりません。
先代社長と持株会間で株式譲渡する場合の問題点とは
先代社長から持株会への自社株の移転価額は、通常は配当還元価額程度といわれているため、それほど問題はないといわれています。買主である持株会は、個人から株式を譲渡されたときは、経済的利益について贈与税が課税されるのが一般的です。しかし、少数株主に該当するため、配当還元価格以上の価格で譲渡していれば贈与税の課税がないので、税務上は問題ないといわれています。
例えば、何かしらの事情があって、会社や先代社長や後継者が持株会から自社株を買い戻そうとする動きがあったとします。何かしらの事情とは、持株会の会員数が減少して株式の引き受けに困るようなケースです。売主である持株会は、譲渡益が生じれば課税されます。
一方、買主である会社や先代社長や後継者は、著しく低い対価で株式を取得したときは、経済的利益に対し贈与税が課税されます。そのため、買取価格は配当還元価額より高額である原則的評価額にする必要があるのです。
取引先持株会の問題点とは
自社株は従業員に対してだけではなく、取引先にも保有してもらうことがあります。取引先に株主になってもらう目的は以下の2点が挙げられます。
まずは、自社株を取得した取引先企業が、当社のファンになってくれることです。株式を保有してもらうことで、強力な応援団となってくれる期待を込めています。
次に、取引先が自社株を取得することで、長期にわたり安定的に保有し続けてくれることも期待しています。 しかし、取引先に自社株を保有してもらうためには、大きく3つのことに注意する必要があります。
第1は持株会組織です。上場企業の一部では取引先持株会を組成していますが、未上場企業では株主になってもらう取引先は少数です。そのため、一元管理する必要性は乏しいので、敢えて持株会組織を組成する必要はないといわれています。
第2は購入奨励金ですが、上場企業が取引先持株会を組成した場合、規制団体のルールによって奨励金の支給は禁止されています。この点は先述した従業員持株会とは異なります。
第3は取引先への譲渡価額です。株式公開を目指している場合は別として、親密な取引先に応援団になってもらうために、自社株を購入してもらうので、譲渡価額を欲張ることはしない方が良いでしょう。したがって、譲渡価額は、時価純資産価額と配当還元価額の間で設定することが望ましいです。
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