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中小企業が事業承継を行う場合、債務があることも少なくありません。しかし、事業承継を行うのであれば後継者になるべく債務を引き継がせたくないでしょう。
そこで、この記事では債務がある中小企業が事業承継を行う場合、どのように手続きを進めれば負担を軽減することができるのか、また事業承継の際に前経営者が負うリスクなどについて解説します。
事業承継をすると債務も継承される
事業を承継するともちろん債務も後継者に承継されます。しかし、債務によって優秀な人材が後継者になることを断ってしまうということは避けたいでしょう。そのため、なるべく後継者が事業を承継する際に債務によるリスクを負わないように現経営者が対策をする必要があります。
また、事業継承を行う際、債務だけでなく個人保証についても注意をしなければいけません。基本的に事業を立ち上げる時は、経営者が保証人となることが多いです。そして、事業継承を行うタイミングになると銀行側から保証人を経営者から後継者に切り替えるように言われます。
しかし、まだ経営者として未熟である後継者が会社の保証人になるということはリスクが大きいでしょう。そのため、個人保証も引き継がないもしくは引き継いだとしてもサポートできる体制を整えておくことが必要です。
債務が多い時には事業再生がおすすめ
事業承継をする際になるべく後継者の負担を軽くする方法として、事業再生という選択肢があります。事業再生とは会社の債務が多すぎて倒産の危機に陥ってしまった際に、赤字の原因となっている事業を確認し、採算が取れない事業を切り離すなどして立て直すことを言います。
債務がある企業の事業承継によく使われる事業再生の手法として、会社の中でも収益力のある事業を切り分け、新しい会社としてその事業を行うこととします。こうすることで、後継者が会社の債務を継承する必要が無くなります。 しかし、この方法は経営者側が債務をすべて負うこととなります。
また、確かに利益を生み出せる事業を存続させることも、債務の精算を行うこともできますが、取引先に迷惑がかかってしまうことが多いです。債務がある状態で倒産したり、債務の放棄をしたりすると、取引先がかなりの損害を被りますが、債務を請求することができません。そのため、後継者が経営する企業に対して責任を追及されてしまう可能性があります。
したがって、万が一の時に備えて事業を分割して事業再生を目指す場合は弁護士など法の専門家に相談した上で行うべきでしょう。
債務を抱えた企業の事業承継の流れは?
債務を抱えた企業の事業承継は通常の事業承継と異なります。そこで債務を抱えた企業の事業承継の流れを確認しましょう。
まずは、経営状況をしっかり把握するために資産や負債をチェックします。この際、帳簿に書かれている金額ではなく、実際に取引されている金額で計算を進めないと現状が把握できなくなってしまうので要注意です。
また、中小企業だと簿外債務が存在していることが多々あります。簿外債務があると計算が合わなくなってしまうのでこれもしっかり考えた上でチェックを行いましょう。それに加え、このタイミングで個人保証と経営者個人の資産・債務に関しても確認をしなければいけません。
万が一、倒産するとなった場合、経営者が企業の保証人となっていることが多く、経営者個人の資産を債務の穴埋めに使わなければいけなくなってしまう可能性が高いので個人の資産状況も把握しておく必要があります。
企業と経営者個人の資産・債務などの確認を終えたら、後継者を探しましょう。事業承継は親族内で行うことが多いですが、第三者に任せたり、同業他社に事業承継を依頼したりするという選択肢も考えておきましょう。さらに、先ほど紹介した方法のように、事業を分割すれば後継者が債務を負う必要が無くなります。そのため、すぐに後継者が見つからなくても諦めずに、会社を任せたいと思う人に声をかけてみましょう。
後継者が見つかったら本格的に事業承継計画を立て始めることとなります。この際に事業計画・精算計画・承継計画の3種類の計画を立てなければいけませんが、全てを並行して進められるようにしましょう。 後継者が既に会社を経営した経験があったり、債務が無理なく返済できる程度の金額であったりする場合はそのまま後継者に継がせて問題ないでしょう。
しかし、債務の金額が大きい場合、いきなり後継者に債務を継がせると事業承継の意味がなくなってしまったり、新旧経営者間でトラブルが起こってしまったりします。そうならないために事業を分割し、後継者の負担を軽減させましょう。ただ、この際に債権者との交渉に時間がかかってしまう可能性があります。それに備えて余裕のあるスケジュールを立てましょう。
さらに、後継者は事業承継後の事業計画を早い段階で建てておくことが大切です。債務があって事業を分離させて事業継承を行った場合、経営状況が大きく変わるので、稼げる事業を分離させたとしても利益が出ない状況が続く可能性があります。そんな時に備えて、大きく方向転換をするなどして事業承継を行ったことで企業も大きく生まれ変わったことを外部にアピールしましょう。
また、重要な事業を分離させた後は、債務が残るので経営者はその債務の処理を行う必要があります。この手続きは経営者がただ倒産手続きをすれば良いというわけではありません。企業を設立する場合、銀行などから融資を受けることとなるでしょう。
その際、経営者を保証人として融資契約を結びます。そうなると、企業を経営する上で銀行から借りた債務は会社が倒産しても保証人である経営者に返済義務が残ります。しかし、債務は経営者個人の資産だけで返済できない金額であることが大半です。そのため、企業を倒産させる場合は経営者も自己破産をしなければいけなくなってしまうことが多々あります。
債務を返済することができなくて自己破産をした場合、生活に必要な必要最低限の資産以外は全て手放さなければいけません。家ももちろんその対象となるので、家族を巻き込んでしまう可能性もあります。 ただ、基本的に銀行などの債権者は自己破産されると大損をしてしまうため、基本的に少しでも支払いができる手段を用意してくれることが多いです。
分割での返済などにも対応してくれる可能性があるので、自己破産で自分の資産を手放したくないのであれば弁護士などに相談した上で債権者に対して返済方法について交渉しましょう。
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