目次 [非表示]
中小企業の経営者にとって、近い将来における次世代への事業承継は重要な課題だといえるでしょう。事業承継の手続きには様々なものがありますが、複数の企業を対象とする場合には株式移転による方法が有利になります。
株式移転による事業承継のための具体的な手続きや、そのメリットやデメリットなどを詳しく確認してみましょう。
事業承継は企業経営を次の経営者に引き継ぐための手続きです!
事業承継とは中小企業の経営者が、次の経営者へと企業の権利を譲渡する手続きのことです。
中小企業では重要な意思決定を経営者自身が行うことが多いため、引き継ぎがうまくいかないと企業活動全体が一時的にストップして、最悪の場合にはこれまで築き上げてきた取引先との信頼関係が失われてしまうことになります。様々な混乱の発生を防ぎながら事業承継をスムースに進めるためには、事前に入念な準備を行うことが必要不可欠なのです。
事業承継には親族を後継者とする親族間承継、役員や従業員を後継者とする従業員承継、企業をM&Aなどにより第三者に売却する外部承継の3種類があります。日本の中小企業経営者の場合には自分の子供など、親族に事業を引き継いでほしいと考えることが多いようです。今回は親族間承継を前提とした、事業承継の具体的な方法などを紹介します。
株式譲渡による事業承継にはどのような問題があるのでしょうか?
株式譲渡は事業継承の方法の一つであり、現在の経営者が保有する事業承継の対象企業の株式を、新しい経営者に対して譲渡する手続のことになります。日本の中小企業では企業のオーナーが企業の経営者であることが多く、経営者が保有する株式を新しい経営者に譲渡する株式譲渡が幅広く行われています。株式譲渡はシンプルでわかりやすい方法ですが、実際に行う場合には一定の条件を満たすことが必要になりますし、さらに様々な問題が発生する可能性があります。
企業の実質的な経営権を得るためには、発行済み株式数の3分の2以上の株式を取得することが必要です。中小企業の事業承継の場合には、できれば株式の100%を取得することが望ましいといえるでしょう。発行済み株式の全部または一部が譲渡制限株式に指定されている場合には、これを譲渡するためには取締役会または株主総会の承認手続きが必要になります。
また、実際の譲渡の際には、株式の譲渡価格をどのように決定すれば良いのかが問題になることが多いようです。株式市場に上場する大企業の株式とは異なり、中小企業の株式の場合には株式の客観的な価額を算定することが難しくなります。売却価額が株式の額面よりも高額な場合には、相続税や譲渡税などの支払いが必要になるかもしれません。
その他の問題点としては、複数の企業を事業承継の対象とする場合には、株式譲渡のための手続きが煩雑になることなどがあげられます。
株式移転では持株会社の株式を取得することで事業承継を行います!
株式移転は事業承継の方法の一つであり、会社法第2条32号では「株式移転とは一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう」と規定されています。
新たに設立されるのは企業の支配を目的とする持株会社であり、自らが具体的な事業を行うことはありませんが、株式の所有により間接的に子会社の経営を行います。したがって、株主として子会社の意思決定に関与し、配当金の形で子会社から利益を受け取ることになるのです。
株式移転ではまず現経営者が持株会社を設立して、持株会社に対して承継対象企業の株式の売却を行います。その後、持株会社の株式を次の経営者に対して譲渡することで、事業の承継を行うのです。あるいは、次の経営者が持株会社を設立して、前経営者が保有する承継対象企業の株式を買い取ることで事業承継を行う方法もあります。いずれの場合にも設立された持株会社は承継対象企業の親会社となり、子会社の実質的な経営権を取得します。
新しい経営者は親会社である持株会社を経由して、間接的に子会社を経営することになります。 株式移転による方法は、複数の企業から構成される企業グループの事業承継の際に特に有利だといえるでしょう。対象となる企業が複数の場合には、株式譲渡の場合にはそれぞれ個別の事業承継が必要であり、そのための手続きは煩雑なものになります。
一方の株式移転であれば複数の企業の株式を持株会社に集約することにより、複数の事業承継の手続きを一括して行うことができるのです。
株式移転による事業承継には様々なメリットがあります!
株式移転による事業承継には、さらに様々なメリットがあります。
まずは持株会社の設立により、企業グループ全体での意思決定が迅速化することがあげられます。企業グループは複数の企業による集合体であり、それぞれの企業は独自の判断で活動を行っています。グループ全体の効率的な経営のためには、これを管理・統率する存在が必要なのです。持株会社はグループの中心となる企業であり、企業グループ全体の利益を最大化するための施策を行います。
さらに、株式移転には事業承継にともなう株式の分散を防ぐ効果があります。株式譲渡による親族間承継では、A社は現経営者の長男、B社は次男、C社は三男などのように、グループ企業全体を複数の後継者が分割して承継することが多いようです。
この場合には各社個別の経営の面では有利になりますが、一方でグループ全体としての経営の面では不利になります。しかし、株式移転では持株会社に企業グループ全体の株式が集約されるため、株式が分散してしまう心配はありません。
その他には、税制面における優遇が適用されることがあげられます。一定の条件を満たすことで課税の対象となる株価の圧縮が可能になり、相続税や贈与税の負担を軽減することができるのです。加えて、100%子会社から親会社に支払われる配当金は非課税になることや、子会社は資産の簿価評価による課税の繰り延べが認められることなどもメリットだといえるでしょう。
株式移転による事業承継にデメリットはあるのでしょうか?
事業承継の対象が単一の企業のみの場合や、対象となる企業グループの規模が小さい場合などには、株式移転による事業承継のメリットは限定されることになります。なぜなら、実際に持株会社を設立してこれを運営していくためには様々なコストがかかるため、メリットよりもデメリットの方が大きくなってしまうのです。
したがって、株式移転による事業承継の手続きは、弁護士や税理士などの専門家に相談をしながら慎重に行うことが必要です。例えば、節税目的で設立されたことが明らかな持株会社は、国税庁に否認される可能性があります。また、一部には悪質だと判断され、追徴金が課せられるケースなどもあるようです。
事業承継には株式移転以外にも様々な方法がありますので、それぞれのメリットとデメリットをトータルで判断した上で最適な方法を検討してみましょう。
あわせて読みたい関連記事
実質税負担ゼロで自社株が引き継げる特例事業承継税制とは?
事業承継にかかる贈与税や相続税の負担が軽減される?後継者は知っておきたい特例事業承継税制
特例事業承継税制を検討する際にはおさえておきたい特例の落とし穴
ちょっと待って!知っておきたい特例事業承継税制をとりまくリスクと対応策
事業承継をきっかけに家族ともめたくない方はお読みください
事業承継は先代経営者と後継者の問題だけではない。家族ともめやすい遺留分問題とは?
事業を売却するってどういうこと?
法人の事業譲渡とは?~メリット・デメリットと手続き~まとめて解説
企業の承継は、自社株の引継ぎだけじゃない
事業承継・会社/企業の承継って何?承継と継承の違いも合わせて解説
ゼロイチよりも買収!?これから増えるM&Aについておさえよう
M&Aって一体なに?会社に係るM&Aを基礎知識から理解しよう!
親族での事業承継を考えるポイントをまとめました
事業相続・承継!【親族内承継】って何?納税猶予も含めて解説!
中小企業を長年コンサルしてきた元金融機関行員中小企業診断士が語るシリーズ
事業承継との向き合い方②事業承継を幻にしないために〜誰に引き継ぐべきか〜
事業承継との向き合い方④~なぜモメるのか?親子間のボタンの掛け違いから考える事業承継~
事業承継との向き合い方⑤ 事業を譲る側がすべきこととは〜船に船頭は二人もいらない?〜