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後継者に事業を引き継ぐ時は、事業承継する必要があります。今後の事業承継における課題を解決するためには、動向を理解することが大切です。
この記事では、中小企業庁の調査をもとに、事業承継の動向について説明します。また、今後の課題や解決策についても解説しますので、事業承継を検討している場合は参考にしてください。
事業承継の動向とは?
中小企業庁の調査によると、中小企業や小規模事業者における事業承継が進んでいます。しかし、事業承継ができないと、廃業によって清算する場合もあり、事業を残せないことも多いです。
中小企業の経営者や小規模事業者は高齢化していて、引退年齢も上がっています。例えば、1980年代の引退年齢は60歳~63歳でした。しかし、1990年代になると、67歳~70歳で引退する人が多くなっています。2010年代で引退する人の平均年齢は67歳~71歳で、以前よりも引退年齢が高齢化しているのです。
さらに、規模別では中規模企業よりも小規模事業者の方が、引退年齢は高い傾向があります。 引退年齢が高くなる原因は、後継者不足です。また、後継者が見つかっても、引継ぎにおける教育不足で、なかなか引き継げない場合もあります。
今後の事業運営方針を聞いたアンケートによると、経営者の年齢が高いほど、「廃業したい」「事業を縮小したい」という意見がみられました。特に、小規模事業者では、廃業や縮小したいという意見が多くみられます。
中規模事業者の場合、経営者が40歳代~60歳代の時は「事業を拡大したい」「現状を維持したい」という意見が多いです。しかし、経営者の年齢が65歳以上になると、「縮小や廃業したい」という意見が多くなっています。
その他にも、経営者の年齢と事業承継のタイミングについてのアンケート調査結果があります。事業承継のタイミングが「ちょうどよかった」と回答した年齢層は40歳~49歳が多いです。「もっと早い時期に事業承継したかった」と回答したのは、50歳~59歳の経営者で約37%、60歳以上の経営者は約43%でした。つまり、事業承継したくてもできなかった人や、タイミングが遅くなってしまったと感じている人が多くいるのです。
事業承継の課題として、後継者選びがある!
事業承継の課題として、後継者選びがあります。
親族内で後継者がいれば問題ありませんが、いない場合は他から見つけなければなりません。中小企業庁の調査によると、子供や孫など親族内で事業承継したいと思っている人が多いですが、親族内承継できた小規模事業者は約65%、中規模事業者では約42%になっています。つまり、従業員や役員などに引き継ぐ親族外承継、他の会社に引き継ぐM&Aを選択している場合もあるのです。
親族以外を後継者にした理由として、「親族の中に適任者がいなかった」「役員や従業員の方が士気向上の期待ができる」「血縁以外に引き継ぎたい」などの意見がありました。
また、後継者に事業承継をする時は、あらかじめ準備をすることが大切です。数年間は後継者の教育をする必要があり、任せられない状況では積極的に事業承継を行うことはできません。
後継者に事業承継を考えている経営者は、後継者の候補を上げてから、能力向上のために教育をしていることが少なくありません。しかし、事業承継の準備を積極的にしているのは、中規模事業者の方が多く、小規模事業者は、「引き継ぐ候補がいない」「時間やコストの余裕がない」などで、教育などの準備が不十分になっています。
権利や金銭面での課題もある!
事業承継の課題として、経営権の分散防止があります。
株式の譲渡をする時、後継者に多くの株式を渡すことが望ましいです。しかし、相続が関係すると、遺産分割協議や遺留分減殺請求によって、株式は分散する可能性があります。スムーズに事業承継するためには、後継者になる人が議決権を多く持つことが必要です。
この課題を解決するためには、生前贈与などで、後継者が株式を集められるといいでしょう。そのため、暦年課税制度や相続時精算課税制度などを利用します。また、遺言書を作成しておくと、相続人同士のトラブルを防げる可能性が高いです。遺言書は弁護士や司法書士に記載内容を確かめてもらいましょう。
さらに、円滑な事業承継には、株主から異議が出ないように株式の整理をするなどの対策が必要です。加えて、経営方針に賛同してくれる安定株主を確保しておくといいでしょう。安定株主の割合が高いと、事業承継の決議がスムーズに進みます。
他にも、経営権の分散を防止したい時は、種類株式を活用するのも一つの手段です。例えば、「議決権制限株式」を利用し、後継者と他の相続人が持つ株式を分ける方法があります。後継者は議決権のある普通株式を持ち、他の相続人は議決権がない株式にすればいいのです。ただし、相続人同士のトラブルを防ぐために、議決権のない株式を配当などで優遇する株式にするといいでしょう。
なお、引退後も後継者を支えていきたい場合は、「拒否権付種類株式」の利用が可能です。これを持っている株主は、株主総会や後継者が決めたことを止めたい時、決議を拒否する権利があります。したがって、後継者に不安がある時は、拒否権付種類株式を上手に使いながら、教育することができるのです。拒否権付種類株式は、1株だけでも保有していれば、引退しても後継者を支えられるため、事業承継での心配が少なくなります。
そして、M&Aで事業承継する時は、所在不明の株主がいると、全株式を譲渡できず異議申立などのトラブルが起きるため注意が必要です。したがって、M&Aを検討している時は、株主の所在確認をしておくといいでしょう。
また、事業を売却する会社は、しっかりと決めることが大切です。売却額だけでなく、どのぐらいの範囲で事業を残してくれるのか、確認するといいでしょう。
さらに、従業員の雇用条件が変更される可能性もあります。従業員の給料や待遇なども、あらかじめ確認することが必要です。
他にも、売上や従業員が少ない企業は、社長が多くの重要な仕事をしていることが少なくありません。中でも、社長自身の技術力が必要な場合、なかなか事業を引き継ぐことができないでしょう。また、取引先との関係も、社長が築き上げている可能性も少なくありません。
そのような場合、後継者を教育する時間が十分にないと、後継者の力不足によって、業績不振になってしまうこともあり、事業承継における今後の課題と言えるしょう。
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