中小企業庁が製作・発行、技術と雇用を守るために活用したい、事業承継のハンドブックとは

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事業承継とは、事業のオーナーが、それまで開発してきた技術や育ててきた人材を次代に引き継ぎ、守るための大切な手続きですが、具体的にはどのような手順を踏めばいいのか、法律的な問題などで戸惑うオーナーも少なくありません。

そこで中小企業庁が、事業承継に悩むオーナーのために製作、発行しているのが、ガイドラインやマニュアルを記したハンドブックです。

中小企業庁がハンドブックを製作・発行している理由とは

事業承継そのものは、何も特別なものではありません。親が創生した事業を、その子供が後継者となり、次代のオーナー社長として引き継いでいくことは、ごく自然な流れとして行われてきました。

しかし2000年代に入り、日本に存在する企業のおよそ7割を占めるとされる中小企業において、この事業承継が進まず、廃業が増加するという事態となっています。事業の先行きへの不安や、少子化などが原因での後継者不足がその主な原因です。

しかし企業が廃業を迎えると、それまで働いていた従業員は職を失い、これから社会へ出ようとする若者にとっても就職先が減ることになります。また、日本の国際競争力を支えてきたのは中小企業が開発し、培ってきた技術や知識ですが、廃業するとそれらもともに途切れてしまうため、将来的に競争力の減衰に繋がる重大事となるのです。

このため政府は事業承継を推進するべく、税制の優遇措置などを行ってきました。中小企業庁が発行しているハンドブックは、それをより多くの事業オーナーに知ってもらうため製作されたものです。

ハンドブックの種類は豊富、具体的な引継ぎ方法や、事業承継に関する支援施策の内容などをわかりやすく解説

事業承継を解説する中小企業庁のハンドブックには、支援制度について述べたものや、事業承継の具体的な取り組み方、円滑な進め方について解説したものなど、さまざまな種類があります。

例えば、「会社を未来につなげる」は、2019年4月現在、PDFの形式で公開されていますが、これから事業承継に取り組む経営者のために、引継ぎ全般にわたって手順や利用できる制度などを解説したものです。また、中小企業の経営者が後継者に事業を承継する流れが、実話をベースとして読み物風にまとめられており、手続きの中で起こりがちなトラブルにも気付きやすくなっています。全体として基本的な部分が簡潔にまとめられた、親しみやすい内容です。

「経営者のための事業承継マニュアル」には、経営権の分散リスクや後継者を公表するタイミングなど、引継ぎに関わる問題がより詳細に提示されています。ただしオーナーがその都度取るべき行動をはじめ、民法特例や各施策の活用方法など、状況を例としてあげたうえでグラフィックを用いて解説されているため、難解に感じることはありません。

M&Aによる社外への事業承継も、その手法だけではなく、企業価値の算定方法や交渉の心得、支援機関の紹介まで記載があります。後継者が自社株式を買い取るための支援金や、経営者保証なども、必要に応じて目的別のページへ読み勧めることができるなど、実用性の高いハンドブックです。

中小企業向けの施策を詳しく知りたいという人には「平成30年度版中小企業施策利用ガイドブック」が用意されています。こちらは中小企業のオーナーが施策を実際に利用したいと考えたときの手引きとなるよう、各施策の概要をまとめたものです。

事業承継に直接関係する施策はもちろんですが、中小企業を活性化させるために制定されたさまざまな補助金や支援事業、特許関連のポータルサイトまで網羅されています。より良い形で事業を引き継ぐことができるよう、現オーナーだけでなく、後継者となる人もぜひ目を通しておきたい一冊です。

このほか、税制についてのパンフレットや、事業承継のためのステップを簡単にまとめたリーフレットなどもあり、施策を始めて知った人にも手にとってもらいやすいよう工夫されています。

ハンドブックはPDFファイルでも、冊子の形でも入手できます

事業承継に関わる施策や法律、承継の手順などを解説した中小企業庁のハンドブックは、PDFファイルとしてオンラインで読むことができるほか、紙媒体の冊子の形でも入手可能です。興味のある人は、まず中小企業庁の公式サイトにアクセスしてみてください。

サイトのトップページには「中小企業施策」として、経営や金融などのサポートページを案内するボタンがあります。事業承継のサポートページへのリンクは、その並びにある緑色のボタン、「財務サポート」の中の項目「事業承継」です。クリックすると、事業承継に関する施策の新着情報やトピックスが掲載されたページに移動し、その下部「広報冊子」のコーナーに各種ハンドブックが掲載されています。

個人で読むのならば、各ハンドブックのリンクからPDFのページを開くのが最も手軽な方法です。右クリックから「名前をつけてリンク先を保存」でダウンロードもできます。

関係者に配布したいので紙の冊子を手元におきたい、という人は通信販売の形で、中小企業庁への請求が可能です。「冊子の請求受付ページはこちら」から「広報冊子のご請求について」のページへ移動すると、入手方法についての説明を見ることができます。紙の冊子には、請求できる部数が限られているものもありますが、すべて無料で、請求者の負担は着払いの送料のみです。

請求者が商工会議所や商店街振興組合連合会などであれば、送料の負担もありません。 各冊子はどれもPDFで読むことができるため、内容を確認してから請求できます。ただし冊子には請求可能なものと、現在取り扱いの無いものがあるので気をつけてください。

また冊子の発送はスケジュールが組まれています。各回ごとに設定された請求の集計日と発送日に従って発送が行われるため、会議などで配布を予定している場合は、あらかじめ日程に余裕を持って請求しましょう。発送日から到着予定までは、おおむね3日以内です。どうしても急いで入手したいという人は、最寄の経済産業曲や中小企業支援センターなどに問い合わせれば、在庫があるか調べてもらうことができます。

その他、個人情報の取り扱いや請求上のトラブルが発生したときの対処方法は「よくある質問」を参照してください。

事業承継を検討している人は、まず中小企業庁のハンドブックを読むのがおすすめです

事業承継の解説本は、一般の出版社からも発行されているため、書店で簡単に購入できますが、一冊あたり数千円とそれなりの価格であることが難点です。

しかし、中小企業庁のハンドブックはどれも無料で入手できます。さらに、概要をざっと知ることのできる平易な内容のものから、するべき準備や周囲への配慮、施策の具体的な利用法まで詳細に記したものまで、自分が求める情報の密度に合わせて選ぶことが可能です。

事業承継を検討している人には、まず中小企業庁のハンドブックを、PDFで読むことをおすすめします。

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