事業承継における資金の問題はどうすればいい?金融支援を知って資金難を乗り越えよう

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すでに存在している会社の事業承継を行う場合でも、まとまった額の資金が必要となりますが、一から起業する場合に受けられるような補助金などのサポートを受けることができません。しかし、事業承継には事業承継向けの金融支援が存在しています。

事業承継における資金集めで苦労しないよう、事業承継向けの金融支援にどのようなものがあるのかを確認していきましょう。

経営承継に必要な資金とは?

一から起業するとなると、登記費用をはじめとした開業資金が必要になってきます。その点、既に存在している会社の経営権を承継する経営承継ならば、それらの資金は必要としません。しかし、資金ゼロで経営承継できるという訳でもないのです。

M&Aなどによる経営承継の場合、現在の経営者から会社の株式や事業にかかわる資産を後継者が買い取ることで経営承継を行うのが一般的でしょう。会社の経営権を得るには、3分の2以上の株式を所有していることが条件となります。そのため、承継する会社の半数以上の株式を買い取れるだけの資金を準備しておかなければなりません。

また、現在の経営者と後継者が親族同士であるなど、株式を買い取る必要がない場合でも資金は必要となります。その必要な資金とは、税金を納めるための資金です。現在の経営者から株式や事業資産を贈与または相続で得た場合、贈与税や相続税が発生します。納税できなかったばかりに会社を手放すという事態に陥らないよう、税金対策用の資金はしっかり準備しておく必要があるでしょう。

さらに、経営者の交代で信用状態が低下することによって、承継前と同様に運転資金を手に入れるのが困難になることも十分に考えられます。

実際に経営承継を行う前には、承継に必要な資金と調達方法をしっかりと用意しておくことが大切です。

中小企業経営承継円滑化法に基づいた金融支援

日本には多くの中小企業が存在し、それらが日本経済を支えています。そのような中小企業の中には、独自のノウハウや技術を持った会社も珍しくありません。しかし、それほど素晴らしい技術を持っているにもかかわらず、資金集めや税金の問題で事業承継できずに会社をたたむ選択をした会社も多くあります。

このような事態を受け政府は、中小企業の事業承継をスムーズなものにするための法律「中小企業経営承継円滑化法」を2009年に制定しました。 中小企業経営承継円滑化法では3つの支援措置が行われており、認定を受けた中小企業はこの3つの支援措置を受けることができます。

その支援措置とは、贈与税・相続税の納税猶予または免税、遺留分に関する民法の特例、そして最後が金融支援です。金融支援とはその名の通り、承継に必要な資金を中小企業及び企業の代表者が得られるよう、融資によってサポートするための措置となります。

金融支援措置とは?

金融支援措置とは先述した通り、経営承継にかかわる資金調達を融資でサポートするためのものです。中小企業経営承継円滑化法に基づいて行われる金融支援措置では、経営承継に必要な資金の調達を支援するために、債務保証枠の拡大と低金利での融資の2つを行っています。

基本的には、株式の買取資金や贈与税・相続税を納付するための資金を想定した措置ですが、経営者の変更により信用状態が低下したために資金繰りが厳しくなった中小企業の運転資金としても、この金融支援措置を利用することが可能です。

金融支援措置を受けるためには、都道府県知事によって措置を受けるべき会社であると認定してもらう必要があります。認定の条件としては、事業承継の原因が先代経営者の死亡または退任であること、後継者が株式を取得する必要があること、承継後の売上高の減少が見込まれることなどが挙げられます。

また、この制度はあくまで中小企業を対象としているので、中小企業基本法や政令における中小企業の定義にあてはまらない会社では、この措置を受けることはできないので注意が必要です。

金融支援措置その1「中小企業信用保険法の特例」

中小企業信用保険法の特例によって受けられる金融支援措置は、保証枠の拡大です。

中小企業が金融機関から融資を受けようとする場合、基本的には信用保証協会の保証が必要となります。金融機関は債務者が返済不能となって貸し倒れになると赤字になってしまいます。

そこで金融機関に対して返済を保証するのが信用保証協会です。もし債務者が返済できなくなった場合、信用保証協会が代わりに金融機関へと弁済を行い、債務者は金融機関の代わりに信用保証協会へと返済することになります。つまり、保証枠とは信用保証協会が代わりに弁済してくれる限度額のことで、金融機関が中小企業に融資してくれる限度額でもあるのです。

中小企業信用保険法では、信用保証協会による保証枠は普通保険で2億円、無担保保険で8千万円、合わせて2億8千万円となっています。しかし、中小企業経営承継円滑化法で認められた企業は特例として、普通保険がプラス2億円、無担保保険がプラス8千万円と別枠で設けられ、合計で2億8千万円をさらに融資してもらえるようになるのです。

ただし、この特例が適用できるのはあくまで中小企業及び個人事業主で、会社の代表者である個人が受けられるものではないので注意しましょう。

金融支援措置その2「日本政策金融公庫法の特例」

日本政策金融公庫法の特例で受けられる金融支援措置は、低金利での融資です。 そもそも日本政策金融公庫とは、中小企業などが円滑に資金を調達をできるようサポートするために作られた金融機関で、国の出資によって運営されています。そのため、他の金融機関よりも低金利で融資を受けられたり、審査が通りやすくなっていたりします。

比較的低金利で融資を受けられる日本政策金融公庫ですが、この特例を受けるとさらに低い金利で追加の融資を受けることが可能です。ただし、この融資はあくまで事業承継にかかわる費用をまかなうためのものなので、資金繰りの悪化に対応するため等の理由では特別低金利での融資は受けられない可能性があります。

また、先述の中小企業信用保険法の特例では融資の対象が会社であったのに対し、こちらの特例は会社の代表者が融資の対象となるので、利用は計画的に行いましょう。

金融支援を賢く利用して資金を集めよう

事業承継は、会社の株式を買い集めたり、贈与税・相続税を納めたりと多額の資金が必要となるものです。また、無事に承継できたとしても経営者交代により資金繰りが悪化する場合もあります。無事に事業を承継し、その後も滞りなく会社を経営していくには、計画的に資金を準備しておくことが大切です。

事業承継にかかわる資金調達をサポートしてくれる法律や仕組みがあることを、知っているか知らないかでは大きな差があります。資金調達のために融資が必要になった場合は、これらの金融支援措置を賢く利用して、事業承継を行いましょう。

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