中小企業は独自化で生き残ろう!おたる政寿司 常務取締役 中村圭助さん

ポイント
  1. 小樽で有名な「おたる政寿司」
  2. メニュー表を変えただけで売上激増
  3. 名指しの予約が年間500件

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中小企業が生き残っていくための一つの正解が「独自化」していくことなのではないだろうか。

そんな仮説からスタートした、経営者のインタビュー連載「中小企業は独自化で生き残ろう!」。

第9弾は、「おたる政寿司」の常務取締役、中村圭助さんです。

(聞き役:頼母木 俊輔)

小樽を代表する有名店「おたる政寿司」

−本日はよろしくお願いします!お寿司が大好きなのでお話聞けるのを楽しみにしてました!

まずは中村さんの会社について簡単にご紹介お願いします!

中村)はい!こちらこそよろしくお願いします!握るぞ!!

小樽にあるお寿司屋さんで、おじいちゃんの代から始めて創業80周年になります。

小樽に2店舗、都内が銀座と新宿で2店舗、さらに今月9日にバンコクで1店舗オープンします。

高校を卒業するぐらいには将来お店を継ぐんだろうなという感覚があったので、3年間都内のお店で修行させていただいた後は、小樽に戻って働き始めました。

中村さんのTwitterより( こうして日々のネタをツイートしています )

−小樽でも一番有名なお寿司屋さんとうかがっています!他のお寿司やさんと、何が違うんでしょうか?

どうですかね。なんでか、よくわかんないんですよね。小樽に130軒のお寿司屋さんがあって、扱っているネタはそんなに大きく違わないじゃないですかね。

うちの父は自分のお店だけでなく小樽をどうやって盛り上げるかという意識が強いんですよ。だからお店にずっといてお店のことだけをやるというよりも、いろんな組合の役員になって街や小樽をどうやって盛り上げようかということを考えて行動している点はちょっと違いますかね。

あとは、積極的に情報発信しているのはあるかもしれないですね。他のお店はそんなにSNSで発信とかしないじゃないですか。

小樽のお寿司屋さんで検索するとうちのお店の情報が出てきますし、今月だけでもテレビや雑誌の取材が5件ほど入っています。

ただ、昔からメディアにはよく取り上げられていてお客さんは入っていたのですが、僕が入ってきたころは、ほとんど利益がないような感じだったんですよ。

伝わっていなかった寿司哲学

−繁盛していたのに儲かってなかったんですか?

はい、帰ってきた当初はすごくいいイメージを持っていたんですが、実際に決算に立ち会ってみると、全然いい数字じゃなくって、それが何年か続いてだんだん怖くなってきました。

それから真剣に経営について考えるようになって、いろんなところに参加して勉強するようになりました。

−経営を学んでどんなところが変わったんですか?

すべてが変わったように思います。以前は何もわかってなかったので、いい仕事をして、良いものをお客さんに出していれさえすれば、それでいいと思っていたんですね。

包丁をめちゃくちゃ研いで、キレキレにして仕事をすることが寿司哲学だと思ってたんですけど、ちゃんとお客さんが来てくれない事には本当の寿司哲学と呼べないなと。

すみません。哲学、哲学って。カッコつけてすみません。

−ごめんなさい。ちょっと何言ってるかよく分かりません(笑)

売上が何年か横ばいになってどうしようか悩んでいるときに、お店の外にブラックボードをだして、「うちのお店は敷居の高いお店じゃないですよ、お気軽にお入りください」って書いて出してみたらいいよって、エクスマ(エクスペリエンスマーケティング)の藤村正宏先生にアドバイスを受けたんですね。

それまではインテリ寿司職人として(笑)いろんなデータを集めて広告を出したり、適切な価格帯を調べてメニューを作成したりとロジカルに考えてやっていたので、そんな情緒的なことをやっても意味がないと思ったんですよ。それでも、一応自分の顔写真を張り付けてコメント書いて、ブラックボードをおいてみたんですね。

そうしたら数件、それを見て入ってきたというお客さんがいて、あれ?!って思ったんですよ。それで本格的に実験してみようと思いました。

百貨店が開催してる北海道物産展に何か所か出店する予定があったので、片方は従来通りの店作り、そしてもう片方はブラックボードを置いてみました。

工藤さんという見た目がちょっと怖そうな人が責任者として行っていたので、「見た目は怖そうですけど笑、話し好きなんで気軽に話かけてください」ってブラックボードに書いて置いたんです。

そうしたら従来どおりの店作りをした方は前年比97%ぐらいで、そこの物産展全体がそれぐらいだったので平均の数値だったのに対して、ブラックボードを出した方は物産展全体が前年比95%ぐらいとちょっと落ちた中で、うちだけ10%ぐらい売上がよくて、おーこれは効果があるなと思ったんです。

−ブラックボードで15%ぐらい売上が伸びたっていうことですね。大きいですよね!

そこからやることが変わってきましたね。今まではずっと自分たちの強みとかを考えてやってたんですけど、まず第一にお客さんのことを考えるようになったんですよね。こんな当たり前の事を忘れていたなんて、寿司のネタは豊富なのに、そっちのネタは不足していました。

小樽は観光で来るお客さんが多いじゃないですか。どういうのが喜ぶのかなというのをまず最初に考えて、みんな写真を撮ってるから顔ハメ看板をおいてみたり、やることが変わっていきました。

小さなお子さんや、外国人の方もみんな喜んで写真を撮って帰って行くんです。この時点で、ああ、僕はただ寿司を握ってるんじゃないんだなと思うようになりました。

メニュー表の変更で高級セットの売上が10倍以上に

−変えてみて一番インパクトが大きかったのはどんなことですか

お店のメニューですね。これはすごいですよ!それまでは、値段が3,000円以上になると急に売上が下がると思って3,000円のセットを7種類ぐらい作って、その中から選んでもらうようにしていたんですね。

そのやり方が悪かったわけではないんですけど、ひとつだけ問題があって、その値段だといいネタを全部入れることができないんですね。

大体いいネタをひと通り食べてもらいたいなと思ったら握りだけで5,000円ぐらいになるんですよ。

それまでも5,000円のセットも一応あったんですけど、ほとんど売れてなかったんです。

それでメニュー表を変えて5,000円のセットを一番上にもってきて

「美味しい寿司を食べたい方一つ一つ職人が一手間かけて提供しますので、しょう油は皿にいれないでくださいね」っていう文言を加えました。

そうしたら今までカウンターだけで1ヶ月、60食ぐらいだった売上が、いきなり668食でるようになったんですね!

いまは1,000食以上になっています。客単価もあがって、お客さんも喜んでくれて、僕たち板前もやっていても楽しいですよね。

−それは効果が出すぎですね(笑)飲食店の1番高いメニューは2番めのものを売るために存在するという松竹梅の理論が一般的ですが、それをくつがえすような結果になってますね。

逆に、これは失敗だったなという事例はありますか?

はい、あります。何年か前ですが在宅時間が伸びているというデータがあったので、宅配寿司をやってみたことがあるんですね。

中村屋という名前で、1,000〜1,500円ぐらいの安い価格のセットを作り、店舗を持たずに折込チラシの注文だけで地元の人たち向けに販売したんですね。

それがうまくいって、これは良いぞと思って調子に乗って今度は高級バージョンの宅配を展開しました。

そしたら高級バージョンは全然注文がこなくて、2ヶ月で閉鎖しました。

やっぱり欲を出すとだめだなと思いました。しっかりとお客さんのニーズを見極めてやらないとだめですね。

ただこの時は2ヶ月ですぐに止められたので良かったですね。

メニュー表にPOPを積極的に書いてるんですけど、すごい出るのは5つ書いたら1つか2つですね。

だから失敗というよりも5回やれば1回はうまくいくなっていう感覚になっているので、失敗という捉え方はしてないですね。

SNSの活用で年間500件の名指し予約が

−なるほど、さきほど発信しているというお話がありましたが、SNSはどんな使い方をしていますか?

僕の場合はただ寿司をのせているだけなので、そんなに特別なことはしていません。

それでもすごい変わったのは、僕個人への名指しの予約が年間500件ぐらいに増えました。

SNSをやる前も100件ぐらいはあったんですよ。うちの店でいうとそれってトップの方の指名数なんですよね。

それからSNSやブログをやるようになって、5倍ぐらいになってますね。

以前はおなじ100件ぐらい予約が入っていた腕のいい板前さんがいて、その人はSNSとかは特にやっていないんですけど、今はちょっと落ちて80件ぐらいなんですね。

だからその予約数の差は何かっていうと、SNSをやっているか、やっていないかの差なんですよね。

−80件でも十分すごいですけどね。500件はハンパじゃないですね!中村さん、大人気なんですね!

SNSで発信する時にこころがけていることはありますか?

メニューやPOPを作る時と同じなんですけど、特定のお客さんをイメージして、そのお客さんが喜んでくれそうな投稿をするようにしていますね。

自分が言いたいことじゃなくて。でも最近は、忙しさにカマトロ握って、いや、カマかけて、ちょっとサボりがちだったのでもう少し頑張らないとと思ってます。

−せっかくいい話してるのにちょいちょい寿司のネタ入れなくても大丈夫ですよ!(笑)

とても順調だと思いますが、直近の経営課題は?

今の課題はやはり人不足ですね。今年びっくりしたのは、うちは毎年調理師学校から入社する人が来てたんで採用は困ってなかったんですけど、今年はゼロだったんですよ。

寿司の世界は厳しいというイメージがあるんだと思いますが、このまま調理師学校頼みにしていたら、まずいなと思ったんですね。

それで来年から「政寿司道場」というのを研修施設を作り、まったく経験がないところから8ヶ月ぐらいで、けっこういいレベルまで育てられるようなカリキュラムを考えています。

−8ヶ月である程度つくれるようになるんですか?

従来のお店に入って覚えるというやり方では無理なんですよ。

それはなんでかというと、お店に入ると日々の仕事が忙しくて、寿司職人としてのスキルアップはそこまでできないんですよね。

だからいったん働くことと、寿司職人としてスキルを学ぶことを分離させて、学ぶことだけに集中させて、仕事を覚えさせる道場を作ろうと思っています。

3ヶ月である程度握りを覚えさせて、残りの期間は料理をやります。

今考えているのは、煮物20パターン、焼き物20パターン、小鉢100種類、銀座の高級店でやっているような料理を先に教えてしまうというようなものをイメージしています。

いまお寿司の学校をやっているところはあるんですが、クオリティとしてはそんなに高くないんですね。

だからクオリティが高い人教育できる施設をつくれば、たぶん他にやっているところがないので、相当いいと思うんですね。

−海外からの出店ニーズがこれからますます高まることは間違いないと思うので、それにも対応できそうですね。

はい、そうなった時に対応できるように、先にしっかりとした人を育てられるような環境をつくっておく。

これが一番の経営課題ですね。ここ2,3年で海外からのお話もすごく増えています。

−経営で重要だと思うことをあえて3つに絞ってあげるとしたら?

これはうちの経営理念でほとんど社員にもこれしか言ってないですが、

美味しさづくり

人づくり

幸せづくり

の3つですね。ここをしっかりとやることだけですね。

「政寿司道場」なんかもこの経営理念にそってるなという判断基準でみて、じゃあやろうかという感じですかね。

−経営者になりたての頃の自分にアドバイスするとしたら?

自分の成果をださなきゃいけない、頑張らなきゃという意識が強かったので、その分周りの人にも強くあたって、傷つけてしまったこともあったと思うんですよね。

だから言いたいのは、肩の力を抜いて楽しんだ方がいいよ、ぐらいですかね。

−今後実現させたいことは?

海外の出店があるのでそれを成功させることと、来年から研修所ができるので、ちゃんと人が育ってくれる場をつくろうっていうのがやろうとしていることで、10年後にこうなるとかは特にないですかね。

売上は前年よりも良くなればいいぐらいで、特にいくら売り上げたいみたいなのはないですね。

僕が入ったころが8億ぐらいで、今が15億円ぐらいなので多少は大きくなったかなっていう感じです。

−順調に成長している秘訣はどんなところになりますか?

うーん、どこですかね。

あ!嫁さんが僕を支えてくれてるからだと思います!できればそうやって書いておいてください(笑)

−はい、内助の功ですね!ありがとうございました!

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