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起業すると、ほとんどの場合、金融機関とのお付き合いは欠かせないものになります。特に、資金調達をして先行投資を行い、収益をつくっていくビジネスモデルの場合は、金融機関からの融資を受けて事業を始めることが多いと思います。また、ビジネスの展開によって、状況によって、新たな融資を受けることもあるでしょう。
融資は申込みをすれば受けられるものではなく、金融機関内部の審査を通らなければ、受けられません。審査基準は細かい部分では金融機関によって異なりますが、押さえておくべきポイントは共通しています。
この記事では、代表的な事業資金の融資の種類と、押さえておくべき審査ポイントについて、解説します。融資を受ける準備をする際の参考になれば嬉しいです。
事業資金の融資を受けることができる金融機関の種類と融資の種類
事業資金の融資を受けることができる金融機関には複数の種類があります。代表的なものは、政府系金融機関である日本政策金融公庫と、いわゆる「銀行」と言われる民間の金融機関です。
それぞれの概要と融資の主な種類について解説します。
日本政策金融公庫とその融資の種類
日本政策金融公庫とは
政府系金融機関は特別な法律により設置された金融機関で、政府が一部出資をしている金融機関です。
そのなかでも、起業家にいちばん身近な金融機関は日本政策金融公庫です。以前は「国民金融公庫」という名前だったので「こっきん」という呼び名を言われる方もいますが、現在は「日本公庫」と省略することが多いようです。
日本政策金融公庫は、国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業の3つの事業を行っていますが、国民生活事業が創業企業や小規模事業者の資金調達を支援しています。
日本政策金融公庫の融資の種類
日本政策金融公庫の融資の種類は多くあり、特に創業のフェーズでの資金調達にはまず日本政策金融公庫の創業融資を受けられるケースが多いようです。
また、それだけではなく、事業を既に開始して時が経過している企業でも、一般貸付や新事業に対応した貸付、事業承継に伴う支出を支える事業承継融資など、幅広く対応しています。
また、日本政策金融公庫は、政府が一部出資をしていることから、公的な役割も持っており、例えば、大きな災害があったときの資金需要についても柔軟に対応し、セーフティネットのような存在でもあります。
日本政策金融公庫に代表する政府系金融機関は政策に沿った事業を行うため、民間金融機関に比べ、低い金利での融資を行います。また、後述しますが、民間金融機関に比べると格付けを用いた審査が緩く、融資を受けやすいという利点があります。
民間金融機関とその融資の種類
民間金融機関とは
民間からの資本により運営されている金融機関です。
一般に「金融機関」というと、銀行や信用金庫のみならず、保険会社や証券会社なども金融機関の範囲には入るのですが、事業資金の融資に限ると、民間金融機関とは「銀行」「信用金庫」「信用組合」を指すことになります。
民間金融機関のうち、都市銀行や地方銀行は株式会社であり、株主利益が優先されるため、利益を追求する経営が基本姿勢となっています。それに対し、信用金庫や信用組合は共同組織の金融機関であるため、地域の繁栄を図る相互扶助を目的としています。
このように、銀行と信用金庫・組合でも優先すべきことが異なりますが、その姿勢が審査のポイントにも現れています。
民間金融機関からの融資の種類
民間金融機関からの融資の種類は大きく分けて3つあります。ポイントは「誰が責任をとるのか」ということです。
・信用保証協会の保証付きの融資(信用補完制度)
信用保証協会は、中小企業・小規模事業者が金融機関から事業資金を調達する際に、保証人となって融資を受けやすくなるようサポートする公的機関です。47都道府県と4市(横浜市、川崎市、名古屋市、岐阜市)にあり、各地域に密着して業務を行っています。
保証協会付き融資とは、中小企業・小規模事業者、金融機関、信用保証協会の3者で成り立っている信用保証制度を利用した融資であり、一定の保証料というコストがかかります。
「保証付き」の意味ですが、融資の返済が不可能になった場合、信用保証協会が借入金を金融機関に弁済します。これを代位弁済といいます。
代位弁済ののち、返済不能になった中小企業・小規模事業者は、信用保証協会へ弁済することになります。
保証協会付きの融資を受ける場合、信用保証協会または金融機関を通じて保証を申し込みます。保証を利用するには、「規模」「業種」「区域・業歴」の3つの基準を満たす必要があります。
融資の申込みを受けたら、事業内容や経営計画等を検討し、保証の諾否を決め、金融機関に連絡をします。信用保証協会による保証承諾後、金融機関も審査の上、金融機関が融資をします。
つまり、保証協会での審査と、金融機関での審査というように、ダブルでの審査があると考えておくとよいでしょう。
・プロパー融資
信用保証協会の保証のついていない、金融機関が独自に行う融資のことをいいます。
保証協会に対する保証料の負担がないため、全体的にコスト少なく調達できる方法になりますが、貸し倒れのリスクを100%金融機関が引き受けることになるため、審査は厳しくなります。
創業から2期目まではプロパー融資は実行しないという金融機関も多く、保証協会付きの融資で実績を積んでから、プロパー融資を検討するというケースがよく見受けられます。金融機関によっては、不動産担保がなければ一切プロパー融資は受け付けないということもあるようです。
保証協会の融資枠は、1企業でいくらと決まっていますので、保証協会付きの融資を受けていたとしても、可能であればプロパー融資に順次切り替えを行い、保証協会が使える融資枠を温存しておくことも有効です。
・制度融資
都道府県などの地方自治体が、中小企業や会社を創業したい人へのサポートを目的として行う融資です。通常、金融機関が窓口となり、自治体からの預託金を用いて融資をします。
この融資制度は、保証協会の保証付きの融資を、自治体が支援する融資で、自治体・保証協会・金融機関の3者が関わる融資となります。
多くの自治体が複数の制度融資を設けていますが、内容や条件はそれぞれ異なります(例えば、東京都では、東京都と東京信用保証協会、指定金融機関の3者が協調して、中小企業などの新規の創業資金や、創業後の事業資金の融資を行っています)。
制度融資の融資業務自体は金融機関が行いますが、融資基準を満たすかどうかの判断はまず、自治体の担当者が行い、融資基準を満たしていると判断すれば、次に金融機関・保証協会で審査を受け、融資を受けることができます。
このように、自治体・保証協会・金融機関の3者が関わることになるため、融資まで時間がとてもかかる融資です。
メリットは金利が低い、創業資金に活用しやすいということです。
では、次に、それぞれの融資の審査ポイントについて解説します。
日本政策金融公庫からの融資の審査ポイント
日本政策金融公庫からの融資のメリット
日本政策金融公庫からの融資のメリットは、無担保・無保証で融資を受けられることです。民間の金融機関では、ここまで優遇されることはありません。
融資の審査を受けるには、まず事業計画書が必要となります。詳しい書き方のポイントについては、こちらのページにまとめているので、ご参考になさってください。
ほとんど書類で審査
融資を申し込むと、まず面談がありますが、面談で多くを話そうと思わないことが大切です。面談は1件あたり20分くらいとなり、先方からの質問に答えることでほとんどの時間がなくなります。
こちらから伝えたいことについては、事業計画書などの資料にまとめておくことが必要です。民間金融機関での融資申込についても共通することですが、金融機関では、対応する担当者だけで融資をするわけではありません。担当者の上司やそのまた上司に融資の稟議を上げなくてはならず、口頭でしか伝えなかったことについては、書き留めて伝達することになります。伝えたいことはもれなく資料に盛り込んでおくとよいでしょう。
日本政策金融公庫の審査のポイント
事業の見通しが具体的に書かれているか?
創業融資でもそれ以外の事業資金でも共通して言えることですが、事業の見通しが具体的に書くことができているかどうかが重要なポイントとなります。
事業実績のある企業でしたら、過去からみてかけ離れた計画・見通しになっていないか、創業であれば、その見通しの根拠が具体的かつわかりやすく書かれているかが見られます。
「どうしてその数字になるのか?」
売上であれば、既にいる顧客数やマーケットの状況などから、支出であれば、何にどのくらいお金をかけるのか、「それなら確かにこのくらいになりそうだ」という納得感を与えられることが大切です。
商品やサービスの競合優位性はどこにあるのか?
ほとんどのビジネスは、既に競合の企業があるものです。そのなかでも、なぜ、自社が選ばれるのか、今の顧客は、なぜ自社の商品やサービスを選んでくれているのか?客観的な根拠が書いてあるとよいでしょう。
必要な資金と調達方法
融資を受けるのであれば、「何に、どのくらい必要なのか」という情報が必ず必要です。また、創業の場合は「自分でどこまで調達できているのか」、自己資金の確保量が審査ポイントとなります。
創業の場合は、創業に必要なお金の最低でも10分の1を、創業に向けてコツコツお金を貯めることができたかが大きなポイントになります。
既に事業を始めている場合は、融資が必要なお金が「設備資金」「正常運転資金」「つなぎ資金」「納税資金や賞与資金」などのどれに該当するかを明らかにし、その妥当性を伝える必要があります。
そのためには、「資金繰り表」を提出すると有効です。
すでに事業を始めている場合は財務内容
事業をしているとその実績は当然ながら決算書に表れます。決算内容に問題があれば、他の要素でプラスになることは難しいかもしれません。
・営業利益はプラスか?
・経常利益はプラスか?
マイナスである場合は、その根拠と来期はプラスになることの説明が必要です。
・売掛金や在庫金額は適正か?
・純資産がマイナス(債務超過)になっていないか?
負債が資産を上回る債務超過状態であれば、よほど根拠のある経営改善計画を一緒に提出して理解をしてもらわない限り、審査を通過するのは難しいでしょう。
創業の場合は経営者の経歴や能力
創業の場合は、決算書などで評価ができないため、経営者のこれまでの経歴や実績からみる能力を評価しています。これを伝えるには、やはり事業計画書にやろうとしている事業と、これまでの自分の歩みがリンクするように記載することが必要でしょう。
「なぜ、あなたがこれをやる正当性があるのか?」という質問に応えられることが重要です。面談で伝えることも有効ですが、まずは資料に盛り込みましょう。
積極的に相談することも有効
日本政策金融公庫では、事前の相談を受けつけているので、いきなり融資を申し込むのではなく、ある程度事業計画書などの資料をつくった上で、アドバイスをもらうようにすることも有効です。
言われた箇所をブラッシュアップしていけば、より融資の審査に通りやすい申込みをすることが可能です。
相談を飛ばしていきなり融資を申込み、NGとなってしまった場合は、「NGの履歴」がつくことになり、しばらく申込みができなくなってしまう(申込をしてもNG回答になる)ため、注意が必要です。
民間金融機関からの融資の審査ポイント
民間金融機関の選び方
自社と規模感が合っているか
有名な金融機関だとメガバンクを思い浮かべますが、中小企業の場合、メガバンクとお付き合いするケースは比較的少なめです。
第一地方銀行といわれる金融機関は、地域の中堅企業が主な取引先となります。
中小企業では、第一地方銀行から第二地方銀行、そして信用金庫や信用組合から融資を受けるケースが多いです。
本業支援にも力をいれているか
地域に密着した金融機関のなかには、融資先企業の課題をヒアリングし、社内のイントラネットに共有し、他の担当者と情報交換をして、企業同士のマッチングを行う本業支援にも積極的なところもあります。
本業で儲かってもらって、融資に繋がればよいとの考えから、融資先の事業の発展を一番に考え、支援しようとする姿勢をもつ金融機関も増えています。
金融機関のHPを確認したり、金融機関の担当者と話してみるなどして、自社のことを応援しようとする姿勢があるかどうかも見極めの材料です。
民間金融機関の審査のポイント
日本政策金融公庫であっても、民間金融機関であっても、後に返済してもらうお金を貸すのですから、審査ポイントは似通っています。重複するところもありますが、民間金融機関のほうが日本政策金融公庫よりも審査が厳しくなることがほとんどです。
財務内容
日本政策金融公庫の場合とほぼ同じです。先述した通り、債務超過状態だと融資がほぼ難しいことになります。実現可能性の高い5か年での経営改善計画とセットで融資を申し込むことになります。
最近では、「困っているところこそ助けよう」と積極的にリスクをとる信用金庫も登場してきていますので、絶対に融資が通らないというわけではないので、一度相談してみてもよいでしょう。
資金使途と金額の妥当性と返済財源が確保できるかどうか
何のために資金を必要とするのか、その金額は少なぎず、多すぎずの見積りになっているかどうかを審査します。また、返済財源が確保できるかどうかの見通しも同時に確認します。
これらをわかりやすく伝えるには、事業計画書の数値計画が必要です。決算書や試算表のみで審査を依頼するよりも、これからの見通しとともに、融資金額の妥当性と返済財源が確保でいることを数値計画で表したものがあるとベストです。
これがない場合は、融資担当者が自らこれらの項目を稟議書に盛り込まなければならず、融資審査に出すまでに時間がかかります。
最近の融資担当者は1人で70件以上の顧客を担当していますから、1社にたくさんの時間はかけられません。相手が稟議に上げやすい資料をこちらから準備することが融資の審査のスピードアップにつながります。
ご自身で作り方がわからない、難しいと感じられる場合は、税理士などの専門家に依頼するとよいでしょう。
保全できるかどうか?
不動産などの物的担保や連帯保証人などの人的担保があれば、審査はより通過しやすくなります。
かならずこれらがあれば、融資が通るというわけではなく、あるとプラス材料になるという位置づけです。
担保に提供できるものは、不動産だけでなく、有価証券や売掛金、預金、棚卸資産(きちんとした評価が必要)などもありますので、相談してみましょう。不動産や人的な担保を得ることができないが、法人や個人自体では融資に足る信用力を担保できない場合に、信用保証協会の保証を利用することになります。
個人の信用力の調査
融資の審査をするときには必ず個人信用情報機関の情報を参照します。
銀行は銀行系個人信用情報機関KSCだけでなく消費者金融系のJICC、クレジット系の信用情報が集まるCICのすべてに加盟しています。
経営者個人の情報を主に参照していますが、法人の場合はJICCで法人の信用情報を参照します。これらの情報機関に、過去の延滞などの事故歴が登録されていると審査は通りません。
なお、CICであれば、個人の信用情報をインターネットで確認できるので、あらかじめ確認しておくのもよいでしょう。
言うまでもなく事業そのものの有効性
最近の金融機関では、決算書に表れる数値情報のみならず、会社の強みや弱みなどの内部環境、機会や脅威などの外部情報についても積極的に情報提供を受けたいと考えています。
しかし、じっくり情報収集をするマンパワーには不足しているため、こちらから開示する必要があります。
それには、ローカルベンチマークツールが便利です。
ほとんどの金融機関では、これに沿った情報収集をしていますので、このフォームに、自社のことをまとめておき、このまま渡すと、大変喜ばれます。
また、自社のことをまとめる過程で、自らの課題にも気付けることができます。一度整理をしてみるとよいでしょう。
まとめ
日本政府は、新規開業を増加させたいと考えているので、日本政策金融公庫を通した開業支援には積極的に取り組んでいます。
また、人口減少のなか、企業が減っていくなかで金融機関同士も生き残りをかけて動いています。今は比較的融資が通りやすい時期と言っても過言ではありません。
そのためには、積極的な情報開示が必要です。自分のビジネスが、お金を出してもらう有効性があるものであること、将来性があることを、見えるかたちで表現することができれば、融資は通りやすくなると思います。
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