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事業承継を考えた際に、M&A、相続、譲渡など、思いつく手段はいくつかあります。事業承継を円滑に行えるのが「信託」という手段です。
この記事では事業承継を信託する設定方法、信託を活用した場合に考えられるメリット、デメリットを中心に事業承継を信託する特徴をお伝えします。
メリットの多い承継方法ですが、特にデメリットにも注意が必要です。
事業承継の信託とは
そもそも事業承継を信託するというのはどういうことなのでしょうか。信託の内容と設定方法を解説します。
「信託」とは、委託者が信託契約によって事業を託し、受託者が委託者の信託目的に従ってその事業を管理することを指します。
また、その事業から発生する利益を委託者から指定された受益者に与えることを約束する法律のことも指しています。
この受益者が委託者と同一でも構いません。信託は、受託者が誰かによって、「民事信託」と「商事信託」に分類できます。
信託会社や信託銀行が受託者となって信託報酬を得る営利目的の商事信託が主流でしたが、平成19年の法改正によって民事信託も利用しやすくなっています。
民事信託の場合、受託者に利益は出ません。民事信託は無償で行われますので、親族間で契約されることが多いです。
事業承継信託の場合、信託されるのは株式ですので金融機関では「自社株信託」というサービス名のこともあります。
事業承継を信託すると、事業に付帯する権利を区分して権利を行使できる者を別々に設定したり、条件をつけたりできるという点で、相続や譲渡などの事業承継方法よりも自由度が高い承継方法と言えます。
株式を一定以上所有すると経営権が発生します。後継者に確実に経営権を確立させることが、円滑な時事業承継に最も欠かせないことなのですが、これが容易ではありません。
後継者候補が複数いた場合、対立して株式の取り合いになったり、後継者に相続した時も他の親族の手に渡ってしまう場合があります。
後継者以外の人間に株式が一定数以上渡ると、株主としての権利を行使され、安定した経営に弊害がある場合もあります。
信託を設定する方法は3つあります。まずは委託者と受託者の間で信託契約を締結することです。
契約を締結した時点で効力が発生します。この方法だと受益者が契約の当事者に離れなくなります。
受益者は一方的に利益を得る存在であるため、契約当事者である必要がないと考えられているのです。
次に遺言書に信託を記載する方法です。委託者が死亡してから効力を発生します。
これまで遺言では次の次の後継者までは設定できませんでした。しかし信託という形でなら、後々の後継者まで指定することができます。
最後に自己信託です。平成19年の法改正以降から使えるようになった方法です。
自己信託では自分を委託者と受託者の両方に設定するもので、信託される事業(株式)は自己の固有財産とは切り離して考えられます。
一人の人間による契約は締結できないため、信託宣言を行うことになります、これは、委託者の単独意思表示として扱われます。
事業承継を信託するメリット
事業承継を信託するメリットについて解説します。大きく4つ考えられます。
まず最初に、確実な事業承継により経営権を確立できることです。
信託では議決権と財産権を切り離せるため、経営者が経営権を保ったまま承継準備を進められるので、経営者にとって都合のいい方法です。
また、信託の設定によっては後継者の次の後継者まで設定できるため、後々の後継者トラブルが起きにくいこともメリットとして挙げられます。
次に経営に空白期間が生まれません。事業承継を相続しようとすると、経営者の死亡後に財産分割に関する協議など様々なトラブルが発生して事業承継が完了するまでの事業の運営に支障をきたす可能性があります。
信託は委託社の死亡と同時に効力が発生するので、議決権も受益権もすぐに移動し、スピーディーな事業承継が叶います。
次に、柔軟な条件をつけられるという点です。経営者にとってはこれが一番魅力的なメリットなのでは無いでしょうか。
受益権の設定や行使の条件も経営者の意向に沿った形で詳しく設定ができます。
そのため後継者の地位が確立されやすく、その地位は脅かされにくくなります。
また、後継者が経営上重要な決定を行うときも経営者に拒否権を残せるなど、後継者が意に沿わない決定をしそうな時のことも考えて条件設定できるのも魅力的な点といえます。
最後に事業承継に信託を活用することは税金対策にもなります。信託に原則課税はありません。譲渡所得が発生したとしてもです。
ただし、信託開始時に委託者と受益者が同一で、相続後に後継者と受益者が同一になるという場合には受益権がみなし相続財産となり、相続税が課されます。
しかし、生前に高額な贈与税がかかるというようなことはありません。
事業承継を信託するデメリット
事業承継を信託する際はデメリットもあります。大きく分けて2つ考えられます。
まず最初に信託への理解が深まっていないということです。信託は比較的新しい事業承継の方法です。
そのため、事業承継に信託を活用することについて、親族内から反対意見や疑問が出ることがあります。
信託を活用することについての理解を深めるのに労力がかかるという点はマイナスポイントになるでしょう。
仕組みを理解していない人がいまだに多い方法ですので、後継者をはじめ、事業承継に関わる人間とは知識の共有をしておきましょう。
次に遺留分減殺請求をされた際の対処が定まっていません。
信託法は民法の特別法なので信託法に従って遺留分は発生しないという見解と、遺留分を認めないことが相続人の権利の侵害に当たるという見解が対立しています。
信託は設定時に他の親族が口を出せません。そして、経営者が決める条件によっては後継者のみに権利が集中しやすく、他の親族が不満を持ちやすいような内容にすることもできます。
信託を行う際に不満を持った親族が遺留分減殺請求を行い、それが法廷まで及ぶと円滑な事業承継は難しくなります。
そして先に述べたように未だ見解の定まらない論点ですので、法廷でもどういった対処になるのか不透明です。
事業承継の信託を活用する際は、不満が出ないように他の親族の遺留分も考えつつ条件付けを行いましょう。
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