事業承継税制を受けるための要件とは?メリット・デメリットも解説

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遅々として進まない中小企業の事業承継を促すため、平成30年に事業承継税制が改正され、事業承継税制の特例措置と呼ばれるようになりました。これにより相続・贈与時にかかる税金が猶予されるようになりました。

この制度を受けるために満たしていなければならない要件と、この制度の適用によるメリットとデメリットを解説します。

事業承継税制の基礎知識

事業承継税制の特例措置とは、10年間限定の措置ではありますが、事業承継時にかかる相続税・贈与税の納付が猶予される制度です。中小企業経営者の半数以上は60歳半ばを超えており、中小企業の事業承継がこのまま進まなければ、雇用の喪失や国民総生産の大幅な減少に繋がりかねない状態でした。

そこで、事業承継が進まない現状を解決するため、多くの中小企業にとって使い勝手の悪かった事業承継税制が改正されて特例措置を受けられるようになり、企業にとって有利な条件で事業承継できるようになりました。

事業承継税制は平成21年から存在していましたが、適用された会社は多くありません。改正後は猶予対象が総株式数の最大3分の2までという非上場株式の制限撤廃や、納税猶予割合が80%から100%へ引き上げられるなどの措置に変更されています。これにより贈与税・相続税の支払いは全額猶予された状態で事業承継を進めることができます。

事業承継税制を受ける要件

事業承継税制を受けるにはいくつかの要件を満たしている必要があります。以下の要件を満たしていれば、都道府県知事に相続税の申告期限の前に認定を受けることで納税猶予を受けることができます。

相続税の申告期限は相続開始の10ヶ月後なので、それまでに都道府県知事の認定が間に合うよう、相続から8ヶ月以内には認定の申請をしましょう。認定は、上記の要件を満たしているかどうかを主にチェックされます。中小企業庁のホームページにある「事業承継税制に係る認定等の申請様式」から必要な書類をダウンロードできます。

人に求められる要件 被相続人(先代経営者)が会社の代表権を保有していることと、相続・贈与開始前に議決権を50%以上保有し、後継者以外の親族たちの中で最も多くの議決権を持っていること、そして相続人は相続開始から5ヶ月以内に後継者として会社の代表権を保有すること、相続・贈与開始時点で議決権を50%以上保有しており、かつその中で最も多くの議決権を有していることが要件です。

後継者は3年以上役員の地位にある20歳以上に限定されます。 改正後は先代経営者以外から贈与される株式も猶予の対象になっています。先代経営者の贈与について適用を受けた後、その贈与税の申告期限から5年以内に先代経営者以外から受ける贈与税の申告期限が来るようにする必要があります。同時でも適用されます。

会社に求められる要件 事業承継税制の対象となる会社は、「上場企業」「中小企業者に該当しない会社」「風俗営業会社」「資産管理会社」「総収入金額または従業員数がゼロの会社」のいずれにも当てはまらないことが要件です。中小企業者の基準は資本金や従業員数などの規模によって決められ、詳細な基準は中小企業庁のホームページに記載があります。

また、猶予される相続税額に相当する額の担保の提供が必要です。一般的に非上場株式のすべてを担保として提供します。 スタートしてから5年は満たしていなければならない要件 後継者の死亡などやむを得ない場合を除き、後継者は5年は代表でい続ける必要があります。後継者が死亡した際は猶予されていた税金が免除となります。

また、5年の間に親族の議決権が50%を下回ったり、後継者が親族内の筆頭株主でなくなったりした場合は猶予が取り消されます。この場合は納税猶予の対象外となるため、猶予税額を納付する必要があります。猶予対象の株式を一部でも売却した場合も同様です。

そして、5年間は毎年都道府県及び税務署への継続届出書を提出することが必須です。この届出を忘れると猶予が取り消しになるので注意しましょう。

事業承継税制のメリット・デメリット

事業承継税制にはメリットもデメリットもありますが、メリットの方が大きい制度です。

事業承継税制のメリット

事業承継税制を受けることは大幅な節税になります。相続税猶予の条件を満たしながら会社の運営を続けていくことで、相続税が猶予されている状態が続き、実質的な免除に近い状態になります。非上場株式は換金が難しいため、改正前は、中小企業にとって事業承継は納税資金を用意してから行なわなくてはならないことでした。改正後、税金は全額猶予されるのでこのような心配はなくなりました。

この制度は10年間限定の措置であるため、事業承継をこの期間に行なうメリットは非常に大きいものです。事業承継は現経営者の引退を前提にしたことですから、なかなか周りからは言い出しにくく、事業承継が進まない傾向にありました。しかしこの制度が時限立法であるために、後継者や親族が現経営者に事業承継を促しやすいということもメリットのひとつです。

現経営者が元気なうちに後継者に事業を承継することで、後継者の事業を見守ることができますし、後継者の育成にも時間をかけることができます。 事業承継税制の適用後に業績が悪化して事業を譲渡することになったり合併で吸収されることになったりしたとしても、株の価格はその時の価値で再計算され、差額が免除されます。改正前は事実上倒産でもしない限り受けられなかった措置です。

事業承継税制のデメリット

一度事業承継税制の適用を受けたとしても、会社が条件を満たさないようになれば猶予が取り消されることもあります。猶予が取り消されると、これまで猶予されていた相続税を納付しなくてはならない上、猶予期間にかかる利子税も納付しなくてはなりません。

猶予が取り消される事由は多々あります。取得した株式を他人に譲渡した場合や、会社が「上場企業」「中小企業者に該当しない会社」「風俗営業会社」「資産管理会社」「総収入金額または従業員数がゼロの会社」に当てはまるようになった場合、会社が解散した場合などが取消事由に該当します。

また、雇用している従業員数が8割を切った時は理由を記載した届出が必要です。改正前は5年で平均8割以上の雇用を維持することが要件でしたが、改正後この要件は実質撤廃され、今は書類提出があれば納税猶予は取り消されなくなっています。

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