事業承継をするときに発生しやすいトラブルとその解決方法

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自分の息子や知り合いに事業を引き継いでもらう事業承継は様々なトラブルが発生する難しい仕事です。そのため、必要なこととは思いつつも、後回しにしがちなことといって良いかもしれません。ですが、発生するトラブルには傾向があり、対処方法も確立しています。

今回は事業承継をするときに発生しやすいトラブルとその対処法について紹介をします。

後継者に関するトラブル

事業承継するときによく起こるトラブルが「後継者がいない」というものです。企業の規模にもよりますが事業承継をするときは、一般的に親から子供へ引き継がれることが多いです。ですが、近年は少子高齢化や未婚者の増加により事業を引き継がせる子供がいないというケースが多くなり、結果として「後継者がいない」というトラブルが頻繁に見られるようになりました。

もしも息子や娘など家族の中で事業を引き継いでくれる方がいない場合は、自社の中にいる人や自身の知り合いから事業承継をしてくれる人を探す必要があります。

それでも候補者がいない場合はM&A仲介会社を利用して、M&Aを実施するようにしましょう。M&Aを利用した事業承継のメリットは「引退後の生活が保証される」という点です。買収時に発生するお金が、自身のもとに入るのでそれを老後の生活資金に当てることができます。

また、「安心して引き継がせられる」のもM&Aのメリットです。新しい人を経営者とする場合、その人が事業を運営するに足る人物かどうかは、その人を経営者にしてみないとわからないことが少なくありません。一方で、M&Aの場合は「既に安定して運営している企業」に引き継がせることになるので、新しい人物を用意するよりも安心して事業を引き継がせることができます。

ただし、M&Aは時間がかかるという点に注意が必要です。M&Aでは受け入れ先の選定をはじめ、買収金額の交渉、残すべき資産や廃棄すべき資産の決定、各種手続きなどおこなうことがたくさんあります。そのため、M&Aは1年ぐらい掛けておこなわれることが多いので、期間に余裕を持って対応するようにしましょう。

相続のトラブル

事業承継で発生するトラブルには「遺産相続に関するトラブル」というのもあります。会社の資産の中に経営者個人の資産が含まれていたり、経営者の自宅を担保にした資産があったりしないでしょうか。こうした個人と会社の線引きが曖昧な資産があると事業承継時に揉めることがあります。

経営者にすべての資産を引き継がせるようにしても、相続権のある親族が「この資産は会社から分離して、相続者たちに譲るべきだ」などと口を出してくることがあるからです。

遺産相続に関するトラブルを防ぎたい場合は、企業にどれくらいの資産があるのかを確認する事から始めましょう。企業にある資産の中で会社に所有権があるものと経営者個人に所有権があるものとをしっかりと分類します。さらに、負債などのマイナスの資産についても把握しておくようにしましょう。

資産の確認が終わったら、今度はその資産をどのように分けるかを考えます。経営者個人に渡す資産、会社で保有する資産、相続人たちの共有財産などに分類しておき、後で揉めないようにしておくことが必要です。 また、後継者にすぐに贈与できそうなものについては生前贈与をしてしまうのも有効です。

ですが、生前贈与に対して「税金がかなりかかるから嫌だ」というような良くない印象を持っている方もいるでしょう。その場合は相続時精算課税制度を活用するのがおすすめです。相続時精算課税制度を利用すると65歳以上の親から20歳以上の子供に対して贈与をするときに最大2500万円までを非課税とすることができます。

株式に関するトラブル

株式に関するトラブルもまた事業承継で頻繁に見られるトラブルです。自社の株式を経営者以外の方が大量に保有している場合は注意が必要です。そうした方がいる場合、事業承継時に「この後継者では駄目だ」などと文句を言ってきて妨害することがあります。

経営者が自社の株式を大量に保有していれば問題はないと思えそうですが、一概にそうとは言い切れません。経営者が後継者に自社の株式を譲渡する場合、相続税が発生するからです。

大量の株式を譲渡すると、受けとった側には多額の相続税が発生してしまいます。 こうしたトラブルを防ぐにはまず、「現在、誰がどれくらい株式を保有しているのか」を調べるようにします。そのときに特定の個人が大量の株式を保有している事が発覚した場合は、その人から一定数の株式を買い取ったり、新規に株式を発行したりして、後々に経営に対して口を出してこないようにしておきましょう。

また、相続税に関しては、中小企業であれば「事業承継税制」を利用することをオススメします。事業承継税制とは後継者への事業承継を促す目的で作られた制度であり、「相続税の納税猶予」が認められると後継者は一定期間、株式譲渡による相続税の支払が猶予されます。この猶予期間の間に相続した資産や株式を売却するなどして相続税の支払いに必要なお金を用意するようにしましょう。

ただし、事業承継税制は会社が解散した場合など、特定の条件を満たすと猶予がなくなってしまうことがあるので注意が必要です。

後継者のモチベーションに関するトラブル

企業によっては先代の経営者が特定の役職について後継者をサポートするというケースもあるでしょう、ですが、その場合は後継者のモチベーション維持に注意を払うようにしましょう。先代の経営者は会社のことを隅々まで知っているので的確な意思決定に下すことができるのに対して、後継者は会社のことをまだ詳しく知らないことから正確な意思決定が下せないという場合があります。

そうした状況を危なっかしくて思い、ついつい先代の経営者が後継者の代わり様々な決定をしてしまうことがあります。 こうした状況は後継者にとっては面白くありません。企業の最終意思決定者になったはずなのに、以前と変わらず先代の経営者が色々と決めてしまい、自分の存在意義が無くなってしまったと感じてしまうからです。

こうした状況が続くと「自分は何をしても無駄だ」と思ってしまい、後継者のモチベーションが低下してしまうことがあります。後継者のモチベーションの低下を防ぐには「自分があまり前へ出ない」という意識を持ち、できるだけ企業のことは後継者に任せるようにすることが必要です。後継者は自分と比較して未熟に見えるかもしれませんが、今後の成長のためにも自分は我慢して色々と経験をさせてあげることが大切になります。

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