事業承継方法の一つ「生前贈与」とは?特徴やメリット・税制について理解しよう!

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事業承継とは会社の事業を後継者に引き継ぐことですが、生前贈与によって事業承継する方法があります。具体的には、経営者が生きているうちに経営から退き、後継者に事業を贈与するのです。生前贈与を実施する時は、特徴やメリットなどを知っているといいでしょう。

この記事では、生前贈与による事業承継について紹介します。

生前贈与と事業承継の関係とは?

親族を会社経営の後継者にする場合、生前贈与による事業承継ができます。経営者が死亡した後に非上場持ち株などを相続すると、相続税の支払いが必要ですが、相続税が多いと、納税資金の確保をするため、株式を手放す場合もあるでしょう。そのような事態になると、経営権はスムーズに承継できません。円滑に事業承継するためにも、経営者が生きているうちに生前贈与をする場合があります。

生前贈与とは、生存している人が別の人に財産を無償で渡すことです。生前贈与する側は贈与者、受け取る側は受贈者といい、株式や債券は評価額で算出します。

生前贈与による事業承継のメリット

生前贈与による事業承継のメリットは、経営者から後継者に引き継ぐタイミングを見計らえることです。例えば、贈与税などを計算する時、株式は評価額から算出しますが、自社株式の評価額が低くなっている時は最適なタイミングです。贈与税がかからない範囲で生前贈与する時、自社株式の評価額が低ければ、それだけ多くの株式を贈与できます。

同時に経営者の相続財産も減らせるため、今後の相続税対策にもなるのです。しかし、相続の3年以内に贈与した資産は、相続財産として相続税の課税対象になるため注意しましょう。

また、特定の人物に事業承継できるのも、生前贈与のメリットです。生前贈与は個人に贈与できるため、後継者にしたい人に必ず承継できます。相続の場合、遺言書で任意の相手に承継したい意向は示せるでしょう。

しかし、遺留分減殺請求などで、意図しない相続がされることもあるのです。資産の自社株式を複数の相続人で分けると、議決権も分散されるため、会社の経営がうまくいかない可能性もあります。よって、生前贈与で後継者に贈与していけば、希望に沿った事業承継ができるのです。

さらに、事業承継の約5~6割は親族内承継になり、親族であれば資産などの状況を理解しているためスムーズに事業承継できるでしょう。

加えて、事業承継では経営者と後継者それぞれが会社情報や方針・抱えている負債などを理解することが必要になります。その場合でも、親族内の方が情報を伝達しやすく、なおかつ経営者が後継者を支えることもできるため、信頼がおける事業承継方法と言えるでしょう。元経営者が生存して後見人の立場でいれば、取引先や顧客も安心してくれるのです。

したがって、生前贈与での事業承継は、会社の価値や株価・利益をしっかりと計上した上で行えば、節税対策だけでなく、取引先や顧客と信頼関係の構築もできるでしょう。

生前贈与の方法1「暦年課税贈与」

暦年課税とは、1月から12月までの1年間の贈与に対する課税制度です。贈与者・受贈者の制限がなく、誰でも利用できます。また、贈与する財産の種類も制限なく、現金や預貯金・有価証券・不動産などが対象です。年間で110万円の基礎控除があり、贈与額が110万円以上の場合は受贈者が贈与税を支払います。暦年課税による贈与税は「(総贈与額-基礎控除額)×税率」で算出します。

さらに、一般贈与財産と特例贈与財産では、税率が異なります。一般贈与財産とは、夫婦や兄弟・子が未成年の親子です。例えば、基礎控除後の金額が200万円以下の場合、税率は10%なります。そして、300万円以下の税率が15%、1000万円以下は40%など、課税価格が上がるにつれ税率も高くなることが特徴です。加えて、200万円以下の区分に控除額はありませんが、300万円以下の区分からは一定の控除額が設けられ、その数値を差し引きできます。

一方、特例贈与財産とは、親や祖父母から20歳以上の子や孫に渡す贈与財産です。事業承継で活用する生前贈与は、特例贈与財産の方が多くなっており、なおかつ特例贈与財産の方が、一般贈与財産より税率は低くなっています。

暦年課税は、1年間で基礎控除額の110万円以上の贈与を受けた場合に申告します。もし、住宅取得金等資金や配偶者控除で非課税の特例を受けていても、申告が必要です。申告時期は贈与を受けた翌年2月1日~3月15日で、住所地を管轄している税務署で行います。ちなみに、申告期間を過ぎた後でも、申告をすることはできますが、延滞税や加算税が課せられる可能性もあるため、期限内に申告しましょう。

なお、暦年課税贈与を事業承継に活用する時、毎年110万円以内にとどめて、数年かけて贈与する方法が効果的です。贈与税は移転財産の評価額あたりの税率が高く、まとめて贈与してしまうと税額が大きくなってしまいます。そのため、目的に節税対策を入れている場合は、生前贈与の意味がなくなってしまうのです。

あらかじめ事業承継を完了させたい時期を決め、それまでに少しずつ生前贈与していけばいいでしょう。

生前贈与の方法2「相続時精算課税制度」

相続時精算課税とは、祖父母や親からの贈与財産価額が、2500万円までは非課税にできる制度です。贈与税は控除になりますが、相続時に相続税として加算される可能性があります。つまり、相続時に相続時精算課税適用財産と他の遺産を合わせた総額が、基礎控除額を超えた場合は相続税の対象になるのです。ただし、相続時精算課税には、いくつかの条件があるため、当てはまる人のみ適用されます。

例えば、贈与者は贈与年の1月1日時点で60歳以上、受贈者は20歳以上でなければなりません。他に、贈与者と受贈者は、親子または祖父母と孫の関係であることも条件です。この条件に当てはまらない場合は、暦年課税を選択することになります。なお、相続時精算課税を選択した時は、その後に撤回することはできません。

相続時精算課税の受贈者は、贈与者ごとに方法を選択できます。例えば、父親からは相続時精算課税で生前贈与を受け、母親からは暦年課税で贈与を受けることが可能です。ただし、相続時精算課税を選択すると、その年から贈与税の非課税枠は使えないため、利用した年以降からは、110万円の非課税枠は適用されません。

また、相続する財産総額が相続税の基礎控除額を上回る場合は、節税対策にはならないため注意が必要です。さらに、贈与額の金額に関わらず、申告は必須なので手間もかかってしまいます。

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