中小企業は独自化で生き残ろう!丸安毛糸株式会社 代表取締役 岡崎博之さん
- 創業65年のニット専門商社
- 常に新しいものを生み出そうというDNA
- ニットを作るうれしさ、楽しさを伝え続ける
中小企業が生き残っていくための一つの正解が「独自化」していくことなのではないだろうか。
そんな仮説からスタートした、経営者のインタビュー連載「中小企業は独自化で生き残ろう!」。
第10弾は、丸安毛糸株式会社 代表取締役 岡崎博之さんです。
(聞き役:頼母木 俊輔)
−カッコいいオフィスですねー!両国って下町のイメージがあったんですが、こんな素敵なオフィスがあるなんて想像もしませんでした。
岡崎)はい。そうなんです。お客様をお迎えすることが多い仕事なんでカッコよくしてなきゃダメじゃないですか。ほら。現に僕もカッコいいでしょ!(笑)
-たしかに(笑)とても55歳に見えません!と、言っておけばいいですかね?
では。まず岡崎さんの会社の概要から簡単にご説明いただいてもよろしいでしょうか。
創業65年でセーター用の糸、特に変わった糸が得意で、業界で言うとファンシーヤーンと言われる糸の企画、製造、販売に特化している会社です。
社員数は25名で20年くらい前からは、糸だけでなくセーターの製品も作る会社になっています。売上は22億で糸と製品が半々ぐらいです。
−同じような同業他社の業界の中で、うちはここは考え方が違うなとかアクションが違うなっていう部分はどんなところですか?
うちは圧倒的な製品開発力があります。当時はいっぱい糸屋さんがあったんですが、実質ファンシーヤーンの糸屋さんというのは日本で数社しかなくて、東京ではうちだけです。
−なぜ他社よりも開発力が高いんですか?
常に新しいものを生み出そうというDNAがありますね。
昔DCブームといういうのがあったんだけど、その頃からイッセイミヤケやコムデギャルソンといった、素材にこだわるお客さんの要望に答えるオリジナル商品を作ってきました。
普通のストレートの糸は相場があるんですよ。何十トンいくらみたいな。
その相場があるから利益が薄いんだけど、うちは加工しているからその相場に左右されなかった。
今はもう生産の97パーセントくらいは海外に行っているかな。国内生産は3パーセントというところですね。
−そういった厳しい市況の中で生き残ってこれたポイントは?
今話した開発力と、時代に合わせてどんどんやり方を変化させてきたことですかね。
かつては糸だけを提案すれば、デザイナーさんは自分でデザインが出来ました。
次は、編み物、テキスタイルにして、その糸の使い方から提案するようになりました。
近年は糸の提案にとどまることなく、製品の提案により、素材と製品の受注を受けています。
5年前からはオリジナルブランドを作ってパリコレに出展しています。
−なるほど、状況にあわせてどんどん次の打ち手を展開されてきたんですね。中小企業が独自化して生き残っていくためのポイントは?
独自化のポイント、うーん、なんだろうなー。
僕が社長になってからは、ニットの良さや楽しさをお客さんに伝えて、一緒に良いものを作りましょうということを、徹底してずっとやってきました。
そこに「ニットを作るうれしさ、楽しさ、そして感動を伝え続けたい」ってあるじゃないですか。僕がつくったうちの使命なんだけど。ミッションね。
昔のデザイナーさんというのは、国内に工場があったときは自ら足を運んで、一緒に職人さんとニットをつくってということをやっていました。
今は海外で生産している事が多いので、デザイナーさんが製作の現場に立ち会えることがほとんどなくなってしまい、どんどんニットをつくるノウハウとかが、わからなくなってきているんですね。
そうなっちゃうと、結果的にうちがつくっているこだわった糸を使わなくなっちゃうんですね、わからないから。
だから、業界を引っ張るとかそういうかっこいいことじゃなくて、自分たちが一番ニットが大好きで、それのプロとしてニットを作るうれしさ、楽しさっていうことを僕はずっと伝えてきたわけですよ。
企業の独自化って、それぞれの会社でやり方がいろいろあると思うんだけれども、やっぱり小さい会社は小さい会社なりの、これだけは負けない!というところを持つことなんじゃないかと思いますけどね。
−具体的にはどんな取り組みをされてきたんですか?
例えば、一緒にニットを学ぼうよということで「ニットラボ」というのを作りました。
うちのオフィスの一部を開放してデザイナーさんに自由に来てもらって、この後ろにある糸や資料とかが閲覧できるようにして使っていいですよと。
それで、わからないことがあったら、僕らなんでも教えますから呼んでくれというふうなこと始めたんですよね。
例えばデザイナーさんが、もうちょっと光沢のある糸はないですか?とか、もっと太いのないですか?とかって言うと、ああ、それならこれですよってぱっと出せるわけよ。
素材に関する引き出しが、頭の中に大量にストックされてますからね。
言わば、お客さんのショールーム兼、デザイン室みたいな感じですかね。
−素晴らしいアイデアですね。ニットが好きな人、学びたい人のためのコミュニティをつくったんですね。
モノではなく体験を売れというのは最近よく耳にしますが、それを実際に自分のビジネスに落とし込んでいくのは簡単じゃないと思います。どうやったらできるんでしょうか。
B to Bの場合は、お客さんの売上をどうやったら上げるお手伝いができるか、考えるところにヒントがあるんじゃないかなと。
このニットラボも、最近の若いデザイナーはニットのことがわかっていないという声を聞いて、じゃあその人たちがもっとニットのことを学んで、いい商品をつくることができれば、お客さんの売上が上がる!というところにヒントがあったんです。
−経営でこれはちょっと失敗だったなということは?
経営に失敗はつきものですが、1つ例を挙げるとするならば、商品ラインナップを広げすぎたときがありました。
うちの糸はちょっと変わってる糸なので、値段も少し高い。いわゆる高級ゾーンってやつです。
だけどやっぱり下の方も取ろうといって、セカンドコレクションみたいな名前をつけて、安い方も作ってみたことはありました。
そしたらそれが大失敗でしたね。安いものは岡崎さんの会社から買わなくていい。買う必要がない。と言われたりしました。
やっぱりどっちも取ろうとするとダメですね。中途半端は良くない。徹底しないとなって気づきにもなりました。
−社員の方との接し方で意識されていることは?
僕は常に社員が何をやりたいかっていうのは聞くし、それを実現させてあげようっていうのがあります。やりたいことやるのが一番いいじゃないですか。
いまパリコレに出展しているブランドも、社員が海外でブランド展開したいという要望があって一緒に動いて実現させたんです。
うちの社長はやりたいことをノーとは言わないですよねって、社員は言ってくれる。とにかくやってみなよ。それ楽しそうじゃん!って。
彼らのやる気を削ぐような事はしたくないんです。
−パリコレの出展ってやりたいといって簡単に実現できるものではないですよね?何年前から自社のブランドを展開されているんですか?
5年前です。今ちょうどパリで展示会やっているんですよ。けっこう厳しい審査があって、それに通ったブランドだけが出展できます。
僕らはまだ小さいブースだけれど、クリスチャン・ディオールとかが何億とかかけてショーをやる中の一部の展示会だからね。ブースだけで3日間で150万くらいかかります。
−初年度はどんな反応だったんですか?
初年度はめちゃめちゃ良くて、すごい売れたんですよ。ビギナーズラックと言われたんだけれども、売上はゼロかと思ったらオーダーがいきなり30件ぐらい入った。
これは簡単だと思ったの。僕らすげーじゃんと、ちょっと有頂天になっちゃって。
−それは有頂天になりますよね。
うん、なっちゃって。それから暗い時代に入っていくんだけど(笑)ちょっと過信しすぎて、次、次ってやっていったのが全く売れなかったんですね。
そうしたら、さすがパリだから、お前たち出て行けと。要は展示会のクオリティが落ちるわけじゃないですか。金出せばいいってもんじゃなくて、出て行けって言われて。
いや、待ってくれって言って、もう1回企画練り直したりなんだりして、ギリギリまた首の皮が1枚つながって、また持って行って、今度どうだって。まあまあ良くなったね、じゃあ続けなさい、みたいに言われてとかね。
−やっぱりそういうシビアな世界なんですね。それを経験したことによって、糸の販売のほうの相乗効果といいますか、何か変わったことはありますか?
僕らは自信を持ってできるようになったし、やっぱり商品やデザインに対する厳しさは磨かれた部分はあると思います。箔が付いたというか、さすがにクオリティが高いですねって言われることも増えましたね。そんなに変わってないと思いますけどね(笑)
−海外展開は若手が中心で動かれているというお話がありましたが、採用で意識していることはありますか?
積極的に新卒採用をするようにしています。以前は中途しか考えていなかったんだけど、12年ぐらい前にこれからは新卒を育てられる会社にならなきゃダメって決めたんです。
そこから若い子を入れては育てる環境をずっとつくってきたつもり。新卒を採用し始めた時の人たちが30歳ぐらいになって、いま会社の幹として活躍してくれている。
採用するのは四大でも専門卒でもいいんだけど、とにかく洋服やニットが好きという人だけ。ものづくりが好きとか、そこは絶対に大事にしています。
昨年入った女の子は、ニットが編めるし英語もできるということで、入ったその年にイタリアの展示会に同行させたらすげー声掛けるし、プレゼンするし、ちゃんとやるじゃんと思って。
帰ってきて英語でメルマガで発行したりして、そしたらそこからシャネルに繋がってオーダーが来たんだよ。すげーじゃんって(笑)
だから、どんどん下に任せるとか、一緒にやるとか、そういうのは社風としてあるよね。
−新人パワーすごい!ちなみに直近の経営課題ってどんなことがあるんですか?
経営課題としては、やっぱりつくるところがどんどん減っている。日本も海外にどんどん行っているからもちろん減っているし、原料の高騰とかいろいろあるんだよね。外部的な要因だけどそれをどうするかは考えますよね。
あと、洋服って20年後どうなるの?って、若い社員とよく話すわけですよ。服はあるだろうなとかそのへんを見据えて、世の中どうなるんだろうなということで準備していかないと。
これからどんな形になると思う?って社員に聞くと、やっぱりニットラボをつくったときよりも今の方が教えてくれ、アドバイスをしてくれって要望が強いって言うんですよ。全部お膳立てして、原料も決めてあげて、工場もセットしてあげて。
それって完全にコンサルタントみたいなもんじゃないですか、今まで業界的にそういうのっていうのはお金にできてないんですが、僕たちはこんなにノウハウ持っているんだから、それを時代に合わせてお金にしていくことも大事だよねってことを話しています。
−経営者になりたての自分にアドバイスをするとしたら、どんなことをアドバイスしますか?
川向こうにいかなくていいよ。ですかね(笑)
あ。川の向こうって隅田川を越えるって意味です。やっぱり憧れるじゃないですかー。表参道とかそっちの方って。
で、一度展示会もやってみた事あるんですけど、社員たちに、僕たちは丸安毛糸でやりたい!うちの会社で展示会したい!って言われて、そうだよなって教えられました。
社長のカッコつけに付き合わせちゃダメだなって(笑)
それと、僕も後継経営者なんですけど、焦るな!って言いたいかなー。
自分の代でなんとかしないといけない。とか、とにかく短期間で結果を出さなきゃいけない。
とか、思ったりしてたけど、背伸びしないで目の前の仕事をやる。
実践してたら結果は必ず後からついてくるもんね。
−経営で重要なことをあえて3つ絞ってあげるとしたら。
お客さんを喜ばせる。
糸のプロになる。
継続した商売をやる。
糸を売る。って、「 続 」
つまり、続けると書きますよね。
どんなに糸の会社が倒産したり、廃業したりしても、うちは1社になっても糸を売り続けようって思っていますので!
− 続ける。たしかにそうですね!素晴らしい!最後に、今後実現したいことは?
丸安毛糸を世界に通用する会社にしたいと思っています。
1つめは、素材と製品を世界に通用するものにすること。
2番目は、世界に通用する人材を育てること。
3番目が、ニットを愛する人たちが集う会社にすること、です。
3つ目が自分の中ですごい気に入っているというか、そうなって欲しいなと思っています。
「集う」というのは、目的を持って集まることを意味するんですが、僕はここをニットのきちんとした情報も、人も集う場所にしたいっていうのはずっと思っています。
そして、僕ははっきり100年企業を目指すんだということを会社で言っています。いま65年だからあと35年じゃないですか。
例えばイタリアの会社で商売していると工場に行っても、工場のおっちゃんが、うちのおやじもここで働いていたんだけれど、うちの息子も働いているんだよって自慢げに言うわけですよ。それって素敵だなと思って。
だから僕も息子にそう思ってもらえるように自信を持って仕事をしていかなきゃって思うし、その為には常に若々しく、カッコいい親父でいなくちゃなって思うんです。
− やっぱりカッコいいって大事なんですね(笑)本日はありがとうございました!
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