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従来からある事業承継税制に加えて、新たに2018年(平成30年)に創設された特例事業承継税制。
いずれの事業承継税制も、中小企業の自社株式を先代経営者から後継者に承継する際に、大きな負担となっている贈与税と相続税の資金負担を、納税猶予という方法で、軽減させようというものです。
今回は、いつ訪れるかわからない先代経営者の相続があったときに、事業承継税制が使えるのかどうか、その検討のポイントと押さえておきたい要件について、まとめました。
第1章 事業承継税制を使った方がよいケースとは?また考えうるリスクとは?
どんなときに事業承継税制が使えるとよいのか、また、一緒におさえておくべきリスクについても併せて解説します。今回は相続の場合に絞ってご説明します。
(1)事業承継税制を使った方がよいのは、相続税の納税負担が大きいケース
事業承継税制は、先述したように、自社株式を贈与や相続などで承継する際に発生する贈与税や相続税の納税資金負担を、納税猶予という方法で、軽減させてくれるものです。
自社株式にかかる対策のうち、事業承継税制の位置付けをまとめた図がこちらです。
計画的に贈与を行ってきたならともかく、急な相続の場合には、株価を引き下げる施策をとることもできず、株価が高い会社であるほど、自社株式を引き継ぐ後継者には、多額の相続税がかかることになります。
納税資金に見合うだけの現預金を先代経営者が遺していたらよいのですが、必ずしもそういうケースばかりではありません。
相続財産は自社株式と不動産が大方を占める場合は、納税資金に困ることが多々あります。
そういうケースにおいては、自社株式について、要件が合うときは、後継者にかかる自社株式の相続税を猶予するというものです。
例えば、先代経営者が亡くなったときの相続財産が、自社株式1.5億円、不動産1.5億円、現預金5,000万円だった場合、相続人が長男と次男の2人のみ、長男は自社株式を、次男が不動産を、現預金は半分ずつの相続の場合の相続税の総額は、法定相続分として半分ずつ相続したとすると、1人4,460万円となります。
もし、事業承継税制を使うことができれば、特に、現行の特例事業承継税制を使うことができれば、後継者である長男の自社株式の相続に係る相続税3,960万円を軽減でき、540万円の納税で済むことになります。
しかし、免除ではなく猶予であり、「いつかは払わないといけないもの」という位置づけになりますから、(2)で解説する通り、猶予取消しリスクが常に付きまとうことになります。
この猶予税額が免除になるケースもありますが、それは、後継者の次の後継者が、事業承継税制を使って自社株式の一括贈与を受け、事業承継税制を活用したときです。
よって、自社株式にかかる相続税が支払えないほど、資金負担が重い場合には、事業承継税制の検討はすべきですが、同時に抱えることになるリスクはあらかじめ押さえておく必要があります。
(2)事業承継税制を使う場合のリスク
先述したように、事業承継税制で払わなくてよくなった相続税は、猶予されているにすぎません。
主に下記のようなデメリットともいえる猶予取消リスクがあることは押さえておく必要があるでしょう。
雇用要件を満たさなくなった場合
相続後、雇用の8割を5年間維持しなければならないという要件があります。
満たせなくなったら、原則として、猶予された税額を支払う必要があります。
しかし、創設された期間限定の特例事業承継税制では、実質的にこの要件が撤廃されています。
雇用要件が未達成の場合でも、税理士などの経営革新等支援機関に所見を書いてもらえば、猶予が取り消されません。
後継者が代表を辞めないといけなくなった場合
相続後、5年以内に代表を辞める場合には、納税猶予が取り消され、全額を利子税とともに支払わなければなりません。
会社を売却する場合
後継者の次の後継者がいないなど、会社の株式を第三者の会社に売却することになった場合は、納税猶予は取消となります。
届出を怠った場合
事業承継税制を使い、納税猶予を受けた場合は、5年間は毎年、その後は3年ごとに届出を出さなければなりません。
3年ごとという管理しにくいスパンでの提出ですが、万一失念するということがあれば、能永猶予が取消となります。
そのときは、猶予された税額に利子税を加算して支払わなければなりません。
その他の場合
上場した場合や、持ち株会社を作った場合、会社そのものの解散、減資など、納税猶予が取消となるケースはありえます。
納税負担をおさえたいときには、これらのリスクを知識としてしっかり押さえたうえで、事業承継税制を活用したいものです。
第2章 いざというときに使えないと困る。満たしておくべき要件とは?
先代経営者が急に亡くなってしまった場合に、自社株式の相続にかかる相続税の資金負担が重いので、事業承継税制を使うことを検討したけれど、実は使えなかった。
こんなことがあると困りますね。どんな要件をそろえておく必要があるのでしょうか。確認してみましょう。
(1)会社の要件
事業承継税制の適用を受ける対象の会社が主な要件として、以下のいずれにも該当しないことが要件となります。
- 上場企業
- 中小企業者に該当しない会社
- 風俗営業会社
- 資産管理会社・総収入金額がゼロの会社、従業員がゼロの会社
もう少し詳しく説明しますね。
中小企業者に該当しない会社:つまり中小企業者に該当することが条件ということになります。
中小企業者とは、例えば、サービス業であれば、資本金5,000万円以下もしくは、従業員100名以下といった基準が定められています。
詳しくは、下記の図をご参照ください。
資産管理会社:資産管理会社とは、有価証券、不動産(自社使用のもの以外)、現預金等の特定の資産の保有割合が、帳簿価額の総額の70%以上の会社や、これらの特定資産からの運用収入が総収入額の75%以上の会社のことをいいます。
(2)先代経営者の要件
先代経営者である被相続人について、主な要件として以下の要件を満たしている必要があります。
- 会社の代表権を有していたこと
- 相続開始直前で、議決権を50%超保有していたこと
※厳密には、親族等を含めた株主グループで50%以上の議決権を保有し、かつ後継者を除いたこれらの者の中でもっとも多くの議決権を保有していたことが条件となります。
たとえば、先代経営者45%、先代経営者の妻15%、後継者(息子)15%だと、親族を含たグループで50%以上の議決権を保有し、かつ、このグループでの筆頭株主であるので要件を満たします。
一方で、先代経営者30%、先代の経営者の妻35%、後継者(息子)20%だと、先代経営者が筆頭株主ではないため、要件を満たしません。
先代経営者からの株式の贈与を行っている途中の場合は、こういうケースはありえます。
先代の経営者の妻からも、贈与が必要だったということがわかります。
(3)後継者の要件
経営を承継する相続人が必要な主な要件は次の通りです。
先代経営者である被相続人が60歳以上の場合は、相続直前に後継者が役員であること
※後継者を決めて入社させているが、役員にはしていないケースも多くあります。
急な相続の場合には、後継者が役員でなかったことで、事業承継税制が利用できないというリスクも生じます。
相続開始の日の翌日から5カ月を経過する日において、会社の代表権を有していること
※相続が開始したのち、5カ月以内という短い期間で、相続人の間で誰が後継者として代表になるのかを決める必要があります。まとまらなければ、事業承継税制は使えません。
相続開始時点で、後継者とその親族グループで50%超の議決権を有しており、後継者グループの中で筆頭株主であること
※相続にともなう遺産分割の結果、実質的に支配権を握っている状態になっている必要があるということですね。
※後継者が複数でも認められることになりましたが、3人が同数の株式を持つ必要はなく、上位3名が後継者であればOKとなります。
相続後、申告期限まで株式を保有し続けること
(4)手続き要件
相続税の申告期限までに、経営承継円滑化法のうちの事業承継税制の適用を受けるための都道府県知事の認定を受けておく必要があります。
相続税の申告期限は、相続があってから、つまり、先代経営者が亡くなってから10カ月です。
申告期限までに、認定を受けるためには、相続開始から8カ月以内に申請を行う必要があります。
相続税の申告期限よりも早く、手続きが必要となります。
また、(2)で説明したように、後継者が5カ月以内に代表に就任する必要がありますので、通常の相続と比べて、必要な手続きと期限がこのように加わることとなります。
急な先代経営者の相続のあとは、あらゆる面であわただしくなり、月日があっという間に経ってしまいます。
大切な手続きをしなかったために、事業承継税制が使えないということは、ぜひ避けたいものです。
(5)担保を提供する要件
猶予される相続税の金額及び利子税の金額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。
通常は、特例の適用をうける自社株式のすべてを担保に提供することになります。
詳しく知りたい方は、国税庁HP 担保の提供に関するQ&Aをご覧ください。
第3章 特例事業承継税制を相続のときに使えるのは期限がある
ここまで、事業承継税制を相続のときに使う場合のメリットとリスク、そして押さえておきたい要件を説明してきました。
事業承継税制は事業承継にかかる税負担を軽減させる効果がありますが、そもそも目的としていることは、早い段階での計画的な事業承継です。
(1)特例事業承継税制を相続に使えるのは期間限定
事業承継税制は従来からありました。
しかし、従来からある一般の事業承継税制では、相続税の猶予が受けられる株式に制限があり、全株式の3分の2まで、かつ、猶予される相続税は、80%だったのです。
実質50%程度の株式にしか、猶予を受けられなかったことになります。
しかし、2018年に創設された特例事業承継税制では、全株式が対象となり、猶予される相続税は100%と大幅に緩和される措置がとられました。
このほか、主な変更点をまとめました。
「特例」というだけあって、期限や条件があります。相続の場合の期限や条件をまとめると、下記の通りとなります。
期限:2018年1月1日~2027年12月31日までの相続に限ります。
条件:特例承継計画を策定し、認定経営革新等支援機関(税理士・商工会・商工会議所など)の所見を記載の上、2023年3月31日までに都道府県知事に提出し、確認を受けていることが条件となります。
この期限内での相続であり、「特例承継計画」の提出がないと、特例事業承継税制の適用が受けられず、100%の納税猶予を受けることができません。
ただし、2018年1月1日~2023年3月31日までの相続については、「特例承継計画」の提出は相続後であっても適用を受けられるとされています。
(2)相続まで待たず、贈与で自社株式を承継することが望ましい
(1)でみてきたように、期間限定の相続に限り、「特例承継計画」を提出した場合に限り、特例での事業承継税制の適用を受けられることとなります。
しかし、相続は人の死に関わることですから、いつその日が来るかなんて、誰にも分りません。
特例事業承継税制は、納税負担の軽減という効果をもって、本当のねらいは、「早期の事業承継計画」と「早期の事業承継」なのです。
この20年間で、社長の年齢ボリュームゾーンは、40代から60代へと大きくスライドしました。つまり、事業承継が進んでいないことを示します。
事業承継が進まないと、その会社自体がなくなってしまったり、雇用がなくなったり、産業自体の存続の危機を招きかねません。
そのため、国は、納税資金負担の軽減など期間限定の施策をもって、事業承継を自分ごととして早めに考えてもらうきっかけづくりにしてほしいという狙いを持っています。
人間の命はいつか尽きる日が来ますが、事業は尽きずに継続する前提で経営をされていると思います。
急な相続にも対応できるような特例事業承継税制として作られていますが、本当のねらいは早めに事業承継について考えて頂くことです。
事業承継をされた方の経験談では、「まだ早い」と思う段階で事業承継を考えるぐらいがちょうどいいと声があるくらいです。
(3)事業承継をする予定なら、先代経営者の生前に後継者と話し合いをし、事業承継計画を立てよう
事業承継をする予定なら、特例事業承継税制の適用を受けるかどうかにかかわらず、後継者との話し合いが必要です。
会社を引き継いでもらえるかどうか、どのようなスケジュールで引継ぎをしていくかを一緒に策定し、関係者で共有することをお勧めします。
当然、自社株式を渡して経営承継が完結するわけではありません。いつ、代表を交代するのか、その前には後継者にはどのような経験をさせておくのか、代表交代後は、先代はどのような伴走をしておくべきか、取引先へのあいさつと関係づくりはどうするか、社内への周知はどうするかなど、話し合っておいたほうが良いことは多岐に渡ります。
関係者間で協力しながら進めていく必要がありますので、それが一覧になっているスケジュール表のようなものにまとめられると良いと思います。
中小企業庁HPでサンプルが発表されていますので、ぜひダウンロードして頂き、対話にご活用ください。
中小企業庁 事業承継計画表の作成にチャレンジ!
このようにまとめることができれば、そのまま特例承継計画にアレンジすることも可能です。
(4)まとめ
今回は相続があった場合の事業承継税制が使える要件を中心に解説しました。
2023年3月31日までの相続については、特例承継計画を出していなくても、特例事業承継税制が使えますが、それ以後の相続については、特例承継計画を出していないと、適用が受けられないことになります。
ただ、相続はいつ起こるのかは誰にもわかりませんし、事業承継について、考えておくのに早すぎることはありません。
大体の目やすにしか過ぎませんが、経営者が50代後半になったとき、または、後継者が30代になった頃が、事業承継について考える最適なタイミングだと思います。
40代に事業承継をすることができれば、50代、60代での事業承継をした場合と比較して、業績が向上した企業が多いというデータもあります。
事業の永続的発展を願うならば、事業承継は避けて通れない課題です。
事業承継について、具体的に考えて、必要があれば税理士などの専門家に相談するきっかけになれば、幸いです。
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