当たり前をやめることで中小企業は独自化をしろ
- わけがわからないまま24歳で会社を継ぐ。
- 割引チラシを辞めてスタッフを知ってもらうチラシに切り替える。
- これが「当たり前」という考え方をやめる。
中小企業が生き残っていくための一つの経営の仕方が「独自化」していくことなのではないだろうか。
そんな仮説からスタートし中小企業の「独自化」について徹底的にインタビューをしてきました。
−安田さん、今日はこのインタビューを受けていただくためだけに大阪から東京まできていただいたんですよね!
ありがとうございます!感激です!パリッと仕上げられるように頑張りますね。
安田)あ!上手い!クリーニング屋なだけにって事ですね。なんかそういうくだりとか、誰かに鍛えられたんでしょう。
−よくご存知で(笑)まず、安田さんの会社の概要から教えていただけますでしょうか。
はい。そこまで言うなら、洗いざらい、なんでもしゃべりましょう。へへへ(笑)
大阪でクリーニング屋をやらせてもらっています。通常の店舗が5店舗、宅配で注文を受けて取りにいくタイプが1店舗で、あわせて6店舗、それらを洗濯するための工場が1箇所あります。1954年創業で今年で65年目、僕が3代目ですね。
−けっこうな老舗なんですね。
意外とそうなんですよ。親父に代わって、僕が24のときに社長にさせてもらって。今年で10年目になります。
−24歳で継いだんですか!めっちゃ早いですね!なにか特別な事情があったんですか?
いや、特にこれといった事情はないんですけれど、親父がけっこうな年だったので、もう息子に任せようかなと思ったらしいんです。
でも、これが実際ふたを開けてみると、借金まみれでした。
その当時の年商が3500万ぐらいの時に、1200万の借金がありました。うちは儲かっているとずっと思っていたので、マジで継いでみてびっくりしました。
−24歳でまったく状況がわからない中で、借金スタートはキツイですね。まず、どんなことからやり始めたんですか?
まずは自分が入った分の給料を稼がないといけないので、宅配のサービスを始めました。
店舗を新たに出店すると家賃や設備、人件費もかかりますが、宅配だったら自分が稼働すればいいだけで一番原価をかけずに、すぐできましたので。
ただ最初は全然売上が上がらず、なんとか1年目で300万くらいの売り上げになりましたが、苦しかったですね。
−どうやって新規のお客さんを開拓していったんですか?
正直そのときは、ただ単純にチラシをまきまくっていた感じですね。仕事終わった後に自分のコピー機でコピーして、自分でまいてました。
ちょっとだけ知恵がついてくると、一色刷りで印刷屋さんに頼んでコピーしていって、それを自分でまいていくとか。違う会社の輪転機を借りてとかやってましたね。
社内の感じは最悪でした。そのとき12人いたスタッフが10人辞めて、2人しか残りませんでした(涙)
−なんで辞めちゃったんですか?
いままで自由にのんびり働いていたスタッフなので、まったく危機感がない。それに対して、僕はとにかくお金がないということで相当あせっていました。
僕が若かったこともあるんですけど、けっこう厳しいことを言ったし、言い方も「お前何してんねん!」という言い方になっちゃってたので、それで辞めていきました。
スタッフからは当時ぼろくそに言われました。こんなところでやっていたら死んでしまうわとか。そのときはセールをガンガンやっていた時で、連日ずっと寝不足で本当に一番きつかったですね。まだ人が採用しやすい時期だったので、どうにか回りましたけれど。
そのときに辞めずに残って助けてくれたスタッフがいまも2名います。本当に感謝してますし、何があっても大切に守ってあげなきゃいけないと思いました。
僕たちがスタッフを大切にするから、スタッフも会社のことを大切にして頑張ってくれるんだなって反省しました。
−クリーニングの価格帯はほかと比べてどう設定していますか?
周りに比べたらけっこう高いんですよ。何たって僕のお店のある商店街が安売りの街としても有名なので。でもそれってなんでやと言われると、よく例え話をするんですけど、マクドがあって、モスバーガーがあったら、うちはモスバーガーだよと説明しています。ちょっと高いけど美味しいよねって。
この金額で、このクオリティならお客さんに喜んでもらえるかなというラインを模索してました。
−値段は元からその金額なんですか?それとも値段をどんどん変えていったんですか?
初めはすごい安い設定だったので3年連続で上げていきました。例えばスーツ上下で900円前後だったのが、今は1300円くらいまでになっています。ある程度上げていかないとスタッフの給料を上げることもできないので。
もちろんそれに比例して、スタッフの教育とお客さんに喜んでもらえるような品質にするために、かなり力をいれてきました。
−クリーニング屋さんって、素人からするとあまり違いがはないように思うんですけれど、それは違うんですか?同じような機械で洗ってるんですよね。
ぱっと見わからないかもしれないけど、全然違いますね。例えば使っている機械は一緒だったとしても、使い方は違うと思います。
昔から同じやり方で同じ洗剤でやっているところと、常に勉強をして、新しい洗剤や方法を試して日々アップデートしているところでは当然仕上がりに差がでます。
うちは誰の洋服なのかというのを見て、洗うように意識しています。クリーニングはただ物を洗っているのではなくて、誰々さんの大切な洋服を洗っていると気を配っています。
例えば、田中さんの洋服だなとわかれば、この人はいつも襟を立てているから、そうやって仕上げないといけないとか、そういうことまで考え洗っています。
−なるほど、そういう違いがあるんですね。あんまり比較検討しないからわかんないんですよね。初回割引とかのチラシが入ってるとそこにいったりすることもありますけどね。
うちはその割引のチラシをやめて、僕やスタッフが全面に出て、個人を出して自分たちのことを知ってもらえるようなチラシを作っています。
例えば前面に僕が五郎丸の格好をしている写真でパロディでチラシをつくったり。そんなことをやっているクリーニング屋は他に見たことないので、こんな面白い会社にクリーニングを出したいなと思ってもらえるといいかなって。
クリーニングは正直どこでもいいかもしれませんが、この人たちにお願いしたい、ここのお店にクリーニングを出したい、と思ってもらえるようにチラシを作り直しました。
値段の表記は小さくして、衣替えの7カ条とか、衣替えのやり方とかクリーニングの仕方といったような内容で8年くらいずっとやってます。
あ。ちょっとすみません。( 電話が鳴る )
( 約3分経過 )
えっと、ごめんなさい。どこまで話しましたっけ?
-チラシの続きをお願いします!
あ。そうそう。
割引チラシをやったほうが、初回の反応がめちゃめちゃいいのはやってみたので分かっています。
でも価格競争だけではしんどくなる事も経験したので、自分を売っていく、スタッフを売っていくというやり方に切り替えました。
お客さんと仲良くなるという部分に、お金と時間をけっこうかけました。
−変え始めてすぐに効果は出るんですか?
全然出ないです。全然出なくて、初めは文句が多かったですね。こんなチラシを出すクリーニング屋なんて頭おかしいんじゃないかとか、同業者からも言われました。こんなので売り上げにつながるの?とか、ふざけているのか?ってけっこう怒られました。
−同業者は関係ないじゃないですか(笑)
そうなんですよ。関係ないんですよ。関係ないんですけれど、クリーニングをバカにしているのかとか言われましたね(笑)まぁ、僕がチャラチャラしてそうに見えるのも原因かもしれませんがね(笑)
でも2、3年経ってくると、売り上げが徐々に上がってきて、お客さんもけっこう興味を持ってくれて、なによりスタッフが、自分めがけてお客さんが来てくれる事に喜びを感じて、モチベーションが上がっていきました。
結果的に今まで10年間売り上げを下げたことがなくて、ずっと上がっているのでやって良かったなって思ってます。続けるってほんま大事やなって。
−確かに、これは勢いがないとなかなかできないかもしれないですね。安田さんと同世代ぐらいのクリーニング屋さんっているんですか?
少ないです。クリーニング屋って、なかなか後継ぎがいないので。昔は良い商売だったんですけど、いまは普通通りにやっていると全然うまくいかないので継がない人の方が多いですね。
僕は逆にそういう市場のほうが面白いなと思って、そこで若さを全面的にアピールして、あそこのクリーニング屋さんいいねと言われることを目指してきました。
−クリーニングって大手の会社がいくつかあるじゃないですか。そういうところと戦うのは、けっこう大変そうだと思うのですがどうなんですか?
僕らみたいに小さいところは、大手がいてくれた方が良かったりもします。
大手はお客さんから見ると安いところにしかメリットがないので、価格競争になると僕らは絶対大手の会社には負けちゃうので。
その代わり、僕らは安売りはしないですけど、お客さんに満足いただける品質は提供できるし、小さな会社ながらもお客さんと仲良くなれる。そのへんが全く違うと思っているので。そもそも見るべき相手は同業社ではないので!
あ、なんか僕、良いこと言ってる?へへへ
−4店舗あって、お店ごとにチラシは変えているんですか?もしそうだとしたらけっこう大変ですよね。
お店ごとに全部チラシは違います。単価は高くなっちゃいますけど、そっちのほうが面白いというか。
チラシにスタッフの写真が載っているので、来店してくれた時にその人が絶対にいるようにしたいなと思って変えてますね。
チラシに顔を乗せることで、僕がお客さんのことを知らなくても、お客さんは僕の顔を知ってくれているので、社長さんですよね、いつもありがとうございますって言ってもらえます。
何かトラブルがあったときでも、顔がわかってもらえている感じで話をしてくれるので、たぶん話が通じやすいですし、お声掛けしたときの反応も全然違います。
手紙やDMとかでも、僕なりになぜクリーニング屋さんをやっているかということをお手紙に書かせてもらっています。
共感してもらって、安田さんのところに出したいと言ってもらえたので、すごくうれしかったし、それが売り上げにもつながっています。
急激には上がらず、ずっと微増ですけど、良かったなと思っています。
あ。ちょっとすみません。( 再び電話が鳴る。)
( 約3分 )
−電話が多いんですね!
すみません!社長の僕がめっちゃ顔出しをしちゃってるんで(笑)お客さんから安田社長に聞いてーなーってスタッフに声をかける事も多いんです。
だからスタッフからそのことで電話あったり、細かい事で言うと、この棚は右に置きますか?左に置きますか?的なことや、ご家族の愚痴まで(笑)
そんな事自分で考えられるやろ!みたいなのもあるんですけど、実はそれが嬉しかったりもします。これもある意味スタッフとのコミュニケーションだと思ってますので。
−経営上の判断でこれはやってよかったと思うことは他にありますか?
良かったのは、5000円以上出してもらったお客さまに対しては宅配無料にしたんですよ。そんなクリーニング屋はないのでちょっと特殊なんですけどね。
−クリーニングで5000円ってけっこうすぐにいっちゃいませんか?
はい、いきますね。だからどんどん宅配になります。でもそうなるとお客さんは便利さを優先にするので、5,000円以上でたくさん出してくれます。
そこでもともと宅配をやっていたうちのお店は、そこのスタッフを活用して対応してます。
人件費は上がりますが、変な広告宣伝費よりは、費用対効果がいいと思います。
お年寄りに関しては、正直3,000円でも持っていきます。毛布とか重いものは正直1,000円でも持っていきます。
お店の評価が良くなると働いているスタッフたちの評価も良くなると思いますし、地域の人たちに、あのクリーニング屋さんいいよねと言われるような存在になれたら良いなと思っています。
何のためにクリーニング屋があるのかと考えたときに、自分たちのためじゃないよねと思うから、そういうサービスをやっています。
もちろん経費の管理はしますけれど、それよりも、あの人のためにできることを、なるべくやってあげようというのをスタッフの人たちに伝えています。
また良いこと言っちゃった!へへへ
−逆に、これはちょっと判断を失敗したなというのは?
一番やっちゃったのは、布団のクリーニングできますと言って、半額セールをしたんですよ。
安売りが一番レスポンスが良いし、現金がほしかったのでやったら、布団が洗えないくらい集まってしまいました。
忙し過ぎてスタッフは辞めるし、ややこしいお客さんがたくさんきてクレームは多いし、儲からないで本当にしんどかった。
その時に、もう安売りはやめようと思いました。こんなことやっていたら自分のやっている仕事が嫌いになると思いましたしね。
−スタッフに接するときに心掛けていることは?
心掛けていることは、きちんと自分の思いを伝えるということ。ありがとうは必ず言う。きちんと話を聞く。
その人の長所を伸ばすということ。例えば、苦手なことを嫌々やらせるより、好きなこととか得意なことをやってもらうように心掛ける。
だから、スタッフとけっこう話をして、何が得意で何が苦手で、どういうことをしたくて、将来こういう夢があるとか、やりたいこととかはけっこう聞くようにしています。
−直近の経営課題はどんなことがありますか?
どうしてもクリーニングは波がすごく激しいんですよ。それこそ閑散期と繁忙期では月の売上が3倍〜4倍違うこともあります。
だからそれを埋めるために今後はBtoB( 企業対企業のお取引 )の仕事の割合を増やして、なるべく平らにしていきたいと考えています。
どうしてもアルバイトスタッフさんは暇なときは早く帰って、忙しいときはめちゃくちゃ働く。となりがちなので、それを平らにしたいと思っています。
あと僕らは、社員さんが5名、パートさんアルバイトさんが40名で、パートさんアルバイトさんに、いかにモチベーションを持って、働いてもらうかというところですね。
特に女性の職場なので、気持ちよく働いてもらうためにどうしたら良いかは意識しています。その人のいないところでは文句を言うのはやめようというのは徹底して伝えてますし、もし見かけたら注意するようにしています。なかなかこればかりは難しいんですけどねー!
−中小企業が独自化していくためのポイントはどこにあると思いますか?
これが独自化につながるかわかりませんが、うちでは「当たり前」というのはやめようと言っています。
このクリーニングの仕方って当たり前だよねというのはやめよう。こうやったらもっといいんじゃないかとか、常に変化をしていこうと伝えています。
−普段ルーティンで作業していくと、どうしてもこれが当たり前といったようになるじゃないですか?どうやったら当たり前という意識にならないんですか?
数字をつけて見える化するようにしています。例えば、今日はジャケット20点を仕上げました。1カ月後には21点にしてねと。そうじゃないと成長していないよねって。
この機械の置き方を変えようとか、ハンガーはこっちから掛けようとか細かい変更はガンガンやってます。
小さいことかもしれないですけど、クリーニング屋さんって本当にルーティンばかりの仕事なので、そうやって常に改善していく意識がないとダメだなと思います。
−経営で重要だと思うポイントを、あえて3つに絞って挙げるとしたら?
役に立てること、
愛を届けること、
それと常に明るく楽しく!
ってことですかね。
−今後実現させたいことは?
スタッフの保育所を実現させたいのと、コインランドリー付きのカフェが作りたいです。主婦の人たちが洗濯をゆっくりしながらお話できるような場所とかです。
僕も小さい頃にこの商店街で育ったんですけど、周りのお店のお父さんお母さんがめっちゃ可愛がってくれてたんです。
そんなお店が今はシャッターが閉まってるところも多くて少し寂しいですし、1つのお店が元気良くなれば、周りも少しは元気になるんじゃないかなーなんて思ってます。
いや、実はこれ以外にもたくさんあって。でもやりたい事が多いって良いことですよね?
考えるだけでワクワクしますもん!へへへ。がんばります。
− 経営者になりたての自分にアドバイスするとしたら、なんてアドバイスしますか?
人の目なんか気にするな、ですかね。
あれをやったらあの人になんか言われるかな、あれをやったら怒られるかなとか気にするなと。僕、意外と気にするタイプなので。
あとは調子に乗るなよという感じ。すぐに調子に乗っちゃうから(笑)
あ。もう1つ。
電話ばかりするなよ。ですね!
− いやいや、今もずっと電話してましたよ!きっとそのアドバイス効果ないですね!
調子に乗っている感じがでるように、襟を立てた感じの仕上げにしておきますね(笑)ありがとうございました!
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