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働き方改革と起業ブームも相まって、自分もいつか会社をもって社長になりたい、経営をしてみたいという気持ちを持たれる人が増えているように思います。
しかし、たいていの方の人生の中で、会社を設立するという経験は、何度もあるものではないと思います。多くの会社設立とその後の経営に関わってきた税理士としての立場から、会社の作り方とそのポイントについてまとめました。
第1章 事業するなら法人か個人事業か?メリットとデメリット
起業を希望する方から、よくある質問が、法人を設立した方がいいのか、個人事業主として起業した方がよいのかということです。
どのような基準で選択すればよいのでしょうか。会社設立(法人化)のメリットとデメリットを比較してみましょう。
(1)会社設立(法人化)のメリット
信用面でのバックアップになる
これは行う事業にもよるのかもしれませんが、一般的に株式会社などの法人の方が、信用されやすいという面があります。
例えば、比較的大きな企業と契約するのに、法人でなければできないというケースもあるようです。個人事業者の場合は、代理店などを挟んで契約できるケースもあるそうですが、手続きはやや煩雑になります。
融資を受けやすくなるという一面もあるようです。
許認可事業を行いやすくなる
法人で得た許認可は、代表者である社長が交代しても、法人に帰属することになります。一方で、個人事業者で得た許認可は、個人が廃業すれば、許認可も失うことになります。
例えば、人材派遣業の許認可を法人が得ている場合は、社長が年老いたのちであっても、許認可は会社に帰属しますから、後継者に引き継ぐことが可能となり、事業承継のハードルも下がります。
有限責任であること
「株式会社」や「合同会社」は、「有限責任」と言われます。
どういう意味かというと、会社の資金繰りが行き詰まり、倒産をしたときなどには、株主は、債権者に対して、出資額を限度として、責任を追うということになります。
もう少しわかりやすく説明すると、500万円を出資して、資本金500万円の株式会社を設立したとします。万一会社が1,000万円の借金がありながら倒産しても、株主の責任範囲は、原則として、出資分の500万円のみとなります。すでに出資した500万円を失うのみで、私財を投げうって残りの500万円を支払う必要がないということです。
しかし、日本の中小企業の多くは、株主が社長をやる、オーナー社長により経営されています。中小企業が金融機関から融資を受ける際には、社長の個人保証を求められるケースが多くあり、会社がお金を返済できなくなった場合には、社長個人が肩代わりすることになることが一般的です。
多くの中小企業の社長は、形式的には有限責任ですが、事実上は無限責任を負っているということになります。
最近では「経営者の保証に関するガイドライン」が浸透してきており、条件はありますが、必ずしも融資を受ける際に個人保証をしなくてはならないわけではありません。日本製策金融公庫での創業融資は、原則個人保証なしで申し込むことが出来ます。
個人事業者よりも経費にできるものが多くなる
個人事業者で起業するよりも、経費にできるものが多くなります。
例えば、家を借りる場合であっても、会社が契約することによって、社宅扱いとすることが出来ます(ただし、一部を住む本人負担にしないと、経済的利益として所得税がかかってしまうので注意が必要です)。
また、経営者を被保険者とした生命保険料についても、一定の範囲で経費にすることができます。これは個人事業者ではできないことです。
出張の際に、出張者対して支給する出張日当についても、経費にすることが可能なのは、法人だけです。
こちらにも記載しておりますので、ご参照くださいね。
先に知りたかった…!起業家が悔やんだ「テッパンの節税」10選
(2)会社設立(法人化)のデメリット
一方で、法人化するデメリットもいくつかあります。法人化を志向することは前向きな理由があることが多いので、法人化のメリットが多く語られる傾向にあると感じていますが、デメリットについてもしっかり把握したうえで選択していただきたいものです。
法人を維持するためのコストがかかる
法人を維持するためには、個人事業者よりもコストがかかることになります。
例えば、赤字であっても支払わないといけない地方税の均等割です。年間7万円程は毎年かならずかかることになります。
また、法人の決算申告には、専門的な知識が必要であり、個人事業の確定申告よりも複雑です。税理士に依頼するケースがほとんどで、税理士コストがかかります。
会社の事業内容や移転のたびに登記という手続きが必要になり、登記費用や司法書士への手数料がかかるなどのコスト増も見込まれます。
社会保険には強制加入である
法人を設立する際に、必ずネックになるのが、社会保険に強制加入という点です。
法人化すると、会社に属する役員、従業員(パート・アルバイトに関しては、正社員の2/3以上の勤務実績がある方)に対して、社会保険に加入する義務が発生します。
社会保険料は、健康保険料と厚生年金保険料を併せてこのように言われますが、会社は、給与の約15%ほどの社会保険料を負担しなければなりません。
具体的には、役員(社長)の年収が1,000万円で、年収500万円の社員を2人雇う場合は、2,000万円×15%である300万円が、年間に負担することになる社会保険料です。
本人負担も同じくらいあり、本人負担分は給与支払の際に天引きし、納期限には会社負担分と本人負担分を併せて納付する必要があります。
この納付が、かなり負担を重く感じさせているように思います。
ここまで、法人化のメリット・デメリットを挙げてきましたが、いかがでしょうか。意外とコストが多いなぁと感じられたのではないでしょうか。世の中にある法人は、これらのコストを支払って、それでも会社であることを選択しています。
法人化を検討する際には、新たにかかるコストも見込んで、数値計画に落とし込み、どのくらいの収益が必要なのかというシミュレーションが必要です。
第2章 会社の設立の流れ
次に、会社を実際に設立するステップについて、解説します。
(1)会社形態を決めよう
法人には、「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」などの選択肢があります。
おすすめは「株式会社」と「合同会社」です。日本で広く事業で使われています。「合名会社」「合資会社」を採用しているケースは少なく、また無限責任となる会社形態であるため、おすすめしておりません。
株式会社とは
株式会社は、一番メジャーな会社形態です。株主が出資をし、株主総会によって、経営者を選任して経営を任せることを前提とした会社形態です。
合同会社とは
合同会社は、出資する人と経営をする人が同じという前提での会社形態です。
設立時の定款認証がない、登録免許税が安いなど、株式会社と比べて、設立費用を安くすることが可能です。
まだまだ日本では知名度が低い合同会社ですが、アップル社は「合同会社」です。
なお、合同会社の場合は、将来的にバイアウト(株式売却)を目指す場合は注意が必要です。株式会社の子会社になるには少し煩雑な手続きが必要になるからです。場合によっては、合同会社を株式会社に組織変更してから、株式を売却するケースもあります。
(2)会社名を決めよう
今後自分の会社の看板となる会社名です。法人は「法によって人格をあたえたもの」という通り、法人には人格があります。その人格に名前をつける、これが法人の名前を決めることです。
ルールとしては、株式会社あるいは合同会社という言葉を、会社名の前か後ろにつけることになり、「ひらがな」「漢字」「ローマ字」が基本となります。
会社名の候補を挙げたら、インターネットで検索し、近所に同じ名前の法人がないかなども確認しておくとよいでしょう。
また、ホームページの開設も視野に入れ、取りたいドメインが空いているかどうかも確認しておくとよいです。
会社名を一度決めて登記したのちに、会社名を変更すると、登記が必要となり、コストがかかります。じっくり考えて、変更がないようにしましょう。
(3)本店所在地を決めよう
本店所在地は、会社の住所をいいます。事務所や店舗がある場合はその場所を本店所在地にしてもよいですが、ない場合はとりあえず自宅とするケースもあります。
自宅を本店所在地にするには、念のため、貸主の許可を取っておく方が無難です。事務所としての賃貸をOKとしていないケースもありうるためです。
コワーキングオフィスに本店所在地を置くことも可能ですが、登記が可能かどうかをコワーキングオフィスにあらかじめ確認しておく必要があります。
本店所在地に、税務署をはじめ行政からの郵送物が送られてくることになりますが、本店所在地として記載した住所に、その法人があるとみられない場合は、郵送物が返送されてしまいます。
かならず郵送物が届き、自ら確認できる場所にしましょう。
(4)事業目的を決めよう
事業目的を登記簿や定款に掲載しますので、事業目的を明文化する必要があります。
特に登記簿は、誰でも閲覧できるものになりますので、何をやっている会社かが一目でわかる事業を記載したいものです。
登記簿に載せる事業目的は、必ずしも現在行っている事業のみでないといけないというルールはなく、将来的に行う可能性のある事業についても掲載しておくとよいでしょう。
登記後に事業目的を追加する場合には、別途登録免許税が3万円ほど必要となってしまうため、注意が必要です。
(5)資本金を決めよう
資本金をいくらにするのかを決める必要があります。現在の制度では、資本金はいくらでも設立することができます。1円でも設立が可能です。
ただ、資本金は、最初に会社に入れるお金のことを意味しますので、資本金が少なすぎると、わずかな赤字で債務超過になり、ダメージが大きいです。
また、融資を受ける予定であれば、資本金は自己資金とみなされ、日本政策金融公庫であれば、必要資金の1/10を用意する必要があります。創業に2,000万円必要なのであれば、最低でも200万円の資本金がないと、1,800万円の融資を受けることができません。
資本金は、個人の銀行口座に入金しておき、そのコピーが登記手続の際に必要となります。無理のない範囲で、しかし、お金がなくなってしまっては会社は倒産してしまいます。その後の会社経営のやりやすさを考えると、出来るだけ多くの資本金を準備することに越したことはありません。
資本金によって、かかる税金も変わります。詳細は、こちらをご参照ください。
会社設立する際の資本金はいくらにすると損しない?資金繰りや信用面、税制面から検討してみました
(6)事業年度を決めよう
事業年度を決めるということは、簡単にいうと決算月をいつにするかを決めるということです。
個人事業であれば、12月末が1年の最終日となり、1年の収支をまとめ、3月15日までに確定申告を行います。
一方で、法人であれば、決算月は自由に決めることができます。
親会社があり、親会社に揃えないといけないケースは別ですが、比較的忙しくない月を決算月とするとよいかと思います。決算月には、決算の検討をし、対策を打つ月となります。従って、本業で忙しい時期は避けておきたいものです。
決算月の設定によって、消費税の免税期間にも影響を及ぼします。こちらの記事もご参照ください。
起業当初は消費税が免除される?免除期間の上手な設定の仕方と落とし穴とは?
(7)会社設立の際の注意点
複数人で出資をして会社をつくる場合は注意しよう
複数人で出資をし、会社をつくるケースもあると思います。例えば、ビジネスパートナーと一緒に出資して設立する場合です。
この場合、持株比率を50%と50%にすると、2人が対立すると決めごとが決まらず、経営が進まない恐れがあります。代表者となる方については出来れば2/3、せめて51%は保有しておきたいものです。
第3章 会社の作り方について相談できる専門家は?
起業当初は少しの支出も惜しいもの。会社設立の手続きを専門家に任せず、自分で行う方も少なくありません。
しかし、費用はかかってもプロに任せることができれば、起業家にとって大切な時間を節約することが可能です。本業を軌道に乗せることに時間を使うことが出来ます。
我流で登記をして、後でやり直しが必要になり、かえって費用が必要となったというケースも見受けられます。プロに頼んで、トータルで時間とお金を節約するという考え方はいかがでしょうか。
では、会社の作り方について、相談できる専門家はどの士業でしょうか。それは、司法書士となります。司法書士は登記を行うことができるため、司法書士に一度任せることができれば、法務局に自ら出向くことなく、設立の手続きを代行してもらえます。会社形態の選択についてもアドバイスをもらえます。
また、会社設立の際には、ぜひ税理士にも一度相談されてみてはと思います。会社設立のあとには、会社設立届や青色申告承認申請など、税務の届出も多くあります。届出によっては任意のものもあり、インターネット上でも情報は多いですが、自社にあった方法を選ぶのは専門家に任せる方が長い目でみて有利です。また、税理士はお金のプロであり、多くの会社の経営をみている立場でもあります。
自分のやりたいことに対して、会社でやるべきなのか、個人事業で様子を見た方がいいのか、また、資本金はいくらにする方がよいのかなど、経営計画などのシミュレーションを通して試算をしてくれる税理士事務所がおすすめです。
はじめは敷居が高く感じるかもしれませんが、一度相談しておくと、会社の形態から経営計画、融資の相談、そして経理体制の作り方までアドバイスをもらえることが期待できます。司法書士はもちろん、税理士にも一度ご相談されるとよいでしょう。
まとめ
会社経営や事業は、会社設立をしてからがスタートです。会社を作るのは、書類を書いてお金を支払えばできますし、だれでも社長になることができます。
しかし、大切なのは、会社を発展させながら継続していくことです。せっかく志あって会社を作るのですから、「何としても会社を存続させる」強い気持ちをもって取り組んで頂きたいと思いますし、中期経営計画などで当面の事業計画を見える化しておくことをおすすめします。
「計画通りにいかないから」といって計画を作らない方もいらっしゃいますが、計画通りにいくことが目的ではなく、計画とのギャップを把握し、課題を見つけるために、計画というモノサシが必要です。
必要に応じて専門家の力を借りながら、また、起業や会社経営の先輩からの助言も受けながら、後悔のない起業・会社設立を実現していきましょう。
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